反転学習とは?企業研修に取り入れるメリット・デメリットを紹介

  • 学習法

近年、「反転学習」という学習形態が注目を集めています。「もっと効果的な研修にするにはどうすればいいのか」「もっと効率よく従業員にスキルを身につけてもらう方法はないだろうか」、このようなお悩みがあるなら、反転学習の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

本記事では、反転学習とはどのような学習なのか、注目されている理由や、メリット・デメリット(課題)、反転学習を取り入れた企業研修の流れを紹介していきます

 

受講者が没入して取り組むアクティビティと専門講師の講義・振り返りをブリッジすることで、翌日から業務で実践できる知識・スキルを習得
⇒受講者のスキルアップとチームビルディングをはかる「あそぶ社員研修 総合資料」を無料で受け取る

 

反転学習とは

反転学習とは、従来の学習の流れを反転させた学習形態のことをいいます。従来の学習は、一般的に「学校で授業を受け、自宅で復習のための宿題をする」という流れで行われてきました。これを反転させ、「宿題で基本的な学習をして、その後で授業を受ける」という流れにしたものが、反転学習です。

反転学習の宿題とは、説明型の講義などを動画化したものを指します。学習者には、授業前にその動画を視聴して基本的なことを頭にインプットしておいてもらいます。そして授業では、それらを定着させたり、応用できるようにしたりするための活動を行います。

反転学習は、20世紀後半のアメリカで生まれたものだといわれています。そして、高校の教員であったジョナサン・バーグマン氏とアーロン・サムズ氏が「Flipped Classroom」という用語を使用するようになり、反転学習が広く知られるようになりました。日本では、「反転学習」よりも「反転授業」と呼ばれることのほうが多いかもしれません。

反転学習は、2012年ごろから日本の教育現場でも実践が広がりはじめ、近年は企業研修の方法としても注目されるようになってきています。

反転学習はブレンディッドラーニングのひとつ

ブレンディッドラーニングとは、複数の学習方法をブレンド(混合)した学習のことです。たとえば企業研修の方法には、集合型研修やOJTeラーニングなどがあります。このうちどれか1つではなく、複数の方法を組み合わせて学習を提供するというのが、ブレンディッドラーニングです。具体的には、「eラーニングで基礎知識をインプット → 集合型研修でアウトプット(ロールプレイング、グループワーク、質疑応答など)」というような流れが考えられます。このように、まず動画で事前学習をして、その後、授業で定着・応用を図る反転学習は、ブレンディッドラーニングのひとつと捉えることができます。

ブレンディッドラーニングにはさまざまな定義があり、プログラムの一部にオンライン学習が取り入れられたものだけを指すこともあります。ブレンディッドラーニングとはどのようなものなのか、メリットや効果を高めるポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。

ブレンディッドラーニングとは?企業研修に導入するメリットやポイントを解説

「ハイブリッド型学習」とは

オンライン学習を組み合わせた学習形態は、「ハイブリッド型学習」や「ハイブリッド型授業」とも呼ばれることがあります。ハイブリッド型学習には、以下の4つの形式があります。

  • ローテーション型……ひとつのコース・科目の授業に、オンライン学習や対面学習が含まれている形態。
  • 反転学習……オンラインで事前学習を行い、対面で演習などを実施する形態(ローテーション型に含まれることもある)。
  • ハイフレックス型……オンライン / 対面、同期 / 非同期 を学習者が選択できる形態。
  • 分散型……学習者をオンライン学習のグループと対面学習のグループに分けて授業を実施する形態。翌週はオンラインと対面を入れ替える形で運用する。

参考:ハイブリッド型授業に関する知見の整理とFD研修の実践(浦田 悠) – 神戸大学(PDF)

このように反転学習(反転授業)は、ハイブリッド型学習の一部でもあるということです。

ブレンディッドラーニングとハイブリッド型学習は同義で用いられることが多いですが、「ブレンディッドラーニングはハイブリッド型学習の一部」と整理されることもあります。

反転学習が注目されている理由

反転学習が注目されているのは、これを導入することで、より効果的な学習を提供できるようになるためです。後述しているように、反転学習はさまざまな効果が期待できるといわれています。まだ実践研究の数は多くありませんが、反転学習により学習者の理解が深まったという事例も報告されているようです。

多くの業界で人手不足が深刻な課題となっており、企業においては即戦力の育成が急務となっています。反転学習を導入すれば、従来型の研修よりもアウトプットの時間をより多く確保できるようになります。行動変容にもつながりやすくなり、育成がスムーズに進むようになることが期待できるでしょう。

さらに、新型コロナウイルス感染症の流行がきっかけで日本でもテレワークの導入が進み、これに伴いオンライン研修が普及しました。このことも、反転学習の注目度が高まっている理由の1つではないでしょうか。今後は教育現場や企業にも、ますます普及していくのではないかと考えられます。

