越境学習とは?導入するメリット・具体的な方法を紹介

  • 学習法

近年、「越境学習」という人材育成の方法が注目を集めています。まだ日本においては普及しているとはいえない状況ですが、イノベーションの創出や従業員のキャリア自律のために、これを取り入れる企業も増えてきています。

本記事では、越境学習とは何か、メリットと具体的な方法、企業が越境学習を導入する際の注意点について、わかりやすく解説します

 

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越境学習とは

越境学習にはさまざまな定義がありますが、経済産業省の以下ページでは、「越境学習とは、ビジネスパーソンが所属する組織の枠を越え(“越境”して)学ぶこと」であるとされています

出典:越境学習によるVUCA時代の企業人材育成|経済産業省「未来の教室」事業 社会課題の現場への越境プログラム

つまり越境学習とは、「いつもの職場とは異なる環境に身を置いて、そこで学習すること」と言い換えることができるでしょう。上記の経済産業省のページでは、経済産業省が実証事業として2年間実施していた社会課題の現場への越境プログラムが紹介されていますが、社会課題に取り組む以外にも、他企業への出向や海外研修、ワーケーション、異業種勉強会・交流会への参加など、越境学習にはさまざまな方法があります。越境学習の具体的な方法については、のちほど詳しく紹介します。

越境学習が必要とされている背景

越境学習が必要とされるようになっているのは、現代が「VUCA時代」と呼ばれるほど、変化が激しく、未来を予測することが困難な時代になっているためです。「VUCA」は、以下の4つの英単語の頭文字をとったもので、「ブーカ」と読みます。

  • Volatility(変動性)
  • Uncertainty(不確実)
  • Complexity(複雑性)
  • Ambiguity(曖昧性)

このVUCA時代の到来により、企業には事業の創造と変革が、働く人にはキャリア自律が求められるようになっています。キャリア自律とは、主体的に自分のキャリアについて考え、その実現に向けて取り組むことをいいます。従業員のキャリア自律を促しつつ、人材の流出をどのように防ぐかというのも、現在日本企業が直面している課題の一つです。

越境学習の効果(メリット)は次項で詳しく紹介していますが、従業員に普段とは異なる環境で多様な経験を積んでもらうことで、所属企業のなかだけでは得られないさまざまなことを学んでもらうことができます。これにより、新たなイノベーションも生まれやすくなるでしょう。また従業員個人としても、改めて自分の価値観や考え方を確認するきっかけになるかもしれません。その結果として、従業員満足度が向上し、離職防止につながるともいわれています。

ただ、越境学習の重要性は認知されてきてはいるものの、まだ浸透しているとはいえないのが日本の現状です。「本業へ影響が出るのではないか」「逆に転職するきっかけとなってしまうのではないか」などと考える経営層が多いようです。

越境学習のメリット

次に、企業が越境学習に取り組むことでどのようなメリットがあるのか、詳しく解説していきます。

従業員と企業の成長につながる

越境学習に取り組むことで、従業員と企業双方がより成長することができるでしょう。

まずは従業員個人についてですが、異なる環境に身を置き、そこで活動することで、さまざまな知識やスキル、ノウハウを学ぶことができます。また、越境学習は内省を促す効果もあるとされており、自己理解が深まることも期待できます。さらに、越境学習の場ではさまざまな人に出会えます。多様な価値観や考え方、情熱に触れることで、視野も広がり、志も磨かれるでしょう。そのため、次世代リーダーの育成方法としても有効です。実際に経済産業省のプログラムに参加した人は、リーダーとしての成長を実感することができたそうです。

参考:越境学習によるVUCA時代の企業人材育成|経済産業省「未来の教室」事業 社会課題の現場への越境プログラム

そして、越境学習を終えた従業員は、外で学んだことを企業に持ち帰って来てくれます。企業としては、従業員に越境学習に参加してもらうことで、自社のなかだけでは得られない視点や情報、ノウハウを、効率的に集められるようになるのです。それらを活用して新たなイノベーションが生まれたり、改善すべき点に気づけたりすることもあるかもしれません。

従業員のキャリア自律を促せる

キャリア自律とほぼ同じ意味の言葉に、キャリア・オーナーシップがあります。経済産業省の資料『「人生100年時代の社会人基礎力」と「リカレント教育」について』では、「没頭・越境体験」に取り組むことが、キャリア・オーナーシップの確立につながることが示されています。

参考:「人生100年時代の社会人基礎力」と「リカレント教育」について – 経済産業省(PDF)

越境学習を通して多様な人々とかかわり、さまざまな経験をするなかで、改めて自分の軸を確認することができるでしょう。自分のキャリアについても考えるきっかけになるかもしれません。

