ARCSモデルとは?4つの要因や具体例、学習意欲を高めるアイデアを紹介

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ARCS(アークス)モデルとは、人材育成計画や教育プログラムなどを設計する際に、どうすれば学習者の学習意欲を高められるのかを4つの要因に分けて提示したもので、近年注目されているインストラクショナル・デザインの代表的なモデルの一つです。

本記事では、まずARCSモデルとはどんな考え方なのか、インストラクショナル・デザインとは何か、ARCSモデルを活用すべき理由を、わかりやすく解説します。そして、ARCSモデルの4つの要因の中身、具体例、活用するときの注意点、学習意欲を高めるアイデアを紹介します。

 

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ARCSモデルとは

ARCSモデルとは、1983年に教育心理学者のジョン・ケラーが提唱した、学習者の学習意欲を高めるための動機づけモデルのことです。ジョン・ケラーは、膨大な研究調査に基づき、学習意欲を高める要因を以下の4つに分類しました。

  • 注意(Attention
  • 関連性(Relevance
  • 自信(Confidence
  • 満足感(Satisfaction

ARCS」は、この4つの頭文字をとったものです。

教育・指導する側にどれだけ熱意があっても、学習者の学習に対するモチベーションが低ければ、なかなか成果は生まれません。教育や指導を行う際は、学習者の学習意欲を高めることが重要です。

企業においても、人材育成にARCSモデルを活用することで、従業員の学習意欲を引き出すことができるでしょう。従業員が意欲を持って学習に取り組めるようになれば、さまざまな知識やスキルを効率的に習得できるようになり、業務改善や生産性向上といった効果も期待できます。

ARCSモデルはインストラクショナル・デザインの一つ

ARCSモデルは、インストラクショナル・デザインの代表的なモデルの一つですインストラクショナル・デザインとは、教育活動の「効果」「効率」「魅力」を高める方法を、研究や理論をもとに設計することをいいます。英語表記の「Instructional Design」を略して「ID」とされることもあります。日本では、eラーニングが普及した2000年ごろから注目されるようになったものです。

インストラクション(instruction)は「教育」や「教えること」を意味する英単語ですが、インストラクショナル・デザインでは学習者の学習を支援する活動全般を意味します。単に「教え方」を指すのではありません。

ARCSモデルは、教育活動の「効果」「効率」「魅力」のうち、「魅力」を取り扱うモデルです。教育活動の「魅力」とは、学習者が「またやってみたい」「もっと学びたい」という気持ちになること。学習意欲が継続することを指します。日本の教育活動は、「できるようにはなるけれど、もうやりたくない」、つまり、「効果」は高いものの「魅力」が低い傾向があるといわれています。できるようになるだけでなく、学習者がもっとやってみたい・知りたいと思えるような教育活動が求められているのです。

ちなみに、インストラクション・デザインにおける教育活動の「効率」とは、費用対効果を高めることを意味します。

企業においても、人材育成計画や教育プログラムを設計する際は、「効果」「効率」「魅力」の3つを意識してみてください。

参考:e-Learning実践のためのインストラクショナル・デザイン(<特集>実践段階のeラーニング)(鈴木 克明)(PDF)

 

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ARCSモデルを活用すべき理由

いくら熱心に教育・指導に取り組んでも、学習者のモチベーションが低いと、熱意が空回りしてしまい、教育・指導する側の意欲も下がってしまうことがあります。ARCSモデルは、学習者の学習意欲を高めるために教育・指導する側がとるべき行動のポイントを示してくれているため、幅広い分野で活用されています

また、急速なテクノロジーの進展により、教育機関にも企業にも、情報社会を力強く生き抜いていける人材の育成が求められるようになっています。これには、LMSを活用したeラーニングを実施したり、パソコンやタブレットなどのICTツールを活用したりといった手段が有効ですが、そもそも人材育成計画がしっかりと設計されていなければ、これらのツールを活用しても成果を生み出すことは難しいでしょう。インストラクショナル・デザインの理論やモデルは、効果的で、効率の良い、魅力的な人材育成計画を設計するヒントを与えてくれます。「魅力」を取り扱うARCSモデルを活用することで、学習者が「もっと学びたい」と思えるような魅力的な学習を提供できるようになるでしょう。

