インシデントプロセス法とは?メリット・デメリット、事例研究の進め方を紹介

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インシデントプロセス法とは、事例研究法の一つです。企業においては、社員の分析力や判断力、問題解決力、職務遂行能力などのスキルを高めたいときや、管理職登用のアセスメント方法としても用いられています。

本記事では、まずインシデントプロセス法とはどういったものか、そもそもインシデントとは何を意味するのかを、わかりやすく解説します。その上で、インシデントプロセス法による事例研究のメリットとデメリット、具体的な進め方、さらに、インシデントプロセス法を採用面接に応用した「インシデントプロセス面接」についても紹介します。

 

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インシデントプロセス法とは

インシデントプロセス法とは、マサチューセッツ工科大学のピコーズ教授夫妻によって考案された事例研究法です事例研究法とは、過去に起こった出来事を詳しく分析して、問題の解決方法を探るというもので、ケーススタディとも呼ばれています

インシデントプロセス法の進め方についてはのちほど詳しく紹介していますが、まずは事例提供者が実際に起こった出来事(インシデント)を発表します。そして、参加者は事例提供者に一問一答式で質問をしながら必要な情報を集め、グループで話し合って解決方法を考えるというのが基本的な流れです。この過程の中で、参加者の分析力や判断力、問題解決力、職務遂行能力などのスキルの向上が期待できます。

一般的なケーススタディは、事例提供者は取り上げる事例を決めたら、その事例を参加者に理解してもらうために資料などを準備しなければなりません。対してインシデントプロセス法は、事例提供者の短く抽象的な出来事の発表をもとに、参加者が質問により事例の全体像を組み立てていくものなので、事例提供者の準備の負担が少なく、さまざまな分野で広く用いられています

ケーススタディの概要については、以下の記事で詳しく紹介しています。

ケーススタディとは?実施するメリットや進め方、注意点を解説

インシデントとは

インシデント(incident)は、「出来事」や「事件」などの意味を持つ英単語です。似た意味を持つ言葉にアクシデント(accident)がありますが、こちらは「思いがけない出来事」や、「事故」「災難」など、大きな損害や影響が発生してしまった出来事を指します。対して、ビジネスシーンで用いられるインシデントとは、「一歩間違えればアクシデントになる可能性があった出来事」のことをいいます。たとえば、以下の例が挙げられます。

  • 不正アクセスなどのサイバー攻撃による情報漏洩
  • サービスの中断や品質の低下など、正常なITサービスの利用を妨げる出来事
  • 鉄道運転事故にはならなかったものの、事故につながる恐れが高かった事例
  • 医療の現場において、治療や処置が間違っていると患者に施す前に気づいた場合

ヒヤリハットとの違い

ヒヤリハットとは、その名のとおり、事故には至らなかったものの、「ヒヤッ」としたり「ハッ」としたりした出来事のことです。インシデントとほぼ同じ意味で使われることも多いですが、「ヒヤッ」「ハッ」と感じなくても、事故の一歩手前の出来事が起これば、それはインシデントが発生したことになります。

また、ヒヤリハットは主に人的ミスにより生じる出来事を指します。対してインシデントは、前項の例でいうならサイバー攻撃やサービスの品質の低下など、人的ミス以外の要因により発生することもあります

 

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インシデントプロセス法による事例研究のメリット・デメリット

インシデントプロセス法による事例研究を実施することで、具体的にどのような効果が得られるのでしょうか。また、実施する際に注意すべきことはあるのでしょうか。ここからは、インシデントプロセス法による事例研究のメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。

メリット

まずは、インシデントプロセス法による事例研究のメリットを見てみましょう。

  • 参加者それぞれが当事者の立場で事例について考えるため、主体性や積極性を引き出すことができる。
  • 実際に起こった出来事を扱うため、実践活動に結びつきやすい
  • 事例提供者は新たな資料等を用意する必要がないので、準備の負担が少ない。また、質問は事実に関することに限るので、事例提供者の対応が批判されることはほぼなく、心理的負担も少ない
  • 話し合いを通じて、お互いの意見を聴くこと、共に考えることの重要性を学べる。

さらに、参加者のさまざまなスキルが鍛えられるというメリットもあります。事例提供者に質問して必要な情報を集め、それをもとにグループで解決方法を考えるその過程の中で、問題を発見し解決する力、集めた情報を整理して分析する力、他者の話を聴く力、理解する力、他者と協力して成果を出す力(共創力)などの向上が期待できるでしょう。

