ワークシェアリングとは?導入手順や企業事例を紹介

  • 組織・人材開発

今ある仕事や業務を分け合うことで、1人あたりの労働負担の削減や新たな雇用機会の創出に取り組むワークシェアリング。長時間労働や人材不足の解決策のひとつとして、近年ワークシェアリングが注目されています。

今回は、ワークシェアリングの種類や目的、導入するメリット・デメリット、導入の手順、日本企業の導入事例についてそれぞれ紹介します

 

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ワークシェアリングとは

ワークシェアリングとは、労働者間で仕事を分け合い、1人あたりの労働時間や負担を減らすとともに、新たな雇用を生み出すことを目的とした取り組みや制度のことです1980年代のオランダやドイツをはじめとしたヨーロッパにて、経済不況を理由とした労働者の救済措置として生まれました。

日本においては、2002年3月29日に発表された「ワークシェアリングに関する政労使合意」にて、ワークシェアリングを「雇用の維持・創出を目的として労働時間の短縮を行うもの」と表されており、国もワークシェアリングを推進する姿勢としています。

ワークシェアリングが注目される背景

なぜ今、ワークシェアリングが注目されているのでしょうか。その理由や背景について解説します。

1999年半ば頃の日本では、急激な生産量減少に対する緊急避難策として、労働時間の短縮によって雇用維持に取り組む企業が見られるようになりました。加えて、短時間労働をはじめとした多様な働き方を導入することで、平均的な労働時間の短縮と、それに伴う雇用機会の創出に向けた施策としてワークシェアリングが徐々に注目されはじめました。

昨今においても、長時間労働による過労、早期退職、少子高齢化に伴う労働人口の減少など、労働者を取り巻くさまざまな問題があります。それらに対するひとつのアクションとして、ワークシェアリングが注目されています。

参考:厚生労働省│ワークシェアリングに関する政労使合意

 

ワークシェアリングの種類と目的

厚生労働省が類型化しているワークシェアリングの4つの種類について解説します。

1. 雇用維持型(緊急避難型)

雇用維持型では、一時的な景況の悪化を乗り越えるための緊急避難措置が目的です。企業が不況に陥っても従業員を解雇するのではなく、1人あたりの労働時間を短縮することで、社内の雇用を維持します。雇用維持型は、景況の回復とともに元の勤務形態に戻しやすく、社内人材の流出防止にも繋がるのが特徴的です。

2. 多様就業型

多様就業型ワークシェアリングとは、短時間勤務やテレワーク、フレックスタイム制、兼業・副業など、多様な働き方の選択肢を労働者へ提示し、働く意欲のある大勢の人の雇用ニーズを生み出す取り組みのことをいいます。厚生労働省の資料においても「多様な働き方の選択肢を拡大する多様就業型ワークシェアリングの環境整備に早期に取組むことが適当である」とされており、国が最も推進しているワークシェアリングです。

家族の事情でフルタイム勤務が困難な人や、ひとつの企業に属さず、複数の仕事を兼業している人などのニーズに対応することで、企業の人材確保やダイバーシティの推進に繋がるのが特徴的です。

3. 雇用維持型(中高年対策型)

雇用維持型の中でも、中高年や定年を迎える従業員、退職者などを対象に、労働時間を短縮して雇用を維持する取り組みを中高年対策型ワークシェアリングといいます加齢による体力の低下を理由に長時間労働が難しい中高年労働者の雇用を維持することで、経験豊富なベテラン従業員の流出を防ぎ、企業の人手不足を解消することが目的です。

4. 雇用創出型

新たに雇用を生み出す取り組みを、雇用創出型ワークシェアリングといいます既存の従業員の労働時間を短縮し、その分の仕事を新たに雇った短時間労働者、パートタイマーなどに充てることで、雇用機会の創出に繋げます。また、休職中の自社従業員が請け負っていた仕事を補填する目的で、新たな雇用創出の機会としても活用できます。

参考:厚生労働省│ワークシェアリングに関する調査研究報告書

参考:厚生労働省│ワークシェアリング導入のための検討ガイド

ワークシェアリングを導入するメリット

ワークシェアリングを導入することで得られるメリットについて、企業側と従業員側の2つの観点からそれぞれ解説します。

企業のメリット

労働環境の改善

ワークシェアリングの導入によって従業員1人あたりの負担が軽減されることで、長時間労働の改善に繋がります。業務量の負担を削減することで、本来取り組むべき業務に集中できるようになります。

生産性の向上

労働環境が改善されると、従業員の生産性の向上が期待できます。従業員のリソースに余裕が生まれることで、新たな発想や創意工夫といったイノベーションも期待できるでしょう。

