カッツモデルとは?スキル・構成要素・人材育成に活用する方法を紹介

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多くの企業で人材育成や人事評価に活用されている、「カッツモデル」という考え方があります。

本記事では、このカッツモデルについて、詳しく解説していきますカッツモデルとはどのような理論なのか、カッツモデルを構成する3つの階層と、マネジメント層に必要とされる3つのスキル、カッツモデルを活用する方法と、活用することで期待できる効果、さらに、「ドラッカーモデル」というカッツモデルと似た理論についても、簡単に紹介します。

 

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カッツモデルとは

カッツモデルとは、ハーバード大学教授のロバート・カッツ氏が、1955年に発表した論文「スキル・アプローチによる優秀な管理者への道(原題: Skills of an effective administrator )」のなかで提唱した理論です

それまでは、優秀なマネージャーになれるかどうかは、その人が生まれ持った才能や素質で決まると考えられていました。そのようななかでロバート・カッツ氏は、マネージャーの優秀さは「スキル」によって決まると主張したのです。

ロバート・カッツ氏は、マネージャーやリーダーに求められるスキルは「コンセプチュアルスキル」「ヒューマンスキル」「テクニカルスキル」の3つで、「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」の階層ごとに、スキルの重要度が以下のように変化すると述べています。

参考:「世界標準のリーダーシップ」(著者:安部哲也 / 出版社:総合法令出版 / 発売:2022年)

カッツモデルを構成する階層3

ここからは、カッツモデルの理論をより詳しく解説していきます。まずは、カッツモデルを構成するマネジメントの3つの階層「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」それぞれに、どのような人材が当てはまるのかを見ていきましょう。

トップマネジメント

トップマネジメント層には、経営者や幹部クラスが該当します。具体的には、最高経営責任者(CEO)や最高執行責任者(COO)、会長、社長、副社長などのように、組織全体の方針を決めたり、最終的な意思決定を行ったりする立場の人たちです。

トップマネジメント層の主な役割は、組織全体の管理と運営です。そのため、現場に直接指示を出したり、自身が作業したりすることはあまりありません。

ミドルマネジメント

ミドルマネジメント層には、中間管理職クラスが該当します。具体的には、部長や課長、エリアマネージャー、支店長、工場長などのように、現場で業務をこなすメンバーをまとめる立場にある人たちです。

ミドルマネジメント層の主な役割は、トップマネジメント層が決定した組織の目的や目標、方針などを現場に浸透させ、これらを実現するためにメンバーをリードしていくことです。このほかに、自分が担当する範囲における意思決定の責任や、ほかの部署との調整、メンバーの動機付けや育成、評価などを行う役割も担っています。

ロワーマネジメント

ロワーマネジメント層には、監督者層が該当します。具体的には、主任や係長、チーフ、プロジェクトリーダーやチームリーダーなどのように、現場で実際に指揮をとる立場の人たちです。

ロワーマネジメント層の主な役割は、業務の管理です。ほかのメンバーを監督しつつ、マネージャー自身も業務を行います。3つ階層のなかで、最も現場に近い存在であるといえるでしょう。

カッツモデルを構成するスキル3

次に、マネジメント層に求められる3つのスキル、「コンセプチュアルスキル」「ヒューマンスキル」「テクニカルスキル」について、詳しく解説していきます。

コンセプチュアルスキル

コンセプチュアルスキルは、日本語では「概念化能力」とも呼ばれているスキルです。ロバート・カッツ氏は、コンセプチュアルスキルを「企業を総合的にとらえることができる能力」としています。

わかりやすく表すなら、企業が「最終的に目指す姿や戦略などを構築する力」といえるでしょう。もっと具体的にいうなら、組織にはさまざまな機能がありますが、それらがどのくらい相互に依存し合っているのか、そのなかの1つに変化が生じたとき、全体にどのような影響が及ぶかを正しく認識することや、自社の事業と産業、地域社会などとの関係を明確に描くことができる力が、コンセプチュアルスキルです。

コンセプチュアルスキルは、カッツモデルではトップマネジメント層において特に重要であるとされています。また、組織の将来を担うミドルマネジメント層にも、徐々に求められるようになってくるスキルです。

参考:管理職に求められる「マネジメント」、管理職が執るべき行動の在り方について – 内閣府(PDF)