また、インシデントプロセス法による事例研究を繰り返し実施して、多数の事例を学ぶことで、同じような失敗やミスも起きにくくなります。

デメリット

インシデントプロセス法による事例研究のデメリットは、大きく二つあります。

  • 「正解」や「回答」がないため、疑問が残る可能性がある。
  • 古い事例は参考になりづらい。

まず一つは、「正解」や「答え」がないということです。たとえば成功事例を取り上げる場合、そのときに成果が出たからといって、その対応が最適であったとは限りません。また、事例研究を社内で実施する場合は、専門家が同席してくれるわけではありません。「この場面ではこういう対応をしましょう」という指導を受けられるわけではないので、参加者が消化不良に陥ることがあります。

もう一つは、古い事例は参考にならない可能性があるということです。IT化やグローバル化が進み、現代は「VUCA時代」と呼ばれるほど変化の激しい時代となっており、過去の成功体験や、これまでの常識やノウハウが通用しない場面が増えてきました。当時うまくいったことを現代にそのまま当てはめても、うまくいかない可能性があるのです。取り上げる事例を選ぶときは、できるだけ新しい事例を選ぶようにしましょう。

インシデントプロセス法の進め方

ここからは、インシデントプロセス法による事例研究の進め方を詳しく紹介していきます。あくまで一例ですので、このとおりである必要はありません。「事前準備」「インシデントプロセス法の5ステップ」「実践する際のポイント」に分けて、詳しく解説します。

事前準備

インシデントプロセス法による事例研究を行うにあたり、まずは以下のものを用意しましょう。

  • 記入用紙(事例についての情報や問題点、解決方法の案などをまとめるためのもの)
  • ホワイトボードまたは模造紙(グループに分かれて事例研究を行う場合)

事例提供者は、あらかじめ提示する出来事を決めておき、参加者からの質問に答えられるように準備しておきましょう。事例は口頭で発表するため、新たに資料等を準備する必要はありません。

司会者は、今回インシデントプロセス法による事例研究を行う目的や、進行方法、ルールなどについて参加者に説明したり、時間管理を行ったりする役割があります。また、参加者が必要な情報を得られるように事例提供者に質問を投げかけることもあるので、必要に応じて事例提供者と打ち合わせをしておきましょう

インシデントプロセス法の5ステップ

インシデントプロセス法による事例研究は、以下の5つのステップで進めていきます。

  1. 出来事(インシデント)を提示し、調査する
  2. 出来事の背景にある事実を集め、まとめる
  3. 情報を整理し、問題点を明確にする
  4. グループに分かれて対応策と理由を議論する
  5. 学んだ内容を検討し、全体を振り返る

各ステップで何をするのか、詳しく見てみましょう。

ステップ1:出来事(インシデント)を提示し、調査する

  • 事例提供者:日頃の記録を参考に、出来事(インシデント)を口頭で具体的に発表します。
  • 司会者:参加者全員がその場面をイメージできるように、必要に応じて事例提供者に質問をします。
  • 参加者:事例提供者の発表を、記録を取りながら聞きます。

このステップにかける時間の目安は510分です。

ステップ2:出来事の背景にある事実を集め、まとめる

  • 司会者:まずは参加者と事例提供者に、このステップでの留意点を伝えます。

【質問に関する留意点】

参加者に対して

  • 問題解決に必要な質問を、一問一答で行う。
  • 簡潔に、具体的な質問をする。
  • 質問を独占しない。
  • 重複した質問をしない。
  • 事例提供者の指導の在り方を問う質問や、指導方針についての質問はしない。
  • 事例提供者の推測や感想、意見を求めることはしない。
  • 質問するときは、自分の意見や体験は述べない。
  • 制限時間が限られており、質問からしか情報収集ができないので、積極的に質問する。

事例提供者に対して

  • 憶測を交えずに、事実をありのままに簡潔に述べる。

留意点を伝えたら、司会者は参加者に質問を求めます。質問内容の分散や偏りを是正したり、事例提供者が回答している最中に参加者が割り込んで質問しないようにコントロールしたりするのも司会者の役割です。また、質問されていないことがあれば、参加者が気づくよう促したり、事例提供者に補足を求めたりといったことも行います。

