システム思考とは?代表的なツール「氷山モデル」を詳しく解説

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問題や課題の解決策を考えるときに役立つ、「システム思考」という思考法があります。複数の要素が複雑に絡み合った問題も、システム思考で考えることで、全体として最適な答えを導き出すことができるでしょう。

本記事では、まずシステム思考とはどのような思考法なのか、ロジカルシンキングやデザイン思考との違いにも触れながら、わかりやすく解説します。そして、「氷山モデル」をはじめとするシステム思考のツールと、ビジネスにシステム思考を活用するメリットも紹介します

 

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システム思考とは

システム思考とは、物事の各要素のつながりや相互作用に着目した考え方のことです。「システムシンキング」と呼ばれることもあります。問題や課題を1つの「システム」として捉えることで、全体像から本質を見極めていくというものです。

「木を見て森を見ず」ということわざがあります。これは、物事の小さい部分に気をとられて、全体像や本質が見えていないことを意味しています。たとえばビジネスであれば、目の前の短期的な利益を追求しているうちに、本来目指すべき方向性を見失ってしまうような状態です。

これに対してシステム思考は、「木を見て森も見る」考え方であると表現されることがあります

システムとは

そもそも「システム」とは何なのでしょうか。どうしても、コンピューターや機械をイメージしてしまいがちですが、英単語のシステム(system)には、体系、制度、組織、方式などの意味があります。つまり、システムは、「まとまり」や「仕組み」そのものを意味する言葉といえます

マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院上級講師のピーター・センゲ氏は、システムの例として「家族」を挙げています。家族のなかで誰かがインフルエンザにかかれば、家族内で感染が広がる恐れがあります。また、看病のためにほかの誰かが仕事を休む必要が出てくるかもしれませんし、治療費もかかります。このように、家族は何か1つが変化することで、さまざまな影響が出るのです。

システムとは、家族のように「つながり合い、お互いに影響を与え合うものの総体」と考えると、わかりやすいのではないでしょうか。

システム思考とロジカルシンキングの違い

ビジネスパーソンに求められるスキルの1つに、「ロジカルシンキング」があります。ロジカルシンキングとは、物事の要素を体系的に整理して、筋道を立てて結論を導き出す思考法です。日本語では、「論理的思考法」とも呼ばれています。ロジカルシンキングも、問題や課題の解決策を考えるときに役に立ちます。

ロジカルシンキングは、さまざまなツールやフレームワークを使って物事を整理していきます。代表的なツールの1つに、「ロジックツリー」があります。ロジックツリーは、メインテーマを一番上に置き、それをサブテーマ(構成要素)にどんどん分解して、ツリー状に図式化していくというものです。要素を「モレ・重複なく」整理することで、物事の全体像を正確に把握できます。

システム思考もロジカルシンキングも、どちらも物事の全体像を客観的に把握するという点は同じですが、ロジカルシンキングは、要素間の相互作用には着目していません。また、ロジカルシンキングは、「分解する」という特徴があるため、物事を静的に捉える考え方ともいえます。そのため、時間の流れとともに変化することを見落としやすいのです。物事を動的に捉え、要素間の相互作用に着目するシステム思考を活用することで、ロジカルシンキングだけでは解決が難しい問題も、より深く掘り下げることができるでしょう

なお、ロジックツリーについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

ロジックツリーとは?作り方・注意点・テンプレートを解説

システム思考とデザイン思考の違い

デザイン思考とは、デザイナーやクリエイターが使う思考プロセスを、ビジネスの課題解決に活用した考え方のことをいいます。スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所によるデザイン思考の5つのステップは、以下のとおりです。

  1. 共感……ユーザーのニーズを把握するために、ユーザーのことを理解する。
  2. 問題定義……「共感」で明らかにしたニーズや課題をもとに、解決すべき問題を定義する。
  3. 創造……課題を解決するためのアイデアや意見を出し合う。
  4. プロトタイプ……試作品を作り、アイデアや手法を検証する。
  5. テスト……ユーザーに試作品を使ってもらい、フィードバックをしてもらう。

デザイン思考は、「ユーザー視点」で問題を定義し、解決策を考えるというのが大きな特徴です。対してシステム思考は、物事全体を「システム」として捉えて考えていきます。どちらも問題解決に役立つ思考法ですが、視点がまったく違います。

