キャリア支援とは?重要性や企業の取り組み事例を紹介

  • 組織・人材開発

「キャリア支援」、または「キャリアサポート」などの言葉を、よく耳にするようになりました。企業が成長するためには、従業員のキャリア支援が欠かせません。

本記事では、キャリア支援とは何か、なぜ取り組む必要があるのか、企業の取り組み事例と、キャリア支援のポイントを解説します

さらに、厚生労働省が推奨する「セルフ・キャリアドック」についても最後に簡単に紹介しています。キャリア支援の取り組みを検討されている方の参考になれば幸いです。

 

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キャリア支援とは

キャリア支援とは、企業が従業員のキャリア形成を支援する取り組みのことです。厚生労働省の資料「キャリア支援企業好事例集2013」では、キャリア支援の具体的な取り組みとして、従業員に対して企業の人材育成方針を明確に示す、キャリア形成支援体制を整備する、キャリア形成の動機づけを行う、能力開発の機会を提供する、評価や人事へ反映させるなどが挙げられています。

参考:キャリア支援企業好事例集2013 – 厚生労働省(PDF)

また、大企業を中心に社内公募制を導入する企業も増えているようです。社内公募制とは、人材を求めている部署が社内に向けて募集をかけ、従業員が異動を願い出ることができるという制度です。そのほかにも、従業員に「企業(または上司)が求める能力」を知らせる、キャリア相談や自己啓発を行う、能力開発のための特別な休暇制度を導入するなど、企業によってさまざまな取り組みが実施されています。

キャリアとは「出世」や「昇進」だけではない

キャリア支援について詳しく解説する前に、まずは「キャリア」の意味を正しく理解しておきましょう。英単語のキャリア(career)には、「職業」や「職歴」「経歴」などの意味があります。これだけ見ると、「キャリア=出世、昇進」というイメージを持たれる方が多いかもしれません。それも間違いではありませんが、キャリアとは、出世や昇進だけではないのです。

厚生労働省は、キャリアとは「時間的持続性ないし継続性を持った概念」であり、この概念を前提に個人の職業能力を形成していくことが、キャリア形成であると説明しています

参考:「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書について – 厚生労働省

さらに、文部科学省は、人は職業人や家庭人、地域社会の一員など、生涯のなかでさまざまな役割を担っており、その役割を果たす過程で、自分の役割の価値や、役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ねが、キャリアであるとしています。

参考:中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」<抜粋>:文部科学省

つまり、キャリアには、職業上の経歴だけでなく、人の「生涯」や「生き方」といった意味も含まれていると理解できます。そう考えると、キャリア形成とは、自分がなりたい姿の実現を目指し成長していくことといえるでしょう。キャリア支援では、従業員が働く意味や目的、自分らしい働き方を見つけられるようにサポートすることも重要なのです。

 

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キャリア支援が必要な理由

では、なぜ企業が従業員個人のキャリア形成を支援する必要があるのでしょうか。ここでは、キャリア支援の重要性が高まっている理由を解説していきます。

個人と企業それぞれの成長のため

これまでは終身雇用制度が一般的だったため、企業に就職さえすれば、年功序列で昇給・昇進できていました。しかし、時代とともにビジネス環境が変化し、企業間の競争が激化。大企業でも、倒産のリスクがゼロとはいえない時代になっています。さらに、働き方やニーズも多様化しています。主体的にキャリア形成に取り組まなければ、企業のニーズと自分のスキルとの間にミスマッチが発生し、突然失業したり、長年培ってきたスキルが生かせなくなったりする可能性があるため、働く人にキャリア自律(※)が求められるようになっています。企業にも、それを支援する取り組みが求められているのです。

また、企業としても、激しい競争を勝ち抜いていくためには、従業員一人ひとりが持つ能力を最大限に活用できるような組織づくりが欠かせません。その取り組みの1つとして、キャリア支援の必要性が増しています。

キャリア支援は、従業員個人と企業、それぞれの成長に欠かせない取り組みといえるでしょう

※キャリア自律とは……環境が変化するなかで、自らのキャリア形成に積極的に取り組み続けること。

法律に定められているため

職業能力開発促進法には、事業主は、従業員が多様な職業訓練を受けることなどにより、職業能力の開発及び向上を図ることができるように、その機会の確保について具体的に講ずべき措置が規定されています

