ワークプレイスラーニングとは?具体例やメリット、企業事例も紹介

  • 学習法

ワークプレイスラーニング(workplace learning)を直訳すると、「職場学習」となります。職場での学習というと、実務を通して上司や先輩社員から知識・スキルを学ぶOJTが思い浮かびますが、一体何が違うのでしょうか。

本記事では、ワークプレイスラーニングとは何か、注目されている背景や、取り組みの具体例、ワークプレイスラーニングのメリットと、企業事例を紹介します

 

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ワークプレイスラーニングとは

ワークプレイスラーニングとは、その名のとおり職場における学習のことをいいます

ワークプレイスラーニングにはさまざまな定義がありますが、教育学の研究者であるWilliam J. Rothwellと、Sredl H.J.の定義が広く知られていますWilliam J. Rothwellと、Sredl H.J.は、2000年にワークプレイスラーニングを「個人や組織のパフォーマンスを改善する目的で実施される学習その他の介入の統合的な方法」と定義しています。正確には、このときは「ワークプレイスラーニング」ではなく「ワークプレイスラーニング&パフォーマンス」でした。これがやや冗長であることから、「ワークプレイスラーニング」となって広まったようです。

この定義の解釈の仕方もさまざまで、「職場での実務経験と座学での学びを連携させること」、「OJTOff-JT、人事制度なども含めた企業の人材育成活動の総称」、「従来の研修やOJTとは異なるアプローチによる教育手法」など、多様な捉え方があります。

【解説】ワークプレイスラーニング研究序説:企業人材育成を対象とした教育工学研究のための理論レビュー(中原 淳、荒木 淳子)

ワークプレイスラーニングは「研修の学び」×「現場での学び」

人が何から学びを得るかという割合を示した「ロミンガーの法則」というものがあります。これによると、7割が経験、2割が薫陶(上司や先輩社員からの指導)、1割が研修となっています。

また、リーダーシップ開発の研究者であるモーガン・マッコール氏も、「人間の能力開発の70%はインフォーマルラーニングによって説明がつく」と主張しています。インフォーマルラーニングとは、計画的に実施される研修や講習などではなく、日常の中で発生する学びのこと。たとえば、仕事の中で触れる情報、上司や先輩社員との会話などです。

これらの法則や考え方から、人が成長するためには、経験、つまり「現場での学び」が非常に重要であることがわかります。

しかし、いくら「現場での学び」が重要だからといって、研修が必要ないというわけではありません。立教大学経営学部教授の中原淳氏は、ワークプレイスラーニングを“「研修の学び」×「現場での学び」”と表現しています。さらに、ワークプレイスラーニングの「学習」とは、研修やeラーニングなどによる「知識の伝達」だけでなく、知識の共有や創造、概念化、統合することなども含まれており、そのような広い学習を支援することであると述べています

参考:NAKAHARA-LAB.NET 東京大学 中原淳研究室 – 大人の学びを科学する: ワークプレイスラーニング (Workplace Learning)とは:定義編

前項でもお伝えしたように、ワークプレイスラーニングにはさまざまな捉え方がありますが、本記事では「研修と経験を掛け合わせて学習効果を高めようとする取り組み全般」とすることにします

ブレンディッドラーニングとの違い

近年、ブレンディッドラーニングという学習方法が注目を集めています。ブレンディッドラーニングとは、集合研修やOJTeラーニングなど複数の学習方法をブレンドして(組み合わせて)学びを提供することをいいます。こちらもワークプレイスラーニング同様、さまざまな定義がりますが、日本では対面研修とオンライン研修を組み合わせた学習方法を指す場合が多く、「ハイブリッド型学習」と呼ばれることもあります

ワークプレイスラーニングは、集合研修やOJT、eラーニングといった計画的に実施される教育プログラムだけでなく、日常の中での知識の共有や情報交換など、社員個人の学びにつながるものすべてを「学習」と捉えます。それらを支援する試みすべてがワークプレイスラーニングであるといえるでしょう。

ワークプレイスラーニングが注目されている背景

これまでは、多くの企業がOJTOff-JT・自己啓発を主軸に人材育成を行ってきました。これらは、人材育成の「3本の柱」とも呼ばれています。もちろん企業によって異なりますが、OJTをメインとし、不足する部分をOff-JTと自己啓発で補うという形でプログラムを設計する企業が多いのではないでしょうか。