システム思考が必要な理由

どのような組織や仕事も、さまざまな要素が複雑に絡み合っていることがほとんどです。たとえば、商品を値上げすれば、販売数量にも影響が出ます。人件費削減のためにボーナスをカットしたり、アウトソーシングを活用したりすれば、従業員のモチベーションが下がる可能性も考えられるでしょう。このように、組織というのは、どこかが変われば、そのほかの側面にも少なからず影響が出るものなのです。

さらに、近年は「VUCA時代」と呼ばれるほど変化の激しい時代になっています。これは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの頭文字をとった造語で、先行きが不透明で未来を予測するのが難しい状況であることを意味しています。経済のグローバル化、ダイバーシティ&インクルージョンの推進などにより、組織を取り巻く環境がより複雑になってきています。

このような状況のなかでは、「個別最適化」ではなく「全体最適化」を目指さなければ、問題を根本から解決するのは難しいでしょう。そのために、各要素のつながりや相互作用に着目したシステム思考が必要とされているのです

参考:「なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方」(著者:枝廣淳子、小田理一郎 / 出版社:東洋経済新報社 / 発売:2007年)

システム思考の「氷山モデル」とは

システム思考で物事を考えるときは、さまざまなツールを使います。その1つが、「氷山モデル」です。

目に見えているのは物事のほんの一部でしかないことのたとえとして、「氷山の一角」という表現が使われることがあります。「氷山モデル」は、1つのシステムを氷山にたとえて、目に見えない部分のさまざまな要素にも着目して解決策を考えていくというものです。以下の4つの視点から、物事を深掘りしていきます。

  1. できごと
  2. 変化のパターン
  3. システム構造
  4. メンタルモデル

1つずつ、詳しく見ていきましょう。

1.できごと

「できごと」とは、実際に起きたことや、具体的な問題・課題などを指します。たとえば、「提案を受けて入れてもらえなかった」「顧客からクレームが来た」「売上が落ちた」などです。

氷山でたとえるなら、できごとは海水面の上に出ている「見えている部分」です。私たちはどうしても、このできごとに注意が向いてしまいがちですが、ここしか見えていないと、できごとに「反応」しているだけの、その場しのぎの対処になってしまいやすいのです。

たとえば、「前はこうしたから同じように対処しよう」というような考え方は、できごとしか見えていない例といえるでしょう。同じようなできごとに見えても、そこに至るまでのプロセスも同じとは限りません。見ている部分だけで行動を決定していては、問題の根本は解決されないのです。

2.変化のパターン

「変化のパターン」以降は、氷山でたとえるなら、海水面より下の「見えていない部分」になります。ここでは、過去をさかのぼって時間ごとにどのような変化が起きているのかを確認し、できごとが起こる「パターン」を見つけていきます。

たとえば、「売上が落ちた」というできごとに対して、「販促キャンペーン終了後にガクッと売上が落ちることが多いようだ」というのが、変化のパターンです。パターンを認識できると、これから起こることを予測して、計画的に対応できるようになります。

パターンを考えるときは、「これまでに何が起こったか?」「以前に似た状況はなかったか?」という2つの視点から探してみると、見つけやすくなるでしょう。

3.システム構造

「システム構造」では、パターンの構造(どのような要素で、どのような因果関係により生まれているのか)を明らかにしていきます

成果や問題は行動により生まれるもので、原因はその行動を起こす人にあると考えられがちです。これも間違いとはいえませんが、同じような問題が何度も繰り返し起こる場合は、人よりも構造に原因があるのではないか、と考えることもできます。

たとえば、前項の売上が落ちた例でいえば、「販促キャンペーンにより一時的に売上が伸びるが、その分キャンペーン後は大きく下がり、全体の売上も落ちている」という構造があるからかもしれません。

こうした構造がわかれば、どの部分に働きかければ良いパターンを生み出すことができるかを考えられるようになります。

4.メンタルモデル

「メンタルモデル」とは、意識・無意識の前提や価値観のことをいいます

売上が落ちた例でいうなら、商品の販売を担当している部門が、「今月のノルマを達成すること」ばかりを追求して、「販促キャンペーンをやろう」ということになっているのかもしれません。このような場合は、まず意識を変えてもらわなければ、問題を根本的に解決するのは難しいでしょう。選択した行動が、ほかの要素にどのような影響を与えるかを考えられるようになれば、行動が変わり、より良いパターンを生み出すことができるようになるはずです。

なお、ピーター・センゲ氏は「システム構造」までの3階層、コーチ/コンサルタントのデイヴィッド・ピーター・ストロー氏はここまでの4階層の氷山モデルを提示しています。