反転学習のメリット

ではここからは、反転学習を導入することでどのような効果が期待できるのかを解説していきます。

学習効果が向上する

従来の学習方法では、授業(研修)時間の多くを学習内容の説明にとられてしまい、定着や応用のための時間を十分確保することができませんでした。反転学習なら、その説明の部分を動画化して、学習者に事前に学んでおいてもらえるようになるため、授業ではより多くの時間を知識の定着・応用のために使えるようになります。具体的には、テストやロールプレイング、ディスカッションといったアウトプット活動や、個別指導などに時間を使えるようになります。特に企業研修の場合は、研修の後に行動変容につなげることが大切なので、アウトプットの時間はより多く設けたいところです。知識をインプットするだけでなく、業務のなかでそれらを活用できるようになってもらわなければ、研修を実施してもあまり意味がありません。

これまでにも、事前に教科書を読んできてもらう、配布したプリントをやってきてもらうなどの形で予習をしてから授業を行うという形はありました。しかし、このような予習には、講師による解説はありません。反転学習の事前学習は、基本的に説明中心の動画を視聴して学びます。そのため、授業で説明を聞くのと同程度の学習ができるというのが大きな特徴です。また、授業のなかで説明を行う場合は、学習者は1回しか説明を聞くことができません。大事なポイントをうっかり聞き逃してしまうこともあるかもしれませんが、反転学習なら説明部分が動画になっているので、わからないところがあったら繰り返し学べるというのもメリットです。

このような理由から、反転学習を導入することで、学習効果の向上が期待できるでしょう。

学習を速められる

反転学習を導入することで、学習を速めることができる可能性があります。日本の初中等教育でも、反転学習の導入により学習が速まった事例があります。

近畿大学附属高等学校では、2013年度から新入生にiPadを購入してもらい、英語と数学の授業に反転学習を導入しています。これにより、授業ではアウトプット活動により多くの時間を使えるようになり、生徒と教師がかかわる時間も増えました。また、生徒が自宅で学習する時間が増えたため、より多くの学習内容を扱えるようになり、英語の授業においては、1年間かけて学習する範囲を半年で完了できるようになったそうです。

参考:反転授業 ICTによる教育改革の進展(重田 勝介) – J-Stage(PDF)

企業研修にも反転学習を導入することで、従業員に多くの知識やスキルを効率よく習得してもらえるようになるのではないでしょうか。

個人に合わせたサポートがしやすくなる

従来の授業は、一人の講師が大勢の学習者に対して一斉に同じことを伝えるという形が一般的でした。そのため、学習者の人数にもよりますが、一人ひとりの理解度を把握したり、個別にサポートしたりするのは困難でした。

反転学習を導入すれば、動画化した部分の説明を授業では省略できるので、個別指導により多くの時間を使えるようになります。また、学習者にはアウトプット活動に取り組んでもらい、講師はファシリテーターとして支援するという形も可能になるでしょう。

このように、従来の授業よりも学習者一人ひとりに合わせたサポートがしやすくなるというのも、反転学習のメリットのひとつです。

コミュニケーションが生まれる

授業にロールプレイングやディスカッション、ディベートといったグループで取り組むアウトプット活動を取り入れることで、学習者同士に交流を促すことができます。反転学習を導入し、これまで多くの時間を割いていた学習内容の説明(講義)部分を動画化することで、授業ではこの時間をより多く確保できるようになります。その活動を講師がファシリテーターとして支援することで、学習者と講師のコミュニケーションも増やせるでしょう。

企業研修に反転学習を導入し、グループでのアウトプット活動を取り入れることで、社内コミュニケーション活性化や、相互理解の促進といった効果も期待できるのではないでしょうか。

反転学習のデメリット(課題)

反転学習にはさまざまなメリットがあることがわかりました。しかしその反面、反転学習にはでデメリット(課題)もあります。ここからは、企業研修に反転学習を導入する際の課題を紹介していきます。

デジタル教材を作成する負担が大きい

反転学習を実施するには、事前学習に使うデジタル教材(動画)を用意しなければなりません。しかし、これを作成するノウハウが社内にない、もしくは作成する時間的な余裕がないというケースも多いでしょう。また、講師は機材に向かって一人で話をしなくてはなりません。その状況に慣れず、うまく話せない人もいるでしょう。このように、デジタル教材を作成する負担が大きいというのが、反転学習の課題の1つです

この負担をできるだけ減らすために、反転学習を導入するならLMS(学習管理システム)を活用するのがおすすめです。多くのLMSには、教材作成機能が搭載されています。これを使えば、これまでの研修で使用していたパワーポイントやPDF資料などを使って、簡単にデジタル教材を作成できます。また、LMSを導入することで、学習者の管理も容易に行えるようになるというメリットもあります。