  • 参加者:事例の全体像をイメージしながら事例提供者に質問をして、解決につながると思う事実をまとめます。
  • 事例提供者:参加者の質問に簡潔に答えます。事実のみを述べ、質問からそれたことや、今後の対応については答えません。

このステップにかける時間の目安は、1015分です。

インシデントプロセス法の中で、ステップ2は最も重要な段階といえます。はじめて実施する場合は、参加者が有効な情報を集められるように、記入用紙にあらかじめ情報収集の観点を示しておくのも一つの方法です。

ステップ3:情報を整理し、問題点を明確にする

  • 司会者:参加者同士で自由に話し合って、個人の意見をまとめるように伝えます(解決すべき問題点+今後の対応についての具体案+そうする理由、根拠)。
  • 参加者:最初に事例提供者が提示した出来事と、ステップ2で集めた事実を統合し、自分なりに事例の全体像を明確にします。そして、解決すべき問題点を明確にして、具体案とその理由を考えて、記入用紙にまとめます。
  • 事例提供者:自分が思う問題点と、参加者が出した問題点を比較検討します。

このステップにかける時間の目安は、1015分です。

ステップ4:グループに分かれて対応策と理由を議論する

  • 司会者:参加者をグループに分けてグループごとにリーダーを決め、グループとしての具体案と理由を話し合ってもらいます。事例提供者には、グループの発表のあとに実際の対応とその後の経過を発表してもらいます。
  • 参加者:グループのリーダーを決めて、全員で話し合ってグループとしての具体案とその理由をまとめ、発表します。
  • 事例提供者:参加者が出した具体案と実際の対応を比較検討します。事例提供者もグループに入りますが、実際の対応とその後の経過は、グループごとの発表が終わってから最後に発表します。

このステップにかける時間の目安は、20分程度です。

ステップ5:学んだ内容を検討し、全体を振り返る

  • 司会者:参加者には何を学んだのか、事例提供者には補足や感想を問います。
  • 参加者:全体を振り返り、事例から学んだこと、参加者との話し合いの中で学んだことなどを話します。
  • 事例提供者:補足や事例研究の経過についての感想、試してみたい対応案、参加者への感謝などを述べます。

このステップにかける時間の目安は、510分です。

参考:情報の共有・分析-インシデント・プロセス法による事例研究 – 国立特別支援教育総合研究所(PDF)

実践する際のポイント

司会者は、時間の管理をしっかり行いましょう。司会をしながら時間を管理することが難しい場合は、別に計時係を置いても良いでしょう。時間内に終わることで、参加者はより満足感を得られます。参加者にも、時間を意識しながら質疑や話し合いを進めてもらいましょう。

また、インシデントプロセス法による事例研究は、繰り返し行うことが大切です。一度実践して効果が感じられなくても、繰り返し行うことで有効な話し合いができるようになるでしょう。回数を重ねることで、事業に対する理解も深め合うことができます。

採用面接に応用した「インシデントプロセス面接」とは

インシデントプロセス法は、人材の育成だけでなく、採用の場面でも活用されています。インシデントプロセス法を採用面接に応用した、「インシデントプロセス面接」という面接手法があります。候補者は面接官が提示した出来事(インシデント)について、面接官に質問をして問題点を特定し、問題を解決する具体策とその理由を説明するというものです

インシデントプロセス面接は、候補者の情報収集力や問題解決力などを見極めるのに役立ちます。そのため、リーダーやマネジメント候補など、リーダーシップが求められるポジションの人材の採用に適しています

また、インシデントプロセス面接は実際に起こった事例を扱うため、候補者が自社の業務をイメージしやすくなるというメリットもあります。

インシデントプロセス面接の流れ

インシデントプロセス面接は、以下の5ステップで進めていきます。

  1. 面接官が候補者に出来事(インシデント)を提示します。
  2. 候補者は面接官に質問をして、提示された出来事に関する事実・情報を集めます。
  3. 候補者は、収集した情報を整理して、解決すべき問題を特定します。
  4. 候補者は、問題の解決方法とその理由をまとめ、面接官に提示します。
  5. 面接官がインシデントプロセス面接の全体を振り返り、候補者を評価します。