コンセプチュアルスキルの構成要素

コンセプチュアルスキルの構成要素にはさまざまな定義がありますが、以下の3つは必須の要素といえるでしょう。

ロジカルシンキング

物事をモレ・重複なく体系的に整理し、筋道を立てて最適な答えを導き出す思考法。「論理的思考法」とも呼ばれる。

クリティカルシンキング

常識や前提条件を疑い、物事の本質を見極めようとする思考法。「批判的思考」とも呼ばれる。

ラテラルシンキング

既存の理論や固定観念にとらわれず、さまざまな視点から物事を見て、自由に発想を広げていくという思考法。「水平思考」とも呼ばれる。

そのほかにも、コンセプチュアルスキルには以下のような要素が含まれるとされることが多いです。

多面的視野

視野が広いということ。ただいろいろな視点から物事を見るだけではなく、多角的に分析する力も求められる。

柔軟性

状況の変化に素早く適応できることや、予期せぬ問題が発生しても臨機応変に対応・判断できるといった性質。

受容性

自分と異なる考えや価値観を受け入れることができる性質。

知的好奇心

物事に強い興味・関心を持ち、「もっと知りたい」と思う気持ち。

探究心

わからないことについて理解を深め、その本質を見極めようとする心。

応用力

すでに持っている知識やスキルを、新たな事柄や問題の解決などに役立てる力。

直観力

論理的な推理や考察をすることなく、これまでの経験などから感覚で意思決定や判断を行う力。

洞察力

物事の本質を見抜く力。目に見える表面的な部分だけでなく、その裏側にある部分までも見抜いていくことをいう。

俯瞰力

高いところから物事を見て、その全体像を捉えることができる力。主観的(自分の視点)でも客観的(第三者の視点)でもなく、フラットに全体を見る力ともいえる。

チャレンジ精神

新しいことや苦手なこと、難易度の高い問題や課題にも、積極的に挑戦しようとする姿勢。

先見性

将来の状況や、この先起こりうる出来事を予測する力。

ヒューマンスキル

ヒューマンスキルは、日本語では「対人関係能力」とも呼ばれているスキルです。具体的には、チーム全員で協力できる雰囲気をつくる力や、自身と各メンバーとの間に信頼関係を構築する力、メンバー同士で良好な人間関係を構築できるようサポートする力などです。また、マネージャー自身もグループの一員として手際よく仕事をすることも、ヒューマンスキルに含まれるでしょう。簡単に表すと、「全員で協力して成果を上げられるチームをつくる力」といえるかもしれません。

ヒューマンスキルは、トップマネジメント層とロワーマネジメント層をつなぐ役割を担うミドルマネジメント層に特に求められるスキルですが、カッツモデルではすべての階層において重要とされています。

ヒューマンスキルの構成要素

ヒューマンスキルには、以下のような要素が含まれます。

コミュニケーション能力

他者と意思疎通をスムーズに行い、良好な関係を構築する力。

リーダーシップ力

周りに良い影響を与えて、メンバーをまとめて目標達成まで率いていく力。

ヒアリング能力

相手の話をしっかりと「聴く」力。相手が伝えたいことを引き出す力も含まれる。

ネゴシエーション能力

交渉や折衝をスムーズに進め、お互いが納得できる結果を導き出す力。

プレゼンテーション能力

自分のアイデアや提案をうまく説明し、相手に理解してもらう力。相手が必要としている情報を的確に伝えることが求められる。

コーチング能力

相手のやる気や能力を引き出し、自ら目標を達成できるように促すコミュニケーション技術。

ファシリテーション能力

会議やミーティングをスムーズに進める力。司会進行だけでなく、メンバーから意見を引き出したり、多様な意見をまとめ合意を形成したりすることも求められる。

向上心

より高い目標を掲げ、その達成を目指して努力する心や姿勢。

テクニカルスキル

テクニカルスキルは、日本語では「業務遂行能力」と呼ばれているスキルです。文字通り、業務を遂行するため必要になる知識やスキルのことをいいます。

テクニカルスキルは、現場でほかのメンバーとともに業務をこなすロワーマネジメント層において特に重要なスキルです。カッツモデルでは、階層が上がるほどテクニカルスキルの重要度は低くなっていきます。

テクニカルスキルの種類

テクニカルスキルは、「汎用スキル」「専門スキル」「特化スキル」の3種類に分けられます。具体的にどのようなスキルが求められるかは、業界や職種によって異なります。

汎用スキル

さまざまな職種で求められる基礎的なビジネススキル。

(例:ビジネスマナー、基本的なパソコンスキル、PDCAサイクルを回す力、ロジカルシンキング など)

専門スキル

業界や職種によって必要となる専門的な知識やスキル。

(営業職の場合:商品知識、プレゼンテーションスキル、関係構築力 など)

特化スキル

ある分野に特化した、専門スキルよりもさらにプロフェッショナル性が高いスキル。

(開発部門の場合:特定のプログラミング言語やアルゴリズム、セキュリティなどに関する深い知識)