システム思考のその他のツール

システム思考は、氷山モデル以外にもさまざまなツールを使用します。そのなかから、代表的なツールである「時系列変化パターングラフ」「ループ図」「システム原型」「ストック&フロー」を紹介します。

時系列変化パターングラフ

「時系列変化パターングラフ」は、時間とともにシステムを構成する要素がどのように変化しているのかを知るためのグラフです。縦軸にシステムの要素(例:売上、市場規模、シェア率など)を、横軸に時間をとり、過去・現在・未来の変化のパターンを描き出します。氷山モデルの「変化のパターン」の分析に使えるツールです。

「現在までのパターン」「理想的なパターン」「このまま何もしなかった場合のパターン」など、複数のパターンを描いて分析していきます。

ループ図

「ループ図」は、システムの主要な要素と、影響を与える・受ける要素を並べて、矢印で因果関係を示し、要素間の相互作用の構造を明らかにするためのツールです。「因果ループ図」と呼ばれることもあります。

【ループ図の書き方】

  1. システムのなかで増える、または減るものを「変数A」とする。
  2. 「変数A」の変化により起きることを「変数B」とする。
  3. 「変数A」から「変数B」の向きへ矢印を書き、「変数A」と「変数B」の増減が同じなら「S」を、逆なら「O」を記入する。
  4. これを、ループ状になるまで繰り返していく。
  5. ループの中心に、システムをどんどん強化するような「自己強化型ループ」なのか、ループと収束に向かっていく「バランス型ループ」なのかを書き込む。

たとえば、「企業のイメージ(変数A)が良くなると、優秀な人材(変数B)が集まりやすくなる」なら、変数の増減は同じですので、矢印には「S」を書きます。「商品の価格(変数A)を下げると、販売数量(変数B)は増加する」なら、変数の増減は逆ですので、矢印に書くのは「O」となります。

システム原型

「システム原型」とは、さまざまな分野で共通してみられる基本的な問題の構造パターンのことをいいます

たとえば、「大型連休に遊びに出かけたら、どの店も混んでいて、ようやく昼食を食べられたのが14時だった。」というような経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。このような「よくあるパターン」が、システム原型です。

私たちは、システムの特性を理解できていないために、このような「よくあるパターン」に陥ってしまうことがあります。システム原型を知っておくことで、パターンから抜け出す、または陥らない方法を考えることができるようになります。

システム原型は、複数の種類が提唱されています。詳しくは、ピーター・センゲ氏の著書『学習する組織――システム思考で未来を創造する』や、デイヴィッド・ピーター・ストロー氏の著書『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』などの書籍を参考にしてみてください。

ストック&フロー

「ストック」とは、システムのなかで蓄積されていく要素(モノ、カネ、ヒトなど)のこと、「フロー」とは、ストックを増減させる要素のことですストックに新たに入ってくるものを「インフロー」、ストックから出ていくものを「アウトフロー」といいます。

たとえば、世界の「人口」をストックとするなら、「出生数」がインフロー、「死亡数」がアウトフローとなります。

アウトフローよりもインフローが多ければストックは増え、逆にインフローよりもアウトフローが多ければストックは減ります。ストックの変化を知ることで、理想の状態にするにはどうすれば良いかを考えられるようになります。

システム思考のメリット

最後に、ビジネスにシステム思考を活用するメリットを紹介します。

物事の全体像を把握できる

システム思考で考えることで、物事の構成要素だけでなく、各要素のつながりや、相互作用も含めて全体を把握できるようになります。これにより、問題の根本的な原因も突き止めやすくなるので、個別最適ではなく、全体として最適な解決策を導き出すことができるようになるでしょう。

認識を揃えることができる

ビジネスにおいては、役職や部門が違えば、重視することや思考のレベルも異なることがありますが、ループ図などで各要素のつながりや相互作用を可視化することで、認識を揃えやすくなるでしょう共通認識が持てるようになれば、議論や意思決定もより良いものになるはずです。

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まとめ

私たちの目に見えている「できごと」は、問題や課題のほんの一部でしかありません。この部分しか見えていないと、最適な答えを導き出すことはできませんので、「氷山モデル」を使って見えない部分もしっかり分析しましょう。さらに、「時系列変化パターングラフ」や「ループ図」などを使えば、時間ごとの変化や各要素のつながりを可視化できます。全体像を把握しやすくなり、メンバー間で認識も揃えやすくなるでしょう。

組織を全体として最適な状態にするために、問題や課題の解決策を考えるときは、システム思考を活用してみてください。

 

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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