ARCSモデルの4つの要因

ここからは、ARCSモデルの4つの要因、注意(Attention)、関連性(Relevance)、自信(Confidence)、満足感(Satisfaction)を、詳しく解説していきます。ARCSモデルの各要因には、それぞれさらに細かい下位分類があります。これらは、提唱者のジョン・ケラーが、さまざまな研究や理論をもとに定めたものです。各要因の中身を、一つずつ詳しく見てみましょう。

1.注意(Attention

注意(Attention)要因は、不思議なことやめずらしいことなど、学習者が「面白そうだなぁ」と感じてくれそうな要素を盛り込み、学習者の注意を獲得するというものです。この要因が満たされていると、学習者が「学ぼう」という状態に入っていきやすくなります。逆に、学習者の興味や関心を引けていない状態では、どれだけ新しいものや情報を与えても、学習者の耳には入らないでしょう。

具体的なアプローチの方法としては、たとえば、新たにICTツールを学びに導入したり、研修にグループワークやアクティビティを取り入れたりすることなどが挙げられます。しかし、こうした目新しいことで興味・関心を引けるのは最初だけです。マンネリ化しないよう、工夫する必要があるでしょう。

注意(Attention)要因には、ジェームスの生理学的好奇心と認知的好奇心、パーラインの特定的探査と拡散的探査、ザッカーマンの刺激追及などの理論を裏づけとして、3つの下位分類が定められています。

  • 知覚的喚起……どうすれば学習者の興味を引き出せるか。
  • 探求心の喚起……どうすれば学習者の「もっと学びたい・知りたい」という気持ちを刺激できるか。
  • 変化性……どうすれば学習者の注意を維持できるか。

2.関連性(Relevance

関連性(Relevance)要因は、学習者に、学習内容が自分自身に関係しており、挑戦する価値があると理解してもらうというものです。この要因が満たされていると、学習者は「やりがいがありそうだなぁ」と感じるようになり、学びに対しても積極的になります。逆に、学習者に「自分には関係がないことだ」と感じられてしまえば、いくら最初に興味・関心を引くことができたとしても、学習意欲はすぐに下がってしまいます。

具体的なアプローチ方法としては、たとえば、「将来の役に立ちそう」「自分の知っていることと関係がある」と思えることを盛り込む、または「同僚と一緒に学ぶ」などのようなプロセスそのものが「やりがい」につながることもあるでしょう。

関連性(Relevance)要因には、トールマンの目的的行動、マクレランドの「3つの欲求」、シャンクの絶対的興味などの理論を裏づけとして、3つの下位分類が定められています。

  • 親しみやすさ……どうすれば学習内容と学習者の経験とを結びつけられるか。
  • 目的指向性……どうすれば学習内容と学習者の目的を結びつけられるか。
  • 動機づけの一致……どうすれば学習者に「やりがい」を実感してもらえるか。

3.自信(Confidence

自信(Confidence)要因は、学習者の不安を減らし、成功への期待感を高めるというものです。この要因を満たしてあげることで、学習者の「やる気」を引き出すことができます。たとえば、どれだけ興味・関心があって、「やりがい」も感じられそうなものであったとしても、自分には達成できないような難しいものであれば、挑戦することをあきらめてしまうかもしれません。学習は、努力すれば達成できるレベルであることも重要なのです。

しかし、これから学ぶ新しいことに対して、「できる」という絶対的な自信を持たせることは難しいでしょう。ですので、学習者に「やればできそうだな」という感覚をいかに持ってもらうかがポイントです。

具体的なアプローチ方法としては、学習の間に簡単な小テストを実施する、その小テストの難易度を徐々に上げていくなどが考えられます。

自信(Confidence)要因には、ロッターの統制の所在、ドシャームの指し手・コマ理論、バンデューラの自己効力感などの理論を裏づけとして、3つの下位分類が定められています。

  • 学習要求……どうすれば学習者が成功への期待感を持てるようになるか。
  • 成功の機会……どうすれば学習者が成功体験を自信につなげられるか。
  • コントロールの個人化……どうすれば学習者が「自分の努力と能力による成功だ」と認識できるか。

4.満足感(Satisfaction

満足感(Satisfaction)要因は、学習者に「やってよかったなぁ」「またやってみたいなぁ」と感じてもらい、学習の結果に対する満足度を高めて、学習意欲を強化するというものです。せっかく集中して学習に取り組み、努力を重ねたにもかかわらず、それに見合う成果が得られなかったり、正しく評価してもらえなかったりすると、学習意欲は下がってしまいます。学習意欲を次の学習につなげ、持続させるためには、努力が報われるような配慮が必要なのです。

