インストラクショナルデザインとは?代表的なモデルや理論を紹介

  • 研修ノウハウ

日本でも随分テレワークが普及し、フレックスタイム制などの多様な働き方を取り入れる企業も増えてきました。それに伴い、研修もオンライン化が進んでいます。このようななかで、効果的な研修を効率よく実施するために、「インストラクショナルデザイン」という考え方が注目を集めています。

本記事では、インストラクショナルデザインとは何か、注目されている理由と、代表的なモデル・理論、企業の教育・研修に活用するメリットを、わかりやすく解説していきます

 

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インストラクショナルデザインとは

インストラクショナルデザインとは、「効果」「効率」「魅力」の高い教育活動を設計するための手法を、体系的にまとめたモデルや理論のことをいいます。「Instructional Design」を略して、「ID」とされることもあります。英単語のインストラクション(instruction)には、「教育」や「教えること」の意味がありますが、インストラクショナルデザインは、「教え方」だけでなく、学習の支援活動をより良くしていくためのものです。

教育活動の「効果」とは、文字どおり教育の効果のことです。教育活動の「効率」とは、費用対効果を高めることを指します。できるだけ人やモノ、お金、時間といったコストを抑えながら効果の高い教育を実施し、目標を達成することを目指します。そして、教育活動の「魅力」とは、学習者の学習意欲を高め、継続させることを意味しています。

企業においても、人材育成にインストラクショナルデザインを活用することで、従業員にとって魅力的で効果の高い施策を、コストを抑えながら実施できるようになるでしょう。

参考:e-Learning実践のためのインストラクショナル・デザイン(<特集>実践段階のeラーニング)(鈴木 克明)(PDF)

インストラクショナルデザインが誕生した背景

インストラクショナルデザインは、第二次世界大戦中のアメリカで誕生しました。もともとは、多くの新人兵を急速に鍛え上げるためのものだったといわれています。その後は、さまざまな心理学の知見を取り入れながら発展し、学校教育だけでなく企業教育にも広がっていきました。そして、学習活動ごとの支援方法に合わせた多様なモデルが、次々と生み出されていったのです

欧米では、インストラクショナルデザインの研究は非常に進んでおり、インストラクショナルデザイナーとして活躍している人もいます。インストラクショナルデザイナーの役割や業務は組織によっても異なりますが、たとえば大学であればカリキュラムの設計、企業であれば研修の企画などを行います。

 

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インストラクショナルデザインが注目されている理由

欧米では、古くからさまざまな分野で活用されているインストラクショナルデザインですが、日本においては、2000年ごろからようやく注目されるようになってきました。その背景には、以下の2つの理由があります。

eラーニング・オンライン研修が普及したため

2000年ごろから、日本でもインターネットとパソコンを利用したeラーニングが普及し始めました。対面で教育・指導を行うのであれば、学習者の反応やその場の雰囲気から、「理解しているかどうか」をある程度感じ取ることができますが、eラーニングではこれができません。そのため、効果的なeラーニングを行うための手法として、インストラクショナルデザインが注目されるようになったのです

さらに、新型コロナウイルス感染症が流行して以降は、日本においてもテレワークが一気に普及し、研修もオンラインで実施されることが多くなりました。Web会議ツールなどを使えば、オンラインでも学習者と顔を合わせて、リアルタイムで教育・指導をすることもできますが、やはり対面よりは、理解度を把握したり、動機づけしたりするのが難しい部分があります。近年インストラクショナルデザインのニーズが高まっているのは、コロナ禍で研修のオンライン化が進んだことも影響していると考えられます。

研修後の行動変容が求められるようになったため

IT技術が進歩したことで、検索するだけで簡単に新しい知識を得ることができる時代になりました。しかし、知識を丸暗記するだけでは、何も変わりません。大切なのは、それを活用できるようになることです。そのため、企業研修では、その後の「行動変容」が重視されるようになってきています。

行動変容とは、研修を受けた後に学習者の行動が変わり、その行動を習慣的にできるようになることを意味しています。研修を受けた直後だけ行動が変わるのは、行動変容とはいいません。

