パスゴール理論とは?4つのスタイル・SL理論との違いを解説

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時代によって「そもそもリーダーシップとは何か」や、求められるリーダー像も変わってきていますが、これからリーダーになる人に知っておいてほしい基本的な理論がいくつかあります。その1つが、「パスゴール理論」です。

本記事では、パスゴール理論とはどのような考え方なのか、リーダーシップの4つのスタイルと、パスゴール理論を活用しているのにうまくいかないときに考えられること、パスゴール理論とSL理論の違い、さらに近年注目を集めているリーダーシップも紹介します

 

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パスゴール理論とは

パスゴール理論は、1971年にロバート・ハウス(Robert House)氏により提唱されたリーダーシップ理論です。「パス」は「pass(渡す)」ではなく「path(道筋)」、「ゴール」は「goal(目標)」を意味しています。簡単に表すと、「メンバーがゴールに到達できるように、どのような道筋を通ればよいか示すことがリーダーシップである」という考え方です

このパスゴール理論では、リーダーはメンバーの状況やビジネスの状況に合わせて、以下の4つのリーダーシップのスタイルを使い分けていくことが効果的だとされています。

  • 指示型リーダーシップ
  • 支援型リーダーシップ
  • 参加型リーダーシップ
  • 達成志向型リーダーシップ

それぞれのリーダーシップのスタイルについては、のちほど詳しく紹介します。

これまでにさまざまなリーダーシップ理論が提唱されていますが、パスゴール理論は、リーダーシップの「条件適応理論」の1つです。

条件適応理論とは

条件適応理論とは、リーダーは、自身が置かれている状況(メンバーの状態、ビジネス環境など)に合わせて、行動を変化させていくことが効果的であるという考え方です「条件適合型理論」「コンティンジェンシー理論」と呼ばれることもあります。

条件適応理論が生まれた背景

リーダーシップに関する研究は、アメリカを中心に1900年代から行われていたといわれています。かつては、リーダーは生まれながらにして資質を持っている人がなれるものだと考えられていました。そのため、1940年代頃までは、優れたリーダーの特性(性格、個性など)を特定しようとする研究が盛んに行われていたのです。リーダーの特性に着目した理論は、「特性理論」と呼ばれています。

しかし、次第に優れたリーダーに共通する特性はないということがわかってきました。そこで、次は「リーダーは行動によってつくられる」と考えられるようになり、リーダーの行動に着目した「行動理論」が提唱されるようになります。さまざまな理論がありますが、三隅二不二(みすみしゅうじ)氏のPM理論のように、「業績面」と「人間関係面」の2つの面によりリーダーシップは発揮されるとしたものが多いです。

しかしその後、企業が巨大化・複雑化していくと、これまで優秀だったリーダーが、状況が変わるとリーダーシップをうまく発揮できなくなる現象が発生しました。そして、リーダーシップはリーダーの行動だけで決まるのではなく、環境によっても変わると考えられるようになり、環境にも着目した条件適応理論が生まれたのです。

その後も、リーダーシップ理論は時代とともに変化しています。リーダーシップ理論の歴史は、以下の記事で詳しく紹介しています。

リーダーシップとは?定義や理論をわかりやすく紹介

パスゴール理論は期待理論をベースとしたもの

パスゴール理論は、ビクター・ブルーム氏が1964年の著書「Work and Motivation」のなかで発表したモチベーションに関する理論、「期待理論」がベースになっています。期待理論は、簡単にいうと「努力した結果として何か得られるものがあれば、モチベーションは高まる」という考え方です。ビクター・ブルーム氏の期待理論では、「期待×誘意性×道具性」でモチベーションは決まるとされています。

  • 期待……努力すればどれだけのことを成し遂げられるか。
  • 道具性……成し遂げることができれば何が得られるか。
  • 誠意性……得られるものにどれくらいの価値があるか。

これらの掛け合わせでモチベーションが決まるとされているため、どれか1つでも「0」以下ならモチベーションは上がらないというわけです。

この期待理論をベースとしたパスゴール理論では、リーダーが状況に応じて道筋を示すことができなければ、メンバーのモチベーションは下がるとされています。

参考:リーダーシップを発揮しよう テキスト – 厚生労働省(PDF)

パスゴール理論のリーダーシップの4つのスタイル

ではここからは、パスゴール理論の内容を詳しく紹介していきます。パスゴール理論では、「環境的な条件」と「メンバーの個人的な特性」の2つの組み合わせにより、リーダーがとるべき行動は変わるとしています。

環境的な条件

業務や権限体系の明確さ、チームワーク など

メンバーの個人的な特性

メンバー個人の能力、経験、自立性 など

リーダーの行動、つまりリーダーが選択したリーダーシップのスタイルが、この条件・特性と適合すれば、うまくリーダーシップが発揮され、結果(業績、満足度など)につながります。逆に、リーダーシップのスタイルと条件・特性が調和しなければ、リーダーシップは発揮されず、メンバーのモチベーションも下がってしまいます。