また、自分のキャリアのために「何か新しいことに挑戦したい」「違う環境で頑張ってみたい」という気持ちを持っていても、組織のなかにいると体験できることは限られています。越境学習が企業のなかに制度として設けられていれば、従業員は転職をすることなく、新しいことに挑戦できるというメリットもあります。

なお、キャリア・オーナーシップについては、以下でも詳しく解説しています。

キャリアオーナーシップとは?企業ができる取り組みを紹介

人材の流出防止につながる

厚生労働省が公表している『令和4年度「能力開発基本調査」』では、正社員の約3分の2以上が、「自分で職業生活設計を考えていきたい」と回答しています。

出典:令和4年度「能力開発基本調査」 – 厚生労働省(PDF) 

このデータから、自分のキャリアは自分で考えたいと思っている人が多いことがわかります。越境学習に取り組み、キャリア自律が促されれば、従業員満足度が向上し、その結果として人材の流出防止の効果も期待できるのではないでしょうか。

ただ、従業員のキャリア自律が高まれば、確かに転職を考え始めることもあるかもしれません。しかし、個人の意識を高めなければ、企業としても環境の変化に対応していくことが難しくなってきています。自社のビジョンを浸透させることなどとともにキャリア自律を促し、働く人に選ばれる企業になっていくことのほうが、これからの時代を生き抜いていくためには重要といえます

参考:「我が国産業における人材力強化に向けた研修会」(人材力研究会)報告書 – 経済産業省中小企業庁(PDF)

また、社会全体の人材の流動性を高めることも大切です。経済産業省が公表している資料『イノベーション小委員会中間とりまとめ』では、日本で越境学習を浸透させていくためには「元の組織に戻る前提で外部に出るような日本型の人材の流動化を進めることが重要」だとされています。そして、ガイドラインや事例集を策定し、越境学習の認知度向上を図り活用を進めるとされていますので、今後ガイドラインや事例集も作られていくのではないでしょうか。

出典:イノベーション小委員会中間とりまとめ(本文) – 経済産業省(PDF)

越境学習の具体的な方法

ここからは、越境学習の具体的な方法を紹介していきます。

1.他企業への出向

出向には、出向元に籍を置いたままの在籍出向と、出向元に籍が残らず、出向元企業へは戻らないことが前提となる移籍出向(転籍出向)がありますが、越境学習で注目されているのは、在籍出向です。在籍出向により、自社だけでは得られない経験、新たな知識・スキルの習得が期待できます

厚生労働省には、スキルアップを目的とした在籍出向を支援する助成金制度もあります。

厚生労働省ホームページ:産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

また、東京都では在籍出向を支援する事業も実施しています。中小企業とスタートアップの成長促進と、大企業の人材育成を支援するための事業で、出向元・出向先のマッチング(出向元:大企業、出向先:中小企業・スタートアップ)や契約手続きなどのサポート、研修やフォローアップなどを行うとされています。

東京都ホームページ:大企業と中小企業・スタートアップの人材交流|東京都 (tokyo.lg.jp)

2.海外研修

海外研修や海外視察、海外留学、海外派遣なども、越境学習の代表的な方法として挙げられます。一口に海外研修といってもさまざまな形がありますが、なかでも注目されているのが「留職」です。「留職」とは、一定期間海外に身を置き、社会課題の解決に取り組んだり、技術指導をしたりすることをいいます。

海外に身を置くことで、言葉や人種、文化の壁を越えて多様な価値観に触れることができるため、グローバル感覚が養われるでしょう。異なる価値観を理解する力、困難な状況でも周りを巻き込んで乗り越える力、経営視点などが身につくことが期待できます。リーダーの育成に有効な方法です。

3.ワーケーション

ワーケーションとは、work(仕事)とvacation(休暇)を組み合わせた造語です。職場や自宅とは異なる場所で、テレワークなどを活用して仕事をしつつ休暇も楽しむという、新しい働き方・旅のスタイルのことをいいます。

ワーケーションは、大きく分けて休暇型と業務型の2種類があります。

  • 休暇型……福利厚生として導入されるワーケーションです。従業員は有給休暇を活用し、リゾート地や観光地に滞在しながらテレワークを行います。
  • 業務型……業務を主体とするワーケーションです。地域課題の解決のために活動する「地域課題解決型」、いつもの職場とは異なる場所でチームのメンバーと議論を交わす「合宿型」、サテライトオフィスやシェアオフィスに勤務する「サテライトオフィス型」があります。

観光庁のホームページでは、ワーケーションのメリットとして、仕事の質が向上する、イノベーションが生まれる、帰属意識が向上する、人材の確保・流出防止につながるなどが紹介されています

