ワークエンゲージメントを高める方法・取り組みの具体例を紹介

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ワークエンゲージメントとは、簡単にいうと「働く人個人の仕事そのものに対するポジティブな心理状態」のことです。ワークエンゲージメントは、組織コミットメントや定着率、個人・企業の労働生産性と密接にかかわっていることがわかっており、近年は企業の成長のために、向上に取り組む企業が増えています。しかし、日本は世界のなかでも、ワークエンゲージメントが低いといわれています。

本記事では、まずワークエンゲージメントとは何か、高めるメリットについて解説し、ワークエンゲージメントを高めるために必要な2つの資源、ワークエンゲージメントを高める方法を紹介していきます

 

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ワークエンゲージメントとは

ワークエンゲージメントとは、働く人が仕事に対してポジティブな感情を持っており、充実している状態を表す言葉です2002年にオランダのユトレヒト大学のシャウフェリ(Schaufeli)教授らにより提唱された概念で、「活力」「熱意」「没頭」の3つが揃った状態と定義されています。

  • 活力……仕事から活力を得て、いきいきと働いている。
  • 熱意……仕事に誇り・やりがいを感じている。
  • 没頭……仕事に熱心に取り組んでいる。

近年、働き方改革を推進するために、職場の「働きがい」を向上させることの重要性が高まっていますが、厚生労働省が20199月に公表した資料「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」では、ワークエンゲージメントが捉える状態を“働く方にとって「働きがい」のある状態”と定義しています。(※同資料では「ワーク・エンゲイジメント」と表記されています。)

出典:令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-(全体版) – 厚生労働省(PDF)

ワークエンゲージメントは、上記資料で詳しく取り上げられて以降、特に注目度が増してきています。

ちなみに、ビジネスシーン(人事の分野)で用いられるエンゲージメントには、ワークエンゲージメントの他に、従業員エンゲージメントもあります。この2つの違いとしては、ワークエンゲージメントは「働く人個人と仕事そのものの関係性」に着目したもの、従業員エンゲージメントは「働く人個人と組織の関係性」に着目したものです。従業員エンゲージメントは、働く人が組織に対して自発的に貢献意欲を持てている状態を意味しています。

参考:ワークエンゲージメントとは | 働き方・休み方改善ポータルサイト (mhlw.go.jp)

2つのエンゲージメントについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

ワークエンゲージメントとは?意味や関連する概念をわかりやすく解説

従業員エンゲージメントとは?高めるメリット・方法を紹介

 

ワークエンゲージメントを高めるメリット

従業員のワークエンゲージメント向上に取り組むことで、企業としてもさまざまなメリットが得られます。厚生労働省の資料「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」では、ワークエンゲージメントのポジティブなアウトカムとして、以下がデータとともに紹介されています。

  • 組織コミットメント(※)が向上する。
  • 定着率が上昇する・離職率が低下する。
  • 個人・企業の労働生産性が向上する。
  • 自発性や、役割外のパフォーマンス(周りの人に対する支援)が向上する。
  • 顧客満足度が向上する。
  • ストレスや疲労を軽減し、健康増進につながる。

※組織コミットメントとは、企業の理念や戦略、担当する業務などの意義・重要性を理解し、そのうえで組織の風土に好感を持つことを意味します。

参考:令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-(全体版) – 厚生労働省(PDF)

このようなメリットがあることから、従業員のワークエンゲージメントを向上させることは、この先企業が成長し続けていくためにも重要であることがわかります。

ワークエンゲージメントを高めるために必要な2つの資源

では、ワークエンゲージメントはどうすれば高めることができるのでしょうか。ワークエンゲージメントを高めるためには、「仕事の資源」と「個人の資源」の2つを充実させることが重要であるとされています。それぞれがどのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。

仕事の資源

仕事の資源とは、就業条件や対人関係、仕事の進め方や課題などを指します。具体的には、以下のようなものが挙げられます。

  • キャリア開発の機会
  • 雇用の安定性
  • 上司のコーチング
  • 意思決定への参加
  • 裁量性
  • パフォーマンスに対してのフィードバック
  • 正当な評価

仕事の要求度とコントロールのバランスがとれないと、従業員は仕事にストレスを感じるようになります。さらに、上記のような「仕事の資源」も活用できなくなり、ワークエンゲージメントが低下するとされています。仕事の要求度とは、簡単にいえばストレッサーのことです。たとえば、プレッシャーや役割の過重、精神的・肉体的な負担などです。