では、ロバート・ハウス氏による4つのリーダーシップのスタイルを、1つずつ詳しく見ていきましょう。

1.指示型リーダーシップ

指示型リーダーシップは、メンバーに対して期待を示し、仕事のプロセスや効果的に業務を進める方法を具体的に示すというスタイルです。メンバーが確実に理解できるように、リーダーは明確な指示を出します。

メンバーの経験が少ない、もしくは能力が低い場合には、指示型リーダーシップが有効です。または、ゴールがあいまい、タスク配分や役割分担がきちんとできていないような場合にも適しています。リーダーから何をすべきか、その方法を明確に示すことで、メンバーのストレスを減らし、満足度を高めることができるでしょう。

逆に、メンバーに十分な経験があり能力も高い場合や、ゴールとやるべきことをメンバーが明確に理解できているような場合には、指示型リーダーシップは適していません。このような場合にあまり細かく指示を出すと、「マイクロマネジメントだ」と感じられてしまう恐れもありますので、注意しましょう。

ただ、メンバーの経験や能力が高くても、立ち上げたばかりでまとまっていないチームや、緊急性が高い場面などでは、指示型リーダーシップが有効なこともあります。

2.支援型リーダーシップ

支援型リーダーシップは、チーム内に信頼関係を構築して、メンバーを尊重し、感情にも配慮して、仕事をスムーズに進められるような体制を作るというスタイルです。「支援型」という名前の通り、メンバーに指示することよりも必要な支援を行うことを重視しています。

支援型リーダーシップは、業務が明確でメンバーそれぞれがタスクを遂行しているときや、リーダーとメンバーの権限がはっきりしている場合に有効とされています。

たとえば、ルーティンワークを行う職場です。ルーティンワークは、基本的に毎日同じ仕事をこなします。メンバーもやることはわかっているため、そこまで多くの指示は必要ないでしょう。また、ルーティンワークは同じことを繰り返すため、どうしても仕事自体の満足度は低くなりやすいといえます。リーダーは、人間関係なども含めて環境を整え、必要な支援をすることで、その部分を補うことができるでしょう。

3.参加型リーダーシップ

参加型リーダーシップは、意思決定にメンバーの意見を取り入れるというスタイルです。何かを決定しなければならないときに、リーダー一人で決めてしまうのではなく、メンバーと相談や意見交換をして、可能な限りメンバーの提案を活用して決定を下します。

参加型リーダーシップは、メンバーが経験豊富で能力や自律性も高く、自己解決する意欲を持っている場合に有効とされています。

たとえば、高度な専門性が求められる仕事で、迅速な対応が求められるようなケースです。このようなケースで、メンバーの経験値と能力、自律性も高いなら、メンバーにある程度権限を与え、「自分も意思決定権を持っている」と認識してもらい、参加型リーダーシップを発揮するのが効果的と考えられます。

4.達成志向型リーダーシップ

達成志向型リーダーシップは、高い目標を設定して、メンバーに努力して達成することを求めるというスタイルです。目標を達成する手段、方法などはすべてメンバーに任せます。

達成志向型リーダーシップは、メンバーが経験豊富で能力・自律性も高く、仕事が困難であいまいな場合に有効とされています。努力して目標を達成することができれば、メンバーの「努力すれば成果は得られる」という期待が増すでしょう。さらに、難易度の高い目標にチャレンジしてもらうことで、急激な成長も期待できます。

ただ、このリーダーシップが有効なケースは、実際にはかなり限られると考えられます。メンバーの経験値や能力が高くても、自律性や成長意欲が低い場合には逆効果になってしまうこともあるかもしれません。指示も支援もしてくれないリーダーに不満を抱くようになる、高すぎる目標を与えられてモチベーションが下がってしまうなどの可能性が考えられます。

リーダーシップを発揮できないときに考えられること

パスゴール理論は、多くのテキストや書籍でも紹介されている基本的なリーダーシップ理論であるため、仕事のなかで活用しているという方も多いでしょう。パスゴール理論を活用しているのにうまくリーダーシップを発揮できない場合、何が原因なのでしょうか。

まずは、状況を正しく認識できていない可能性が考えられます。先ほどお伝えしたように、パスゴール理論は「環境的な条件」と「メンバーの個人的な特性」の組み合わせから、適切なリーダーシップのスタイルを選択します。うまくリーダーシップを発揮できていないなら、このどちらか、または両方について誤って認識しているのかもしれません。改めて、この2つを見直してみてはいかがでしょうか。