行動変容を実現するには、「研修後にどのような行動をとれるようになってほしいか」という明確な目標を設定し、実施後にしっかり効果を測定することが重要です。のちほど詳しく紹介していますが、インストラクショナルデザインの基本的なモデルである「ADDIEモデル」は、課題の分析と目標設定から実施後の評価までがモデル化されています。これを基に研修を設計することで、行動変容につながりやすくなるでしょう。

このように、研修後の行動変容が重視されるようになってきたことも、インストラクショナルデザインが注目されている理由の1つと考えられます。

なお、人の行動はいきなり変わるものではなく、段階的に変わっていくといわれています。その段階を示した「行動変容ステージモデル」や、行動変容を促すアプローチ方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

行動変容とは?ステージモデル・アプローチ方法・ポイントを紹介

インストラクショナルデザインの代表的なモデル・理論

インストラクショナルデザインには、非常に多くのモデルや理論がありますが、ここからは代表的なものとして、以下の5つを紹介します。

  • ADDIEモデル
  • ARCSモデル
  • TOTEモデル
  • ID第一原理
  • 9教授事象

どのようなモデル・理論なのか、1つずつ見ていきましょう。

ADDIEモデル

インストラクショナルデザインのなかでも最も知られている基本的なモデルが、ADDIE(アディー)モデルです

ADDIEは、Analysis(分析)、Design(設計)、Development(開発)、Implementation(実施)、Evaluation(評価)の頭文字をとったものです。ADDIEモデルでは、この5つのプロセスにより、教育プログラムを設計します。

1. Analysis(分析)

現状の課題や理想を分析して、教育の全体像を決定します。研修を前提にするのではなく、幅広いアプローチを検討することが大切です。

2. Design(設計)

決定した教育の全体像を基に、研修の目標や実施回数、効果測定のための評価基準や評価方法などを具体的にデザインしていきます。

3. Development(開発)

デザインした内容を基に、具体的な準備を行います。研修を実施するのであれば、教材・課題の作成、講師の手配、環境整備などです。

4. Implementation(実施)

準備した教育プログラムを実施します。研修であれば、事前課題があるならその取りまとめ、当日の運営、実施後のアンケート回収といった作業も含まれます。

5.Evaluation(評価)

実施した教育プログラムの効果を検証します。受講者の理解度や行動の変化だけでなく、必要に応じてプログラムの内容や教材、講師の評価も行い、改善につなげていきます。

ADDIEモデルは、システム的アプローチを教育設計に応用したものです。一度だけでなく、この5つのプロセスを何度も繰り返して、教育プログラムをより良いものに改善していきます。そして、「評価」の観点は常に持ち、どのプロセスにおいても「必要に応じて改善」するというのも、ADDIEモデルの大きな特徴です

なお、ADDIEモデルについては、以下の記事で詳しく解説しています。

ADDIEモデルとは?効果的な研修を実施する方法・活用のポイントを紹介

ARCSモデル

ARCS(アークス)モデルは、教育心理学者のジョン・ケラー氏により1983年に提唱された、学習者の学習意欲を高める動機づけモデルです。このモデルでは、膨大な調査研究に基づいて、学習者の学習意欲を高める要因をAttention(注意)、Relevance(関連性)、Confidence(自信)、Satisfaction(満足感)の4つに分類しています。ARCSは、それぞれの頭文字をとったものです。

Attention(注意)

学習者が「面白そう」と感じてくれそうな要素を盛り込むことで、興味・関心を引き出します。

Relevance(関連性)

学習者に、「やりがいがありそう」と感じてもらえるよう、学習内容と学習者の関係性や、挑戦する価値などが伝わるよう工夫します。

Confidence(自信)

学習者に「やればできそう」という感覚を持ってもらい、成功への期待感を高めます。

Satisfaction(満足感)

学習者に「やってよかった」「またやってみたい」と感じてもらい、学習意欲をさらに強化します。

たとえば、従業員の研修に対する参加意欲が低いことが課題である場合、まずはその原因を分析して、4つの要因のうちどれに関連するのかを考えます。そして、その要因に関するヒントを参考に対策を検討するといった形で活用することができます。

なお、ARCSモデルについては、以下の記事で詳しく解説しています。

ARCSモデルとは?4つの要因や具体例、学習意欲を高めるアイデアを紹介

TOTEモデル

TOTE(トート)モデルは、目標達成までのプロセスをモデル化したものですTest(テスト)、Operate(操作)、Test(テスト)、Exit(出口)の4つのプロセスで構成されています。TOTEは、それぞれの頭文字をとったものです。