人材の確保・流出の防止

働きやすい環境が整備されると人材の定着率を高められます。従業員に長く定着してもらうことは、離職率の低下や、教育コスト・採用コストの削減に繋がります。

ダイバーシティの推進

昨今では、経済産業省がダイバーシティ経営(多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営)を推進していることもあり、ワークシェアリングはダイバーシティ経営の取り組みのひとつとしても活用できます。

企業イメージの向上

従業員が働きやすい職場環境を整備し、その取り組みを社外にも発信することで、企業イメージの向上に効果が期待できます。企業イメージが向上すれば、多くの求職者から自社に興味を持ってもらうことにも繋がり、結果として採用コストの削減にも効果的です。

従業員のメリット

長時間労働の解消

労働時間の短縮により、従業員1人あたりの長時間労働が解消されます。従業員各々が余裕のある時間を確保できるようになれば、心身の疲労回復やストレス解消といった効果が期待でき、日々の仕事の生産性も向上します。

業務の負担軽減

労働時間が削減されれば、業務の負担も軽減されます。その人が本来取り組むべき業務に取り掛かれることで、結果として職場内での生産性向上に繋がります。

雇用保障による安心感の獲得

ワークシェアリングでは、従業員を解雇するのではなく、雇用維持・継続をしながら新たな雇用を創出する取り組みです。従業員自身の雇用が保障されているので、安心感を持って仕事に励むことができます。

余暇時間が増える

労働時間や業務負担の削減により、従業員の余暇時間が増えます。心身の疲労の休息、業務に関連する勉強や資格取得など、余暇時間を自己研鑽の時間として充てることができます。

多様な働き方の実現が可能

主に多様型ワークシェアリングにおいては、短時間労働、在宅勤務、フレックス出社、副業などを従業員が選択できることで、働き方の自己実現が可能になります。

ワークシェアリングを導入するデメリット

ワークシェアリングを導入することのメリットがある一方で、デメリットも存在します。導入を検討する際には、メリット・デメリットの両方をしっかりと理解し、制度の適切な運用が求められます。

企業のデメリット

導入に時間がかかる

ワークシェアリングを導入するには、制度の整備や職場における問題点の整理、従業員への理解促進などが必須であり、それらに多くの時間を要する点は、導入の際のハードルになるかもしれません。

導入コストが発生する

ワークシェアリングの導入には多くの人員リソースが割かれます。例えば、多様就業型ワークシェアリングで新たに人を雇う場合には、その分の社会保険料や福利厚生にかかる費用の負担などもあるため、導入することでどのようなコストが発生するのかを事前にしっかりと検討する必要があります。

生産性が低下する場合がある

ワークシェアリングを導入するための業務の負担、該当職種における業務の引き継ぎなどで、一時的に生産性が低下する恐れが考えられます。例えば、社内人材から社外人材に引き継いだり、勤務形態の違いから引き継ぎ時間がなかなか合わなかったりといったケースも起こり得ます。

給与計算が複雑になる

授業員の働き方が一律ではなくなることで、給与計算が複雑になる恐れがあります。特に、会計・経理部門の従業員にとっては、業務の負担が増えてしまいます。

責任の所在が曖昧になる

ひとつの業務を複数人で分けると、責任の所在が曖昧になってしまう恐れがあります。責任の所在が曖昧だと、業務上のトラブルが起きた際に、事実の把握や改善が難しくなる恐れがあります。

従業員のデメリット

収入が減る

労働時間が減ることで、その分の収入が減ってしまいます。労働時間が長くてもお金を稼ぎたい、という人にとっては、ワークシェアリングがデメリットになってしまうこともあります。

職場・職種によって格差が生まれる

業務内容によっては、ワークシェアリングが適応できない職場や職種も存在します。適応できる職種とできない職種を比べたときに、社内で給与や働き方に格差が生まれてしまい、従業員からの反発がでる恐れがあります。

業務で習得できるスキルが身につかない場合もある

労働時間が減ることで、その業務で習得できる技術、スキルがなかなか身につかないことが考えられます。収入面と同様に、仕事を通してさらなるスキルアップを目指したい人にとっては、ワークシェアリングがマイナスに働いてしまうこともあります。