たとえば、第十条の三には、必要に応じてキャリアコンサルティングの機会の確保と、その他の援助を行うことが定められています。キャリアコンサルティングとは、従業員のキャリアに関する相談に応じて、助言や指導を行うことをいいます。そして、このキャリアコンサルティングの機会を確保する場合には、キャリアコンサルタント(キャリアコンサルティングの専門家)を有効に活用するように配慮することも定められています。

そのほかに、次のような内容も規定されています。

  • 教育訓練または職業能力検定を受ける時間を確保するため、必要に応じて、有給教育訓練休暇、長期教育訓練休暇、再就職準備休暇などを付与する、始業・就業時間の変更、勤務時間を短縮するなどの措置を講ずる。
  • 事業内職業能力開発計画を作成する。
  • 職業能力開発推進者を選任する。
  • 熟練技能等に関する情報を体系的に管理し、提供する など。

参考:職業能力開発促進法 | e-Gov法令検索

どのくらいの企業がキャリアコンサルティングを行っているのか

紹介したように、キャリアコンサルティングは法律にも定められていますが、実際に行っている企業はどれくらいあるのでしょうか。

厚生労働省が公表している令和4年度「能力開発基本調査」の結果によると、正社員または正社員以外に対してキャリアコンサルティングを行うしくみを導入している事業所は45.2%、キャリアコンサルティングを行うしくみがない事業所は54.6%という結果が出ています。そして、以下のグラフは、キャリアコンサルティングを行うしくみがある事業所の割合の推移です。まだ「多くの企業で実施されている」とはいえない状況ですが、徐々に浸透してきていることがわかります。

出典:令和4年度「能力開発基本調査」 – 厚生労働省(PDF)

キャリアコンサルティングを行っていない理由としては、「労働者からの希望がない」「キャリアに関する相談を受けられる人材の育成が難しい」などの理由が挙げられています。

また、キャリアコンサルティングのしくみがある事業所のうち、相談を受けているのがキャリアコンサルタントである事業所は10.7%、そうではない事業所が72.3%と、圧倒的に多くなっています。法律では、キャリアコンサルタントを有効に活用するよう規定されていますが、実際に活用している企業はあまり多くないのが現状のようです。

従業員の満足度向上のため

厚生労働省の令和4年度「能力開発基本調査」では、正社員の約3分の2が、主体的に職業生活を考えていきたいと回答しています。

参考:令和4年度「能力開発基本調査」 – 厚生労働省(PDF)

この結果から、自分自身のキャリアは自分で考えたいという人が多いことがわかります。そのため、従業員のキャリア支援を行うことで、従業員満足度の向上が期待できるでしょう。

満足度が高まると、仕事に対する意欲も高まり、エンゲージメントの向上も期待できます。エンゲージメントが高い社員が増えれば、職場全体が活性化します。キャリア支援に取り組むことで、企業と従業員がともに成長できる関係を築けるようになるでしょう

優秀な人材を確保するため

前項で紹介したとおり、自分自身のキャリアは自分で考えたいという人は多いです。このような考えを持つ人にとっては、「キャリア支援が充実しているか」という点も、就職先を選ぶ1つの基準になります。少子高齢化の影響や働き方が多様化したことで、人材の採用が難しい時代となっています。キャリア支援に取り組み、その取り組みを採用活動でアピールすることで、優秀な人材を採用しやすくなるでしょう

企業のキャリア支援の事例

厚生労働省は、毎年「グッドキャリア企業アワード」を実施しています。「グッドキャリア企業アワード」とは、模範となるような従業員のキャリア支援を行っている企業等を表彰し、その企業の理念や取り組み内容、効果などを発信、普及するという施策です。社会にキャリア支援の重要性を広め、定着させることを目的としています。