1. Test(テスト)

現状と目標(ゴール)の間にどのくらいギャップがあるのかを知るためにテストを行います。

2. Operate(操作)

テストの結果、現状とゴールの間にギャップがある場合、それを埋めるための行動をとります。

3. Test(テスト)

再度テストを行い、行動したことで現状とゴールの間にあったギャップを埋めることができたかどうかを確認します。ギャップが埋まっていなければ、「2.Operate(操作)」に戻ります。

4. Exit(出口)

テストの結果、ゴールの基準に達していれば、テストと操作のループから退出します。

活用の仕方としては、研修を実施する際に、まずは事前テストから始めるという方法が考えられます。そのテストで基準をクリアできたなら、研修を実施する必要はありません。基準をクリアできなかった場合は、対象者の現状のレベルに合わせて研修の内容を考えます。そして、研修後に再度テストを実施し、基準をクリアできるまで必要な研修を行います。

ID第一原理

M.D.メリル氏は、2002年に、複数のインストラクショナルデザインのモデルに共通してみられる特徴をまとめました。これが、ID第一原理と呼ばれるものですID第一原理では、効果の高い学習環境を実現するためには、Problem(問題)、Activation(活性化)、Demonstration(例示)、Application(応用)、Integration(統合)の5つの条件を教育設計に反映することが重要であるとしています。

Problem(問題)

実際に起こりそうな問題に挑戦する。

Activation(活性化)

すでに持っている知識や過去の経験を活用する。

Demonstration(例示)

新しく学ぶことを「伝える」のではなく「例示」する。

Application(応用)

学んだことを実際にやってみる機会をつくる。

Integration(統合)

学んだことを現場で活用し、振り返る機会をつくる。

ID第一原理では、実際に問題解決に使えるスキルの習得を重視しています。また、学習のなかに「やってみせる」と「やらせてみる」を盛り込む必要があるとしています。研修の設計に活用するなら、ケース・メソッドやロールプレイングといったアクティビティをプログラムに盛り込むという方法が考えられるでしょう。

9教授事象

9教授事象は、インストラクショナルデザインの生みの親とも呼ばれるロバート・ガニエ氏が確立した学習支援モデルです。学習の効果を高めるための働きかけを、以下の9つのプロセスにまとめています。

導入

1.学習者の注意を獲得する(学習者の「学ぼう」という姿勢をつくる)。

2.学習の目標を伝える(今日は何を学ぶのか、それがどのように役に立つのかなど)。

3.前提条件を思い出してもらう(今回の学習テーマについてこれまでに学んだことを振り返る)。

情報開示

4. 新しい事項を提示する(具体的に何を学ぶのかをわかりやすく伝える)。

5. 学習の指針を与える(たとえや語呂合わせを使ったり、これまでの学習とのつながりを強調したりして、学習内容を頭に入れてもらう)。

学習活動

6. 練習の機会を設ける(頭に入れたことを実際にやってみる)。

7. フィードバックを与える(学習者が弱点を克服できるよう、失敗に対するアドバイスを与える。良かったところはしっかり褒める。)

まとめ

8. 学習の成果を評価する(テストを実施し、目標が達成できたかどうかを評価する)。

9. 保持と転移を高める(一定の期間が過ぎてから再度テストを実施するなど、学んだことを活用できるようになるために支援する)。

研修は、ただ学んでほしいことを伝えるだけでなく、学習者の注意の獲得から、学習内容を習得して活用できるようになってもらうまで、事象ごとに支援する必要があるということです。

参考:インストラクショナルデザインによる企業での学習支援(小笠原 豊道)(PDF)

インストラクショナルデザインを活用するメリット

最後に、人材育成にインストラクショナルデザインを活用することで、具体的にどのようなメリットが得られるのかを解説していきます。

現場の役に立つ研修を実施できる

インストラクショナルデザインは、教育の出口(目標)と入口(現状)を明確にして、そのギャップを埋める教育方法を考えるより先に、目標の達成度合いを評価する方法を決めることを重視します。また、課題を解決する方法として、研修がベストな手段であるとは限らないので、「この教育・研修は必要なのか」という視点からも検討します。