カッツモデルの活用方法

ここまで、カッツモデルの考え方を詳しく解説してきました。では、カッツモデルは、人材育成にどのように活用することができるのでしょうか。ここからは、その方法を紹介していきます。

ステップ1:階層ごとに求めるスキルを定義する

まずは、カッツモデルをもとに、自社のマネジメント層を「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」の3つに分けましょう。そして、階層ごとにどのようなスキルを求めるのかを明確にします。実務面だけでなく、精神面を含めさまざまな面から細かく分析しましょう。

事業内容や文化が違えば、マネジメント層に必要なスキルも変わるはずなので、まずは自社にとって必要なスキルをしっかり定義することが大切です。そうすることで、どのような教育や研修を行うべきかが見えてきます。また、どのようなスキルが必要なのかを明確に示すことで、人事評価の納得度も高めることができるでしょう。

ステップ2:階層ごとに研修を実施する

求めるスキルを明確にできたら、それらを習得してもらうために、階層ごとに研修を行います

研修の内容は、定義したスキルによっても変わってきますが、たとえばトップマネジメント層を対象とする研修なら、経営力の向上や、「トップ」としての意識を持ってもらえるような内容とすることで、コンセプチュアルスキルを高めることができるでしょう。

ミドルマネジメント層は、トップマネジメント層と現場をつないだり、メンバーの育成や動機付けを行ったりする役割がありますので、リーダーシップやコミュニケーションスキルの向上につながる研修や、ハラスメント防止研修などがおすすめです。

メンバーとともに業務にあたるロワーマネジメント層を対象とする研修は、業務の効率や質の向上につながるような実践的な内容にすると良いでしょう。

階層ごとに、おすすめの研修テーマをまとめてみました。

トップマネジメント層
(コンセプチュアルスキル)

  • インクルージョン研修
  • ダイバーシティ研修
  • ワークライフバランス研修
  • 女性活躍推進研修
  • クリティカルシンキング研修
  • 戦略思考研修

ミドルマネジメント層
(ヒューマンスキル)

  • リーダーシップ研修
  • ラインケア研修
  • ストレスマネジメント研修
  • リーダーコミュニケーション研修
  • 交渉術・ネゴシエーション研修
  • コーチング研修
  • ハラスメントを避ける指導法研修

ロワーマネジメント層
(テクニカルスキル)

  • 業務改善研修
  • 事務作業向上研修
  • ビジネスマナー研修
  • PDCA研修
  • ビジネス文章研修

カッツモデルを活用することで得られる効果

カッツモデルを人材育成に活用することで、自社にどのようなスキルを持った人材が必要なのか、そして、現状どの部分が不足しているのかといった点が明確になります。そのため、具体的にどのような教育・研修を実施すべきか、どのようにして不足部分を補うかといった対策なども検討しやすくなるでしょう。

また、階層ごとに求めるスキルを定義することで、「求める人材」に対する経営層・人事側と現場との認識のズレも起きにくくなります。

さらに、従業員としても、企業から目指すべきマネージャー・リーダー像を明確に示してもらうことで、自分に足りない部分や、それを補うためにやるべきことを理解しやすくなります。よって、自己啓発を促す効果も期待できるでしょう。

コンセプチュアルスキルを重視した「ドラッカーモデル」とは

「マネジメントの父」と呼ばれるピーター・F・ドラッカー氏も、ビジネスに求められるスキルのモデルを提唱しています。これが、「ドラッカーモデル」と呼ばれるものです。

ドラッカーモデルでは、カッツモデルの3つの階層の下に、さらに「ナレッジワーカー(知識労働者)」という階層が追加されています。そして、カッツモデルでは階層が上がるにつれてコンセプチュアルスキルの重要度が高まっていきますが、ドラッカーモデルではこの位置に「マネジメントスキル」が置かれています。そして、コンセプチュアルスキルはすべての階層において重要なスキルとされているのが、ドラッカーモデルの大きな特徴です。目まぐるしく変化するビジネス環境に対応するために、最近はドラッカーモデルを人材育成に取り入れて、すべての従業員にコンセプチュアルスキルを習得させることに力を入れる企業も増えています。

階層ごとに求めるスキルを定義することで、自社に必要な人材や足りない部分が明確になります。効率よく、効果的な教育・研修を行うために、人材育成にカッツモデルやドラッカーモデルを活用してみてはいかがでしょうか。

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まとめ

自社にとってどのようなマネージャーやリーダーが必要なのかが明確になると、人材育成の取り組みや研修の内容を検討しやすくなります。まずは自社のマネジメント層をカッツモデルの3つの階層に分け、あらゆる面から分析して、必要なスキルを定義するところから始めてみてはいかがでしょうか。

 

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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