具体的なアプローチ方法としては、成果を他者と確かめ合う機会を設ける、良かったところを積極的に褒めるなどが考えられます。

満足感(Satisfaction)要因には、古典的条件付け、オペラント条件づけ、アダムスの公平理論などの理論を裏づけとして、3つの下位分類が定められています。

  • 自然な効果……どうすれば学習者の興味・関心をより向上させられるか。
  • 肯定的な結果……学習者の成果に対して、どのような称賛や報酬を提供するか。
  • 公平さ……どうすれば学習者に「公平に扱われている」と感じてもらえるか。

ARCSモデル活用の具体例

では、企業においてはこのARCSモデルをどのように人材育成に活用すればよいのでしょうか。

たとえば、従業員の研修に対する参加意欲が低いという課題があるとします。この場合は、まずそれがなぜなのかを分析し、ARCSモデルの4つの要因のどの側面に該当するのか考えてみましょう。そのあと、ARCSモデルが提示するヒントを参考に、具体的な方策を検討します。

従業員の参加意欲が低い原因を分析した結果、「そもそも研修内容に対する興味が薄い」ということが分かったのであれば、

  • 研修のタイトルや案内文に、従業員の目を引くような斬新な要素を取り入れる。
  • 教材のデザインを工夫してわかりやすいものにする。
  • グループワークやアクティビティなど、従業員に「面白そうだなぁ」と思ってもらえそうなプログラムを盛り込む。
  • 従業員に「研修で学習する内容が自分の業務に必要だ」と思ってもらえるように、関連性をアピールする。

といった方策が考えられます。

または、「修了できる自信がないから参加したくない」という従業員が多いのであれば、

  • 修了の要件を明確にして、研修の最後にテスト・評価を行い自分の能力を確認する機会を設ける。
  • 研修の中に小さな成功体験(小テストなど)が得られる機会を設ける。
  • テストや課題の難易度を下げる。
  • 研修の最後に、講師から従業員にアドバイスを与える機会を設ける。

などの方策が考えられるでしょう。

ARCSモデルを活用するときの注意点

人材育成にARCSモデルを活用するときには、注意点もあります。前項で、ARCSモデルを活用するときは、まずは課題を分析し、その原因がARCSモデルの4つの要因のどの側面に該当するのかを考えましょうとお伝えしましたが、学習意欲が上がらない原因は、いつも4つの要因のいずれか一つだけに当てはまるとは限りません。方策によっては2つ以上の要因に関連する場合もあります。「4つのうちどの要因に該当するか」にとらわれる必要はありません

また、学習意欲を高める方策は多ければ多いほど良いというわけではありません。どんなに良い方策であっても、やりすぎると逆効果になってしまうこともあります。内容・タイミング・量のバランスを考えながら方策を検討することが重要です

参考:「学習意欲を高めるARCSモデルの拡張と実践利用に関する研究」(中嶌康二)- 熊本大学学術リポジトリ

研修に「あそび」を取り入れて学習意欲を高める

先ほど、人材育成にARCSモデルを活用するときの具体例として、研修にグループワークやアクティビティを取り入れるという方策をご紹介いたしました。座って講義を聞くだけでなく、従業員に「面白そうだな」と思ってもらえるような要素を取り入れることで、興味・関心を引くことができるでしょう。しかし、ただ「面白そう」というだけでは、最初は興味・関心を引くことができたとしても、学習意欲を持続させるのは難しいかもしれません。

そこでおすすめしたいのが、チームビルディングやエンゲージメント向上につながるような「あそび」の要素が入ったグループワークやアクティビティです。

「あそび」の定義

株式会社IKUSAは、チームビルディングやエンゲージメント向上につながるさまざまな「あそぶ研修」を提供しています。株式会社IKUSAの「あそび」とは、ただ楽しい・面白そうというだけではなく、以下のように定義されています。

  1. 誰でもできる
  2. テクニックがなくても楽しめる
  3. 勝ち負けよりプロセスが大事
  4. ルールを自分たちで変えられる
  5. 全員が同時に参加できる

「あそび」の効果

株式会社IKUSAの「あそぶ研修」には、複数人で行う体験型のプログラムが含まれています。体験を通じて達成感や感動を得ることができるため、学習意欲やモチベーションを次へとつなげることができるでしょう。