研修の設計にインストラクショナルデザインの考え方を取り入れることで、現場の役に立つ本当に必要な研修だけを、効率よく実施できるようになるといったメリットが期待できます

コスト削減につながる

冒頭でもお伝えしたように、インストラクショナルデザインは、研修の効率(費用対効果)を高めるためのものでもあります。インストラクショナルデザインを活用することで、人・モノ・お金・時間といったコストをなるべくかけずに、効果的な研修を実施できるようになるでしょう。

前項でお伝えしたように、インストラクショナルデザインは、「この教育・研修は必要なのか」という視点も重要です。不要な研修を削減できれば、その分のコストや手間も大幅にカットできます。浮いたコストを本当に必要な研修に回せば、より効果的で魅力的な研修を実施することも可能になるでしょう

学習者の学習意欲を高められる

どんなに良い教育プログラムを組み立てて、教育・指導する側が熱心に取り組んだとしても、学習する側に学習意欲がなければ、高い学習効果は期待できません。また、学習者自身に成長してもらうためにも、学習意欲を高めて継続させることは非常に重要です。

ARCSモデルのような「魅力」にフォーカスしたモデルを活用することで、学習者が「できるようになる」だけでなく「もっと学びたい」と思えるような学習を提供できるようになるでしょう

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以下では、講義・アクティビティ一体型の研修テーマの例を紹介します。

1.PDCA研修

PDCA研修のアクティビティ「ロケットPDCAチャレンジ」では、パーツを組み合わせてロケットを制作し打ち上げ結果から原因を考えて、より良く飛ぶロケットに改善していき、目標の達成を目指します。

学びのポイント

  • 計画を立ててロケットを飛ばし、その結果から組み合わせの誤り・部品の不足・不良部品の有無を推察し、それを繰り返すことで組み合わせの精度を上げていく
  • 資金稼ぎ・パーツの選択・打ち上げの準備を繰り返し、作戦タイム振返りを経て行動を改善していくことで、最適化されていく

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2.ロジカルシンキング研修

ロジカルシンキング研修のアクティビティ「リアル探偵チームビルティング」では、チームに配られた断片的な情報を取捨選択し、論理パズルを完成させ、全問正解を目指します。

学びのポイント

  • 小グループで得られた情報を論理的に整理し、確定情報・曖昧情報・不要な情報を選り分ける
  • 大グループで全体に必要な情報を論理的に判断・共有することや、自分たちに足りない情報を聞き出すことが求められる。

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3.クリティカルシンキング研修

クリティカルシンキング研修のアクティビティ「混乱する捜査会議からの脱出」では、推理ゲームで論理的に情報を整理するなかで証拠の違和感に気づき、仮説立てや検証を行って目標を達成します。

学びのポイント

  • 証拠品や証言など多くの情報を手分けして読み、組み合わせて論理的に結論を導き出す
  • フェーズが進むごとに情報が増え、複雑になっていくなかで必要な情報を取捨選択する
  • 出た結論に満足せず、常に新しい情報と照らし合わせて再検証する

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4.合意形成・アサーティブコミュニケーション研修

合意形成・アサーティブコミュニケーション研修のアクティビティ「コンセンサスゲーム」では、危機的な状況下でどの物資を優先して確保すべきかをチーム内で議論し、最適な結論を導きます。

学びのポイント

  • 各々が個人ワークで考えた答えを聞くことで、チームメンバーの状況に対する認識や物資の重み付けの違いを受講者が理解する
  • 話し手は自分の答えにいたった理由を論理的・説得的に説明する
  • より良い根拠を導き出すための比較検討をして、チーム全員が納得する結論を出す

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まとめ

eラーニングが普及し、さらに近年は研修のオンライン化が進んだことで、インストラクショナルデザインのニーズがより高まっています。インストラクショナルデザインは、教育活動の「効果」「効率」「魅力」を高めるものです。活用することで、コストを抑えながら、効率よく効果的な教育・研修を実施できるようになるでしょう。

 

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アクティビティが受講者の主体性を高めてコミュニケーションを促進させ、スキルアップやチームビルディングをはかれます。
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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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