今回は、「グッドキャリア企業アワード」の大賞(厚生労働大臣表彰)に選ばれた5つの企業のなかから、2社のキャリア支援の取り組み事例をピックアップして紹介します。

参考:グッドキャリア企業アワード|厚生労働省

トラスコ中山株式会社

トラスコ中山株式会社は、東京都港区にある、工場用副資材の卸売業や自社ブランドの「TRUSCO」の企画開発を行っている企業です。

20221月、トラスコ中山株式会社は、主体的なキャリア支援を行うために、HRサポート課を新設しました。HRサポート課では、希望する従業員を対象としたキャリア面談や、各事業所責任者との面談を実施しています。人事としては従業員のためになると思って考えた支援策でも、従業員からはニーズがなかったり、余計な仕事が増えることになってしまったりすることもあります。そのようなことにならないよう、HRサポート課では、従業員の声を聞き、方針や支援策の見直しにも随時取り組んでいます。

また、全従業員を対象に、年に一度希望部署を会社に伝える制度も設けています。さらに、エンゲージメントサーベイを実施して、その分析結果を、研修立案や課題の把握・改善にも役立てています。

参考:グッドキャリア企業アワード2022 大賞(トラスコ中山株式会社) – 厚生労働省(PDF)

株式会社イデックスビジネスサービス

株式会社イデックスビジネスサービスは、福岡県福岡市にある、通信機器の販売及びオフィス用品の通信販売事業を行っている企業です。

株式会社イデックスビジネスサービスでは、外部メンター制度を導入し、若年層を対象に外部コーチによる1on1形式のメンタリングを実施しています。この制度で従業員の不安を取り除くことが離職率の低下につながっており、2020年度以降に新卒採用で入社した従業員の3年以内の離職率は、0%をキープしているそうです。この外部メンター制度に加え、上司との定期面談も実施しています。

また、2018年からは、福岡県あすばるキャリアアップ・カレッジを通じた女性リーダーの育成も開始し、経営的視点の強化や、アンコンシャスバイアスを取り除く意識改革を進めています。

さらに、従業員全員が、自身の個性や能力を十分に発揮しながら、いきいきと働ける職場環境をつくるため、2019年度からは、社内ワークショップ活動にも取り組んでいます。

参考:グッドキャリア企業アワード2022 大賞(株式会社イデックスビジネスサービス) – 厚生労働省(PDF)

キャリア支援のポイント

次に、キャリア支援に取り組む際のポイントを紹介していきます。

従業員の主体性を重視する

キャリア支援は、あくまでも「従業員の主体的なキャリア形成」を支援するものでなくてはなりません。企業の「こんな人材になってほしい」という意向を押し付けるのではなく、従業員の主体性を重視して、一人ひとりが積極的に自分のキャリアについて考え、能力開発・向上を実践できるようにサポートします。そうすることで、「会社にいわれたから、仕方なく」という受け身の姿勢ではなく、自ら積極的に取り組んでくれるようになるでしょう。

従業員がキャリアについて相談できる機会を確保する

先ほどお伝えしたように、キャリアコンサルティングの機会の確保は、法律にも規定されています。また、厚生労働省の令和4年度「能力開発基本調査」の結果によると、正社員の59.1%がキャリアコンサルタントによる相談を利用したいと回答しており、働く人からのニーズも高いことがわかります。

参考:令和4年度「能力開発基本調査」 – 厚生労働省(PDF) 

主体的に職業生活を考えたい、キャリアコンサルタントを利用したいという人は多いので、従業員がキャリアについて気軽に相談できる場を設けることをおすすめします

法律にも定められているとおり、キャリアコンサルティングの機会を確保するなら、できればキャリアコンサルタントを活用するのが望ましいです。それが難しい場合でも、定期的に1on1を実施する、メンター制度と取り入れるなどの方法もありますので、自社に合う形を検討してみてください。

管理職やリーダーに理解と協力を求める

キャリア支援は、人事だけで行っていくのは難しいです。職場の理解と協力が必要になります。特に重要なのが管理職やリーダーです。管理職やリーダーには、なぜ部下のキャリア形成を支援する必要があるのかを、まずしっかりと理解してもらい、具体的な支援方法を研修などで学んでもらいましょう