質問に関する留意点は、基本的にインシデントプロセス法による事例研究と同じです。候補者は、面接官の意見や感想を求めることはせず、問題の解決に必要なことを簡潔に、具体的に質問します。面接官は、客観的な事実を簡潔に答え、質問からそれたことや、推測や意見は述べてはいけません。もし推測を答える必要があるときは、その根拠もあわせて候補者に説明しましょう。

最後の評価のステップでは、14の過程を振り返り、候補者の質問力や情報整理力、仮設思考力、問題解決力、論理的思考力(ロジカルシンキング)などを総合的に評価します。

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あそぶ社員研修」は、受講者全員が没入して取り組むアクティビティ・振り返り・講義をブリッジすることで学びを最大化させ、翌日から業務で活かせる知識・スキルが身につく講義・アクティビティ一体型の研修プログラムです。

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以下では、講義・アクティビティ一体型の研修テーマの例を紹介します。

1.ロジカルシンキング研修

ロジカルシンキング研修のアクティビティ「リアル探偵チームビルティング」では、チームに配られた断片的な情報を取捨選択し、論理パズルを完成させ、全問正解を目指します。

学びのポイント

  • 小グループで得られた情報を論理的に整理し、確定情報・曖昧情報・不要な情報を選り分ける
  • 大グループで全体に必要な情報を論理的に判断・共有することや、自分たちに足りない情報を聞き出すことが求められる。

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2.クリティカルシンキング研修

クリティカルシンキング研修のアクティビティ「混乱する捜査会議からの脱出」では、推理ゲームで論理的に情報を整理するなかで証拠の違和感に気づき、仮説立てや検証を行って目標を達成します。

学びのポイント

  • 証拠品や証言など多くの情報を手分けして読み、組み合わせて論理的に結論を導き出す
  • フェーズが進むごとに情報が増え、複雑になっていくなかで必要な情報を取捨選択する
  • 出た結論に満足せず、常に新しい情報と照らし合わせて再検証する

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3.PDCA研修

PDCA研修のアクティビティ「ロケットPDCAチャレンジ」では、パーツを組み合わせてロケットを制作し打ち上げ結果から原因を考えて、より良く飛ぶロケットに改善していき、目標の達成を目指します。

学びのポイント

  • 計画を立ててロケットを飛ばし、その結果から組み合わせの誤り・部品の不足・不良部品の有無を推察し、それを繰り返すことで組み合わせの精度を上げていく
  • 資金稼ぎ・パーツの選択・打ち上げの準備を繰り返し、作戦タイム振返りを経て行動を改善していくことで、最適化されていく

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4.OODA LOOP研修

OODA LOOP研修では、瞬間的な判断力が求められる運動系のアクティビティである「サバイバルゲーム」または「チャンバラ合戦」を実施することで、意思決定のフレームワークである「OODA LOOP」を実践的に習得することを目指します。

学びのポイント

  • 敵チームをよく観察して作戦を練り、状況に応じた行動を素早く判断しながら、チームで共有して一体となって行動する
  • ミッションの勝利条件をもとに、観察、判断、行動を繰り返すことで、本当にすべき行動が何なのか、行動の最適化を行う

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まとめ

インシデントプロセス法により事例研究を行うことで、社員の分析力や判断力、問題解決力、職務遂行能力などなど、さまざまなスキルの向上が期待できます。また、インシデントプロセス法は実際に起こった出来事を扱うため実践活動にも結びつきやすく、話し合いを通じて他者と協力して問題を解決するというプロセスを学べるのもメリットです。

しかし、ただ実践するだけでは、高い効果は得られません。インシデントプロセス法による事例研究を行う際は、質問に関する留意点を守ること、時間をしっかり管理すること、そして一度きりで終わらせずに繰り返し行うことがポイントです。

インシデントプロセス法は、人材のスキルを見極めるのにも役立つため、採用面接でも活用されています。リーダーやマネジメント候補を採用したいときには、本記事でも紹介した「インシデントプロセス面接」を実施してみてはいかがでしょうか。

 

あそぶ社員研修」は、受講者全員が没入して取り組むアクティビティと専門講師の講義・振り返りをブリッジすることで、翌日から業務で活用できる知識・スキルが身につく研修プログラムです。

アクティビティが受講者の主体性を高めてコミュニケーションを促進させ、スキルアップやチームビルディングをはかれます。

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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