または、社内でデジタル教材を作成するのではなく、外部に委託するというのもひとつの方法です。専門性の高い研修の場合は特に、人材育成のプロの手を借りたほうが、学習の効果も高められるでしょう。

LMS(学習管理システム)については、以下の記事でも詳しく紹介しています。

学習管理システム(LMS)とは?機能・メリット・比較ポイントを紹介

環境を整備する必要がある

反転学習を導入すると、従業員には研修前に事前学習に取り組んでもらわなくてはならなくなります。しかし家庭によっては、データ量の大きい動画を視聴できるインターネット回線が整備されていないこともあるでしょう。このように、実施するための環境整備が大変であるという点も、反転学習の課題のひとつです。もし、自宅のインターネット環境が十分でない従業員がいるなら、インターネット上で動画を見てもらう以外の方法も検討してみましょう。具体的には、USBDVDで動画を持ち帰ってもらうという方法が考えられます。

また、反転学習を実施する際に使用するパソコンやタブレッドなどは、企業から配布するのが望ましいですが、それ専用のものを人数分用意するとなると結構な費用がかかります。個人が所有しているものを使用してもらっても構いませんが、情報セキュリティの管理が難しくなります。この点も、十分検討しておく必要があるでしょう。

全員が事前学習をしてくれるとは限らない

反転学習を導入すると、研修前の事前学習が必要になりますが、これを全員がきちんと実施してくれるとは限りません。「仕事が忙しいのに」と、ネガティブに捉えられてしまう可能性もあるでしょう。事前学習の重要性を、従業員にいかに理解してもらうかというのも、反転学習の課題のひとつです

反転学習は、学習者の自主性によって学習効果に差が生じます。状況に応じて、理解度が低い学習者に対しては追加で学習支援を行うなど、工夫する必要があるでしょう。

講師には高いファシリテーションスキルが求められる

反転学習を導入し、研修にアウトプット活動を取り入れるなら、講師にはその活動を支援することが求められます。効果的な反転学習を行うためには、講師には「教える」以外のスキルも身につけてもらわなければなりません。具体的には、ファシリテーションスキルです。受講者にアウトプット活動への積極的な参加を促す、一人ひとりの理解度を把握し適切な支援を行うといったスキルが求められます。

社内講師で研修を実施するなら、その従業員にはファシリテーションスキルを磨いてもらいましょう。また、運営から講師を担当する従業員へ必要な情報を提供することも重要です。

反転学習を実施する流れ

では最後に、反転学習を取り入れた企業研修を実施する場合の流れを見ていきましょう。

1.研修をデザインする

まずは、研修の目的・目標の設定、課題の分析などを行いましょう。そのうえで、どのようなデジタル教材と対面学習(研修)が必要かを考えていきます。

反転学習のデザインには、「探究型」と「習得型」の2種類があるとされています。「探究型」は、デジタル教材で学んだことを活かして、対面でよりハイレベルな探究活動を行うというもの。「習得型」は、デジタル教材で学んだことを、対面学習でより深く習得するというものです。日本では、「習得型」が多く導入されています。

参考:反転授業のデザイン(森 明子) – J-Stage(PDF)

2.デジタル教材を作成し、共有する

反転学習をデザインできたら、必要なデジタル教材を作成しましょう。先ほどお伝えしたように、デジタル教材の作成は、LMSを活用したり、外部に委託したりするのもおすすめです。

デジタル教材を作成できたら、受講者に共有し、期日までに学習を済ませておいてもらいましょう。ただ動画を視聴してもらうだけでなく、あわせて確認テストなども用意しておくと、理解度を把握しやすくなります。

3.研修を実施する

最後は、計画のとおりに対面学習(研修)を実施します。研修は、行動変容につなげることが重要です。これを実現させるために、研修の最後に、受講者には学んだことを今後どのように活かしていくのかという「行動目標」を設定してもらうとよいでしょう。そして、研修を実施した後も定期的に振り返りの機会を設けると、行動が定着しやすくなります。

また、研修を実施した後は、その効果を測定することも忘れないでください。実施して終わりではなく、教材や研修の内容等をきちんと評価して、改善し続けていくことが重要です。

まとめ

アメリカで生まれた反転学習(反転授業)が日本でも広がりはじめており、企業研修にも活用されるようになってきています。研修は、その後の行動変容が実現されることが重要です。反転学習を導入すれば、アウトプットにより多くの時間を使えるようになり、行動変容につながりやすくなるでしょう。

 

あそぶ社員研修」は、受講者全員が没入して取り組むアクティビティと専門講師の講義・振り返りをブリッジすることで、翌日から業務で活用できる知識・スキルが身につく研修プログラムです。
アクティビティが受講者の主体性を高めてコミュニケーションを促進させ、スキルアップやチームビルディングをはかれます。
⇒あそぶ社員研修 総合資料を受け取る

この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

よく読まれている記事