または、環境と自身が選択しているリーダーシップのスタイルが合っていない可能性も考えられます。ビジネス環境は変化させることができませんので、リーダーシップのスタイルを変えるか、パス(道筋)の環境を変化させてみると、もしかしたらうまくいくようになるかもしれません。

参考:「図解入門ビジネス最新リーダーシップと実践がよ~くわかる本」(著者:杉山浩一 / 出版社:秀和システム / 発売:2009年)

パスゴール理論とSL理論の違い

SL理論も、パスゴール理論と同じく条件適応理論の1つです。「SL」はSituational(状況の、場面の)Leadership(リーダーシップ)の頭文字をとったもの。パスゴール理論のように、状況に合わせて4つのリーダーシップのスタイルを使い分けるという理論です。SL理論は、パスゴール理論が提唱された数年後の1977年に、ポール・ハーシー氏とケン・ブランチャード氏により提唱されました。

先ほど紹介したように、パスゴール理論は「環境的な条件」と「メンバーの個人的な特性」から最適なリーダーシップのスタイルを選択しますが、SL理論は、メンバーの「成熟度」に合わせてリーダーシップのスタイルを選択します。そして、以下の図が示すように、リーダーシップのスタイルを「徐々に」変化させていくというのが大きな特徴です。

メンバーの成熟度は、S1S2S3S4の順に高くなっていきます。そして、SL理論における4つのリーダーシップのスタイルは、以下の通りです。

  1. 指示型リーダーシップ……メンバーに具体的な指示を出し、細かく管理する。
  2. コーチ型リーダーシップ……メンバーの質問に答え、メンバーの考えを尊重し、自律的に動けるようになってもらうことを目指す。
  3. 援助型リーダーシップ……メンバーの相談に乗ったり、必要な支援をしたりすることで成長を促す。
  4. 委任型リーダーシップ……目的のみを共有し、やり方・責任はメンバーに委ねる。

SL理論を活用するときは、メンバーの成熟度を正しく見極めること、そして、先ほどお伝えした通りリーダーシップのスタイルは「徐々に」変えていくことが重要とされています。SL理論について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

SL理論とは?リーダーシップの4つのスタイルと活用のポイントを解説

近年注目を集めているリーダーシップ

現代は、「VUCA時代」と呼ばれるほど環境の不確実性が高くなっています。パスゴール理論は、現代でも通用する理論ではあるものの、問題点を指摘されることもあるようです。たとえば、パスゴール理論は期待理論がベースとなっていますが、環境の不確実性が高い状況においては、何が期待できるのかを予測するのが難しいということ。また、パスゴール理論はリーダーがメンバーよりもゴールまでのパスをよく知っているということが前提となっていますが、現代においてはリーダーがそれを知らない、もしくはメンバーのほうがその分野について詳しいというケースも少なくありません。

参考:環境不確実性が大きい状況におけるリーダーシップ(小久保 みどり) – J-Stage(PDF)

そこで最後に、このような現代において注目されている2つのリーダーシップを紹介します。

サーバントリーダーシップ

サーバントリーダーシップは、従来のリーダーシップを「支配型」とするなら、「支援型」のリーダーシップといえます。メンバーに奉仕し、信頼関係を築いていくというリーダーシップのスタイルで、これを発揮することでメンバーのモチベーションや生産性の向上につながるとされています。

サーバントリーダーシップは、1970年にグリーンリーフ氏により提唱されたものですが、今改めて注目されるようになっています。

サーバントリーダーシップには、10の特性があります。詳しくは、以下の記事で解説しています。

サーバントリーダーシップとは?特徴や10の特性について解説

オーセンティックリーダーシップ

オーセンティックリーダーシップは、2003年にアメリカのメドトロニック社の元CEOであるビル・ジョージ氏により提唱されたものです。決められたリーダーシップの「型」や誰かを真似るのではなく、自分らしさを活かしたリーダーシップを発揮することをいいます

ビジネス環境の変化に対応していくために、一人のリーダーがチームを引っ張るのではなく、一人ひとりが自分のポジションでリーダーシップを発揮し、全員で目標を達成できるようなチームづくりが求められているため、注目度が高まっているようです。

オーセンティックリーダーシップには、5つの特性があります。詳しくは、以下の記事で解説しています。

オーセンティックリーダーシップとは?5つの特性と開発方法を解説

まとめ

状況に合わせてリーダーシップのスタイルを変えていくという条件適応理論の1つ、パスゴール理論について解説しました。パスゴール理論を活用するときは、「環境的な条件」と「メンバーの個人的な特性」を正しく認識することがまずは重要です。うまくリーダーシップを発揮できないときは、この2つを改めて見直してみましょう。

パスゴール理論は、問題点を指摘されることはあるものの、現代にも通用する基本的なリーダーシップ理論です。これからリーダーになる人には、知っておいてもらうとよいでしょう。

 

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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