しかし、グローバル化やIT技術の進歩により、現代はVUCA時代と呼ばれるほど変化の激しい時代となっており、過去の経験やノウハウが通用しない場面も増えてきました。これまでのOJTメインのスタイルでは、業務課題に十分に対応することが難しくなってきているといえます。速いスピードで変化し続けるビジネス環境対応できる人材を育成するために、新たな学習の仕組みを作る必要性が高まっており、ワークプレイスラーニングが注目されているのではないでしょうか

実際に、多くの企業がOJTに課題を感じているようです。株式会社日本能率協会マネジメントセンターが2022年に実施した「新人・若手社員のOJTに関するアンケート」では、企業の約9割が、新人・若手社員へのOJTにOJTに課題がある感じていることがわかっています(部分的に課題がある54.5%、全体的に課題がある34.5%)

参考:新人・若手社員の「OJT」に関する調査結果|JMAM(ジェイマム)のプレスリリース

※VUCAとは……Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったものです。変化が激しく、未来を予測することが困難な状況であることを意味します。

ワークプレイスラーニングの具体例

では、どういった仕組みや取り組みがワークプレイスラーニングに当てはまるのでしょうか。ここからは、ワークプレイスラーニングの具体例を紹介していきます。

メンター制度とOJTを組み合わせる

メンター制度とは、年齢や在籍年数が近い先輩社員が、新入社員や若手社員の成長をサポートする制度のことですサポートする側をメンター、サポートされる側をメンティといいます

一般的には、メンターには職場の上司や先輩以外の社員が選ばれます。メンター制度は、仕事面のサポートよりも、人間関係やキャリア形成の悩みや課題の解決をサポートすることに重点を置いています。メンターとメンティの関係を図で表すと、このようなイメージです。

出典:メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル – 厚生労働省(PDF)

OJTは、新入社員や若手社員に業務に必要な知識やスキルを身につけてもらうために行うものです。これにメンター制度を組み合わせることで、組織への適応力や主体性も高められるでしょう。メンターという相談しやすい先輩社員がいることで、学習の効率アップも期待できます。

また、メンティへのサポートを通じて、メンターの人材育成意識も向上するでしょう。メンター制度を導入することで、メンター、メンティの双方を成長させることができます

OJTにコーチングを取り入れる

コーチングとは、相手の可能性を引き出し、自分自身で答えに辿り着けるようにサポートするコミュニケーション技術のことです。これに対して、答え(自分が持っている知識やノウハウなど)を与えて成長を促すコミュニケーションをティーチングといいます。

新入社員や若手社員など経験が浅い社員に対してOJTを実施する場合は、まずティーチングで知識やノウハウを伝え、基本を習得させる必要があります。しかし、ある程度知識やスキルが身についてきたら、コーチングにより気づきを促したり、動機づけをしたりすることで、社員をより成長させることができるでしょう。

eラーニングを導入する

eラーニングとは、コンピューターとインターネットを利用した学習方法のことです。受講者は、パソコンやマートフォン、タブレットなどのモバイルデバイスから、配信されたテキストや動画などの教材を視聴して学習します。

一人ひとりの自発的な学びを促進するには、社員が学習したいときに学習できる環境を用意することも重要です。eラーニングは時間や場所を選ばず、自分のタイミングで学習できるため、導入することで、学習意欲の向上が期待できるでしょう。

ナレッジマネジメントシステムを導入する

ナレッジマネジメントシステムとは、社員個人が持つナレッジ(知識、経験、ノウハウなど)を管理し、企業全体で共有するためのシステム(ツール)のことです

働き方が多様化し、日本でもリモートワークが随分普及しました。ワークライフバランスは実現しやすくなったものの、「担当者が不在のため業務が進められない」といった課題も発生しています。また、近年はキャリアアップのために前向きな転職をする人も増えています。ナレッジの継承がなされないまま退職されてしまうと、あとを引き継ぐ社員はまた一から知識やノウハウを習得しなければなりません

現場で何か問題が発生したとき、社内にナレッジを共有して活用できる仕組みがあれば、社員はすぐに解決方法を調べることができます。社員個人のスキルアップ、業務の属人化の防止、業務効率化といった効果が期待できるでしょう。

ワークプレイスラーニングのメリット

ワークプレイスラーニングを取り入れることで、具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。

学習内容が定着しやすくなる

先ほどもお伝えしたように、学びの7割は経験(現場での学び)といわれています。OJTも「現場での学び」の一つですが、OJTは指導する側・指導される側に分かれているため、どうしても指導される側は受け身になりがちです。ワークプレイスラーニングは、計画的に実施される研修やOJTだけでなく、日常の中での何気ない会話や情報交換などが「学び」につながるようにサポートするものです社員の学習に対する意識の向上も期待できるため、学習内容がより定着しやすくなるといえるでしょう。