また、「あそび」の要素があることで、年齢や性別、役職にかかわらず、自然とコミュニケーションが活発になります。相互理解が促進され、従業員同士のつながりが強固になり、チームビルディングやエンゲージメント向上といった効果も期待できるでしょう。

さらに、話を「聞く」以上の体験があることで学びが定着しやすくなるともいわれおり、研修を研修会社に任せることで費用対効果も高められます。つまり、研修に「あそび」の要素を取り入れることで、インストラクショナル・デザインでいうところの教育活動の「魅力」だけでなく、「効果」と「効率」の向上も期待できるのです。

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あそぶ社員研修」は、受講者全員が没入して取り組むアクティビティ・振り返り・講義をブリッジすることで学びを最大化させ、翌日から業務で活かせる知識・スキルが身につく講義・アクティビティ一体型の研修プログラムです。

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以下では、講義・アクティビティ一体型の研修テーマの例を紹介します。

1.コミュニケーション研修

コミュニケーション研修のアクティビティ「謎解き脱出ゲーム」では、チームでコミュニケーションをとりながら問題に隠された法則を発見する謎解きゲームのクリアを目指します。

学びのポイント

  • 受講者が「自分しか見えていない情報・問題・解き方」をチームで共有することでコミュニケーション促進やスキルアップにつながる
  • 突飛な発想・ヒラメキをチームのなかで積極的に発言できる心理的安全性の高い環境づくりが求められる

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2.合意形成・アサーティブコミュニケーション研修

合意形成・アサーティブコミュニケーション研修のアクティビティ「コンセンサスゲーム」では、危機的な状況下でどの物資を優先して確保すべきかをチーム内で議論し、最適な結論を導きます。

学びのポイント

  • 各々が個人ワークで考えた答えを聞くことで、チームメンバーの状況に対する認識や物資の重み付けの違いを受講者が理解する
  • 話し手は自分の答えにいたった理由を論理的・説得的に説明する
  • より良い根拠を導き出すための比較検討をして、チーム全員が納得する結論を出す

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3.交渉術・ネゴシエーション研修

交渉術・ネゴシエーション研修のアクティビティ「ワールドリーダーズ」では、利益を増やすことを目指し、自チームでの戦略構築や他チームとの交渉を行います。

学びのポイント

  • 配られた事業・資金・労働力などの資源だけで目的が達成できない場合に、他チームと交渉してそれらを手に入れるための交渉力を習得する
  • 他チームの情報を得てから相手にとって価値のあるものを提供し、自チームにとってさらに価値のあるものを引き出すことが求められる

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4.ロジカルシンキング研修

ロジカルシンキング研修のアクティビティ「リアル探偵チームビルティング」では、チームに配られた断片的な情報を取捨選択し、論理パズルを完成させ、全問正解を目指します。

学びのポイント

  • 小グループで得られた情報を論理的に整理し、確定情報・曖昧情報・不要な情報を選り分ける
  • 大グループで全体に必要な情報を論理的に判断・共有することや、自分たちに足りない情報を聞き出すことが求められる。

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まとめ

学習者の学習意欲を高めるための動機づけモデル、ARCSモデルについて解説しました。どれだけ教育・指導する側に熱意があったとしても、また、eラーニングやICTツールを導入したとしても、学習者の学習意欲が低ければ、成果を生み出すことは難しいでしょう。まずは、効果的で、効率の良い、魅力的な育成計画を設計することが重要です。「従業員の学習意欲が低い」「もっと主体的な学習姿勢を身につけてほしい」など、人材育成に課題を感じているなら、ARCSモデルの考え方を活用してみてはいかがでしょうか。

また、研修にグループワークやアクティビティを取り入れることを検討されているなら、「あそび」の要素が入ったものがおすすめです。教育活動の「魅力」だけでなく、「効果」と「効率」も高められ、チームビルディングやエンゲージメント向上といった効果も期待できます。

 

あそぶ社員研修」は、受講者全員が没入して取り組むアクティビティと専門講師の講義・振り返りをブリッジすることで、翌日から業務で活用できる知識・スキルが身につく研修プログラムです。

アクティビティが受講者の主体性を高めてコミュニケーションを促進させ、スキルアップやチームビルディングをはかれます。

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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