最近は、「部下のキャリア」も、管理職がマネジメントすべき項目の1つに数えられることも増えており、管理職やリーダー、部下を持つ人を対象としたキャリア支援研修を提供している研修会社もあります。研修の内容は研修会社によって異なりますが、上司の役割やキャリアの考え方、面談の進め方などを講義とワークで学ぶようなものが多いです。

セルフ・キャリアドックも活用してみよう

「キャリア支援に取り組みたいが、何から手をつければ良いかわからない」という場合は、セルフ・キャリアドッグの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

セルフ・キャリアドックとは、 “企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取り組み、また、そのための企業内の「仕組み」”とされています。

制度の詳細や、導入の流れについて、詳しくは以下のページをご覧ください。

リンク:セルフ・キャリアドックとは-セルフ・キャリアドック導入支援を実施中 | キャリア形成・学び直し支援センター(厚生労働省委託事業)

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以下では、講義・アクティビティ一体型の研修テーマの例を紹介します。

1.ロジカルシンキング研修

ロジカルシンキング研修のアクティビティ「リアル探偵チームビルティング」では、チームに配られた断片的な情報を取捨選択し、論理パズルを完成させ、全問正解を目指します

学びのポイント

  • 小グループで得られた情報を論理的に整理し、確定情報・曖昧情報・不要な情報を選り分ける
  • 大グループで全体に必要な情報を論理的に判断・共有することや、自分たちに足りない情報を聞き出すことが求められる。

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2.クリティカルシンキング研修

クリティカルシンキング研修のアクティビティ「混乱する捜査会議からの脱出」では、推理ゲームで論理的に情報を整理するなかで証拠の違和感に気づき、仮説立てや検証を行って目標を達成します

学びのポイント

  • 証拠品や証言など多くの情報を手分けして読み、組み合わせて論理的に結論を導き出す
  • フェーズが進むごとに情報が増え、複雑になっていくなかで必要な情報を取捨選択する
  • 出た結論に満足せず、常に新しい情報と照らし合わせて再検証する

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3.PDCA研修

PDCA研修のアクティビティ「ロケットPDCAチャレンジ」では、パーツを組み合わせてロケットを制作し打ち上げ結果から原因を考えて、より良く飛ぶロケットに改善していき、目標の達成を目指します

学びのポイント

  • 計画を立ててロケットを飛ばし、その結果から組み合わせの誤り・部品の不足・不良部品の有無を推察し、それを繰り返すことで組み合わせの精度を上げていく
  • 資金稼ぎ・パーツの選択・打ち上げの準備を繰り返し、作戦タイム振返りを経て行動を改善していくことで、最適化されていく

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4.OODA LOOP研修

OODA LOOP研修では、瞬間的な判断力が求められる運動系のアクティビティである「サバイバルゲーム」または「チャンバラ合戦」を実施することで、意思決定のフレームワークである「OODA LOOP」を実践的に習得することを目指します

学びのポイント

  • 敵チームをよく観察して作戦を練り、状況に応じた行動を素早く判断しながら、チームで共有して一体となって行動する
  • ミッションの勝利条件をもとに、観察、判断、行動を繰り返すことで、本当にすべき行動が何なのか、行動の最適化を行う

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まとめ

キャリア支援とは、従業員の主体的なキャリア形成を支援する取り組みのことです。キャリアには、職業上の出世や昇進だけではなく、個人の「生涯」や「生き方」といった広い意味が含まれています。従業員が働く意味や目的、理想の働き方を見つけ、それを実現できるよう、幅広くサポートしていきましょう。

環境が変化していくなかで、企業が成長していくためには、キャリア支援が不可欠です。取り組むことで、従業員満足度の向上や、優秀な人材の確保にもつながります。また、従業員のキャリアを支援することは、法律にも規定されていますので、まだ取り組んでいない企業は、これを機に支援を検討してみてください。

 

あそぶ社員研修」は、受講者全員が没入して取り組むアクティビティと専門講師の講義・振り返りをブリッジすることで、翌日から業務で活用できる知識・スキルが身につく研修プログラムです。
アクティビティが受講者の主体性を高めてコミュニケーションを促進させ、スキルアップやチームビルディングをはかれます。
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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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