また、社員に新たな知識やスキルを身につけてもらいたいときにOff-JTを実施する企業も多いと思いますが、「Off-JTを実施したもののその後の行動変容までつながらない」という悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。株式会社日本能率協会マネジメントセンターが2022年に実施した「新人・若手社員のOff-JTに関するアンケート」では、約85%がOff-JTに課題があると回答。37.7%が、「職場での行動変容につなげられていない」(37.7%)という課題を感じていることがわかりました

参考:9割超が「Off-JTの見直しを検討」と回答。オンラインの活用が進む|JMAM(ジェイマム)のプレスリリース

ワークプレイスラーニングにより研修と実務を連携させることで、このOff-JTの課題も解決できるのではないでしょうか。

社内コミュニケーションが活発になる

ワークプレイスラーニングは、経営層や人事だけで取り組むものではなく、企業全体で取り組むものです。学んだことや気づいたことをほかの社員と共有したり、意見交換をしたりする中で、自然とコミュニケーションが活発になります

コミュニケーションは、業務を円滑に進めるために欠かせないものです。コミュニケーションが活発になれば、生産性の向上やモチベーションの向上といった効果も期待できるでしょう。

エンゲージメント向上につながる

エンゲージメントとは、社員が自発的に企業に対して貢献意欲を持つ状態のことをいいますエンゲージメントを高めることで、業績アップ、離職率の低下、採用力強化、組織全体の活性化といったメリットが期待できるため、近年社員のエンゲージメント向上に力を入れる企業も増えています。

エンゲージメントは、企業と社員の信頼関係の強さを表すものともいえます。信頼関係を構築するために欠かせないのが、コミュニケーションです。前項でお伝えしたとおり、ワークプレイスラーニングに取り組むことで、自然に社内コミュニケーションが活発になります。企業と社員、社員同士のつながりがより強固になり、エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。

ワークプレイスラーニングの企業事例

最後に、ワークプレイスラーニングにつながった企業の取り組みを紹介します。

株式会社ニーズウェル

株式会社ニーズウェルは、東京都千代田区に本社を置き、ソフトウェアやソリューション製品の開発・運用・保守などを行っている企業です。

株式会社ニーズウェルでは、新卒で入社した新入社員に対して、まずは約2ヶ月かけて研修を行い、業務に必要な知識やスキルを身につけてもらっています。その後6月から本配属となり、配属先では専任のOJTトレーナーが1名つき、実際の業務を通じて必要な知識や技術、仕事に対する姿勢などを1年かけて指導・教育しています。また、専任のメンターも1名つき、毎月面談を実施して、新入社員のメンタル面のサポートも行っています。OJTトレーナーは仕事上の先輩社員が、メンターは他部署の社員が担当することになっています。

さらに、株式会社ニーズウェルでは、新入社員の状況を把握するために、新入社員とOJTトレーナー、メンターの三者が毎月「月次報告書」を作成しています。

参考:2023年新入社員を育てる!技術研修やメンター制度でプログラミング未経験から技術のプロフェッショナルへ|株式会社ニーズウェルのプレスリリース

ユニバート

ユニバートは、イギリスのオックスフードに本社を置き、ロジスティクス、物流、完全サプライ・チェーンサービスの提供や、自動車修理部品の開発・販売などを行っている企業です。

ユニバートには、「ファカルティ・オン・ザ・フロア(Faculty on the floor)」と呼ばれる、社員が仕事に必要な知識にアクセスできるスペースがあります。社員は、現場で何か問題が見つかればここに集まり、問題解決に必要な知識を入手して現場で活用しています。ユニバートでは、ファカルティ・オン・ザ・フロアを活用して自分たちで状況を改善していく働き方を「プラグイン・アンド・プレイのプロセス・エンジニアリング」と呼んでいます。

参考:Works 56 ワークプレイス・ラーニング 創造的OJT – リクルートワークス研究所(PDF)

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まとめ

ワークプレイスラーニングにはさまざまな捉え方がありますが、企業が実施する、社員個人の学びにつながるすべてのアクションと考えて良いのではないでしょうか。

グローバル化やIT技術の進歩により、人材育成の3本の柱(OJTOff-JT・自己啓発)だけでは、ビジネス環境の変化のスピードについていける人材を育成するのが難しくなってきています。どうすれば効率的に人材を育成でき、かつ業績アップにつなげられるのか、新たな学習の仕組みの構築を検討してみてはいかがでしょうか。

 

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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