人手不足が深刻化している日本では、従業員が直面する仕事の要求度も高くなりやすいと考えられています。そのようななかでワークエンゲージメント(働きがい)を向上させるには、「仕事の資源」を充実させて、従業員がそれらを活用できる環境を整えていくことが重要とされています。

個人の資源

個人の資源とは、働く人個人のポジティブな心理状態のことで、「心理的資本」とも呼ばれます。具体的には、以下のようなものが挙げられます。

  • 自己効力感
  • 楽観性
  • レジリエンス(落ち込んだり悩んだりしても、立ち直って乗り越えること)
  • 希望(目標達成に向けて粘り強く取り組むこと)

これらを育成することが、ワークエンゲージメントの向上につながるといわれています。

この「仕事の資源」と「個人の資源」は、ワークエンゲージメントにポジティブな影響を与えるだけでなく、相互に関連していることも指摘されています。どちらか一方だけでなく両方を充実させ、双方の資源がより強化されるような好循環を生み出せるとよいでしょう。

ワークエンゲージメントを高める方法

では、従業員のワークエンゲージメントを高めるために、企業はどのようなことに取り組んだらよいのでしょうか。ここからは、具体的な取り組みの例を紹介していきます。

1.ワークエンゲージメントを測定する

ワークエンゲージメントの向上に取り組むなら、まずは従業員の現在のワークエンゲージメントがどの程度なのかを把握する必要があります。

ワークエンゲージメントは、目には見えないものです。表に出ている感情や態度から予測することはできるかもしれませんが、日本人は感情をあまり表に出さず、集団の調和を重視する傾向が強いともいわれます。「活力」「熱意」「没頭」が揃っているのに、感情や態度に出ていないだけといった可能性も考えられるのです。

そこで、目には見えないワークエンゲージメントを正しく把握するために、定期的にサーベイを実施し、ワークエンゲージメントの測定を行うことをおすすめします(※サーベイとは、物事の全体像を知るために行う調査のことをいいます)。サーベイを実施することで、ワークエンゲージメントの高低だけでなく、従業員の悩みやニーズ、解決するべき問題や課題も把握することができ、効果的な施策を実行できるようになります。

ワークエンゲージメントを測定する指標としては、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement ScaleUWES)が最も活用されています。エンゲージメントを測定できるサーベイは非常に多くありますが、どのような指標を採用しているのか、「ワークエンゲージメント」と「従業員エンゲージメント」どちらを測定するのかは、サーベイによってさまざまです。サーベイを導入する際は、中身をきちんと確認して自社に合うものを選びましょう。

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2.社内コミュニケーションを活性化させる

社内コミュニケーションが円滑ではない、または人間関係が良好でないといった職場では、仕事がスムーズに進められないことがあります。すると、従業員の不満やストレスもたまりやすくなるでしょう。これにより、ワークエンゲージメントが低下してしまう可能性が考えられます。

従業員にいきいきと働いてもらえるように、社内コミュニケーションを活性化させましょう。具体的な取り組みとしては、以下のようなものが考えられます。

1on1を導入する

1on1とは、上司と部下の組み合わせで定期的に実施する面談やミーティングのことをいいます。一般的な部下を評価するための面談とは違い、双方向の対話により部下の成長を促すことが1on1の主な目的です。

厚生労働省の資料「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」では、ワークエンゲージメントに着目した企業の取り組み事例として、株式会社福井の取り組みが紹介されています。株式会社福井では、ワークエンゲージメントを向上させるために、管理職と従業員で、月に11on1を実施しているそうです。1on1のなかで話す内容は、仕事の話に限りません。株式会社福井では、月に1回ワークエンゲージメント・スコアの計測も行っていますが、効果はスコアにも表れており、1on1を実施するようになってからは、離職率が大きく下がったということも紹介されています。

出典:令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-(全体版) – 厚生労働省(PDF)

メンター制度を導入する

メンター制度とは、先輩と後輩、または先輩と若手の組み合わせで定期的に面談(メンタリング)を実施する制度のことをいいます。こちらも1on1同様に、双方向の対話により後輩や若手を支援することを目的とするものです。支援する先輩をメンター、支援される後輩・若手をメンティーといいます。

メンター制度では、メンターはメンティーの仕事の悩み・課題だけでなく、職場の人間関係やキャリアに関する悩みなどの相談にも乗って、メンティーが自ら解決できるよう支援します。また、メンター制度では直属の上司ではなく、利害関係のない他部署の人をメンターとするのが一般的です。そのなかでも、メンティーと年齢が近い従業員が選ばれることが多いようです。