参考:「新たな旅のスタイル」ワーケーション&ブレジャー (mlit.go.jp)

4.社会貢献活動

社会貢献活動にもさまざまなものがありますが、越境学習の方法として特に近年注目されているのが、「プロボノ」です。プロボノの語源は、ラテン語の「Pro Bono Publico」だといわれています。意味は「公共善のために」です。専門的なスキルや知識を持つ人が、それらを活かして社会貢献に取り組む活動のことをいいます。

プロボノには、個人で参加するもの、チームで参加するものなどいろいろな形があります。活動期間や内容、規模もさまざまです。越境学習としてだけでなく、CSR活動の一環としてプロボノを実施する企業も増えています

5.副業

副業も、越境学習の一つの方法です。企業が副業を解禁すれば、従業員は普段の生活を大きく変えることなく、越境学習に取り組むことができます。

政府もキャリア形成促進などのために副業・兼業を推進しています。また、働く人の副業・兼業のニーズも高まっています。副業を解禁し、働く人のニーズに応えることで、従業員満足度の向上、離職率の低下といった効果も期待できます

6.社会人大学院

社会人大学院とは、社会人向けの大学院のこと。従業員に進学してもらい、専門的な知識やスキルを学んでもらうというのも、越境学習の一つの方法です。特定の分野について集中して学ぶことができるため、専門性を高めることができます。また、大学院にはさまざまな業種のビジネスパーソンが集まっていますので、交流を通じて得られる学びもあるでしょう。

大学院での訓練は、厚生労働省の助成を受けられる場合もあります。こうした制度も活用しつつ、従業員の学びの支援を検討してみてはいかがでしょうか。

参考:国内・海外の大学院で訓練を受講した場合も訓練経費等の助成が受けられます – 厚生労働省(PDF)

7.異業種勉強会・交流会

異業種勉強会・交流会とは、文字通り異なる業種や業界の人が集まる勉強会や交流会のことです。従業員にこうした集まりへの参加を促すことで、従業員は多様な考え方や価値観、文化に触れる機会を得ることになり、多角的な視点を養うことができるでしょう。また、交流を通じて最新情報を得られることや、ネットワーク(人脈)が築けるというメリットもあります。

越境学習を導入する際の注意点

最後に、企業が越境学習を導入する際の注意点を紹介します。

目的を明確にする

まずは、何のために越境学習を行うのかという目的を明確にしておきましょう。たとえば、「リーダーシップの育成」「グローバル感覚を養う」「キャリア・オーナーシップの確立」などです。

そして、参加希望者の目的(動機)をしっかりと見極めることも重要です。なかには、「今の職場が嫌だから離れたい」といった理由で参加を希望する人もいるかもしれません。目的によっては、期待した効果が得られない可能性もありますので、きちんと見極めて適切な人材に参加してもらうようにしましょう。

強制しない

越境学習は、参加を強制するのではなく、希望する人が参加する形にすることをおすすめします。越境学習の方法によっては、一定期間、働き方や住む場所まで変わることになります。これをストレスに感じる人もいるでしょう。また、さまざまな理由で今住んでいる場所から離れられない人もいます。そして何より、越境学習は自発的に行わなければ、高い学習効果も期待できません。

ただ、希望者を募る形にすると、せっかく越境学習ができる体制を整えたのに思うように参加希望者が集まらない可能性もあります。越境学習とは何か、施策と目的、メリット等を積極的に発信して、参加を促すことは必要です。

負担をどのようにカバーするのかを考えておく

越境学習を実施するには、金銭的・時間的なコストがかかります。また、越境学習のために現場を離れる従業員がいれば、その人が担当していた業務を誰かがカバーしなければいけなくなります。その人が抜けることで、全体としてのパフォーマンスが下がってしまうこともあるかもしれません。

このように、越境学習は多くの負担がかかるものです。どこにどのくらいの負担がかかるのか、それらを無理なくカバーできるのかも、十分検討したうえで導入するようにしましょう

実施して終わりにしない

越境学習にただ参加するだけでは、時間の経過とともに学んだことを忘れてしまう恐れがあります。学んだことを定着させ、業務に活かせるようになってもらうために、実施後は振り返りやフィードバックの機会を設けるようにしましょう。たとえば、上司と面談する、報告会を開催する、報告書を提出してもらうといった方法が考えられます。

そして、従業員が持ち帰った学びは社内全体に共有し、イノベーション創出のために活用できるようにしましょう。

まとめ

VUCA時代の人材育成として注目されている、越境学習について解説しました。従業員に自社の枠を越えて学習してもらい、それを自社に持ち帰ってもらうことで、企業としても自社だけでは得られない知識やノウハウを集められるようになります。企業の継続的な成長のために、越境学習の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

 

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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