ワークシェアリングを導入する手順

企業がワークシェアリングを導入する手順について、厚生労働省の「多様就業型ワークシェアリング制度導入マニュアル〜短時間正社員編〜」をもとに解説します。

参考:厚生労働省│多様就業型ワークシェアリング制度導入マニュアル〜短時間正社員編〜

ワークシェアリングを導入するメリットを考える

まずは、ワークシェアリングを導入することで自社(職場内)にどのようなメリットがあるのかを検討します。例えば、従業員が育児や介護をしながらでも短時間勤務で働き続けてくれることで、職場に定着してもらい、人材の流出を防ぐ、採用コストを削減する、などがメリットとしてあげられます。

現場のニーズを把握する

導入するメリットが得られるとなったら、現場の従業員に向けたワークシェアリングに対するニーズの調査をします。管理職と従業員(一般社員)に分けて、聞き取りやアンケート調査などを実行しましょう。

管理職向けアンケートの例

  • 職場の現状について教えてください。
  • 職場でどのような働き方の導入が可能だと思いますか?
  • 新たな働き方を導入する場合、どのような課題があると思いますか?

従業員向けアンケートの例

  • 現状の働き方について、困っていることや改善してほしいことはありますか?
  • 働き方の選択ができるなら、どのような働き方を希望しますか?
  • 希望する働き方が選択できるなら、どの程度の期間を希望しますか?
  • 希望する働き方が選択できる場合、どのようなことが気になりますか?

ワークシェアリングの対象を整理する

時間的猶予や、導入できる職場・職種の問題などがあるため、いきなり全社でワークシェアリングを導入するのは困難です。まずは、現場のニーズを把握したうえで経営課題や職場の問題を照らし合わせて、ワークシェアリングの対象となる職場・職種を整理しましょう。

ワークシェアリング導入における課題と解決策を検討する

ワークシェアリングを導入する対象を決めたら、導入における課題や解決策について検討します。

  • 給与・退職金の扱いについて

これまで長く働いていた従業員は、勤務形態が変わることで給与の扱いに不安を覚えてしまう場合もあります。退職金の扱い(計算方法など)も含め、企業から従業員に対する制度の整備と説明が必要になります。

  • 昇給・昇格の扱いについて

働き方が変わることで、昇給・昇格といった評価制度の扱いに不安を覚えてしまうことも考えられます。給与や退職金の扱いと同様に、企業から従業員へ、制度の明確な説明が求められます。

対象となる職場・職種でワークシェアリングを試行する

実際に対象となる職場・職種でワークシェアリングを試行します。試行した結果、問題点や懸念点などが見つかれば再度検討し、今後の本格導入に向けて改善していきましょう。

ワークシェアリングの実施とフォローアップ

試行の結果をもとに、実際にワークシェアリングを制度として実施します。実施後もより良い労働環境を整備するために、フォローアップも継続しましょう。現場の意見を聞いたりしながら、自社に適した制度となるようにブラッシュアップしていきます。

ワークシェアリングを導入した企業の事例

ワークシェアリングを導入した企業の事例について見ていきましょう。

日本IBM

世界各国で事業を展開するIBMグループでは、ダイバーシティー&インクルージョンの考え方を世界中で一貫し、従業員1人ひとりが活躍できる環境を整えています。

例えば、日本IBMでは「e-ワーク制度」があります。育児をする女性社員の声かけによって1999年にスタートしたこの制度は、さまざまな事情でオフィスへ出勤することが難しい従業員が、自宅で勤務を行える制度です。従業員の事情や場所にとらわれずにどこでも勤務できる環境を整えることで、ワークライフ・バランスを推進しながらも、効率的な働き方を実現しています。

他にも、従業員のライフステージの変化に対応した「短時間勤務制度」などがあり、全社一丸となって多様就業型ワークシェアリングの取り組みを実施しています。

TOWA株式会社

京都府に本社を置く大手精密機器メーカーのTOWA株式会社では、20223月から、自社の従業員が定年(60歳)を迎えた後も、給与や人事評価などの面で正社員と同水準の処遇となる再雇用制度を運用しています。同社では、これまで運用していた再雇用制度では「給与の減少」と「評価制度がない」という点から、再雇用された従業員のモチベーション維持が難しいことが課題として考えられていました。

再雇用制度を改善したことで、高いノウハウや意欲を持つ中高年従業員を確保し、人材不足の解消や、若手社員に向けたノウハウや企業文化の継承に繋げています。

まとめ

ワークシェアリングは国が推進している制度のひとつであり、長時間労働問題の改善や、新規雇用機会の創出として注目を集めています。制度の策定や導入には中長期的な経営計画が求められますが、今後の更なる人材の確保・定着に向けた取り組みとして、ワークシェアリングを検討してみてはいかがでしょうか。

 

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この記事の著者

あそぶ社員研修編集部

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