メンター制度は、直属の上司には言いにくいことでも本音で話しやすいというメリットがあります。また、上記の通り他部署の人がメンターとなることが多いため、部署間のコミュニケーション活性化も期待できるでしょう。

研修や参加型討論会を実施する

従業員が仕事をするなかで悩んでいることや、課題に感じていること、それらを解決する方法を、他の従業員と話し合えるような機会として、研修や参加型討論会を実施するのもおすすめです。話し合いのなかでは、当然反対の意見が出ることもあります。このとき、相手の話を遮ったり、頭ごなしに否定したりすると、せっかく話し合いの機会を設けても有意義な時間にならないので、あらかじめルールを設けておくとよいでしょう。

また、話し合うだけでなく、研修のなかでチームビルディングにつながるようなアクティビティを実施するのもおすすめです。楽しめる要素があることで自然にコミュニケーションが生まれますし、アクティビティを通して、他の従業員の得意なことや苦手なこと、考え方や価値観も見えてきます。相互理解が深まり、従業員同士の結びつきが強くなるでしょう。その結果として、ワークエンゲージメント、従業員エンゲージメントの向上も期待できます。

3.多様で柔軟な働き方ができるよう環境を整備する

ワークエンゲージメントを高めるためには、従業員が心身ともに健康で、持てる力を最大限発揮できるように、職場環境を整えることも大切です。たとえば、時間や場所に縛られない働き方を選択できるようにする(テレワークの導入等)、従業員が作業しやすいようにオフィス環境の改善に取り組むなどです。

また、仕事のデジタル化や自動化を進めることも、ワークエンゲージメント向上に有効と考えられます。デジタル化や自動化を進めることで、業務効率がアップし、労働時間の削減や従業員の負担軽減につながります。

従業員にとって働きやすい環境を整えることで、心身ともに健康な状態で、いきいきと働いてもらえるようになり、ワークエンゲージメントが高まることが期待できます。

4.裁量権を拡大する

厚生労働省の資料「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」では、職位・職責が高くなるほどワークエンゲージメント・スコアが高くなっていく傾向にあることが、データとともに紹介されています。

出典:令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-(全体版) – 厚生労働省(PDF)

ポストが上がり、裁量が大きくなると、その分責任も大きくなります。すると、業務の重要性や、組織から「自分が必要とされている」ということを感じやすくなり、ワークエンゲージメント向上につながると考えられます。従業員にある程度仕事を任せることで、従業員の成長を促すこともできるでしょう。

5.ジョブクラフティングを導入する

ジョブクラフティングとは、従業員が自分で働き方を工夫し、仕事のやりがいや満足度を高めていくことをいいます。これも、ワークエンゲージメントの向上に有効といわれています。ジョブクラフティングには、以下の3つの観点があります。

作業クラフティング

仕事の量や範囲を調整するなど、やり方を工夫すること。

人間関係クラフティング

仕事でかかわる人への働きかけを工夫すること。

認知クラフティング

仕事の捉え方や考え方を工夫すること。

これが正しく実施されることで、ワークエンゲージメントが向上し、精神的なストレスも低下させる効果があるといわれています。

ただ、ジョブクラフティングは従業員が個人で実施するものです。企業はこれを促すことはできますが、強制はできませんので、注意しましょう。ジョブクラフティングの促し方としては、ジョブクラフティングに関する研修を実施する、ジョブクラフティングを実施できるや環境・風土づくりに取り組むなどが考えられます。

6.評価制度・仕組みを見直す

「努力や成果が正しく評価されない」と感じると、モチベーションは下がってしまうものです。それだけでなく、企業に対して不信感を持つようになり、ワークエンゲージメントも下がってしまう可能性があります。

自社の人事評価制度やその他の仕組みが公正なものになっているか、何をどんな基準で評価されたのかを従業員が理解できるようになっているかなどを、一度見直してみましょう。成果だけでなく、組織のビジョンを体現する行動を評価項目に盛り込むのもおすすめです。また、努力を公的に認め称える機会として、表彰制度を導入するのもよいでしょう。

まとめ

従業員のワークエンゲージメントを高めることで、企業としてもさまざまなメリットが得られる可能性があります。企業の競争力を強化することにもつながりますので、ワークエンゲージメントの向上に取り組んでいきましょう。

ワークエンゲージメントを高める方法はさまざまなものがあり、企業の状況や課題によっても必要な取り組みは変わってきます。まずはサーベイを活用するなどして、現状を把握するところから始めてみてはいかがでしょうか。

 

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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