ガニエの9教授事象とは?学習支援の流れ・活用方法を紹介

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インストラクショナルデザインの代表的な考え方の1つに、「ガニエの9教授事象」があります。研修の内製化を検討している、または現在自社で研修を実施しているものの、いまひとつ効果が感じられないという場合は、ガニエの9教授事象を活用してみてはいかがでしょうか。

本記事では、ガニエの9教授事象とはどのような考え方なのか、学習支援の流れ、企業における活用方法とポイントを解説します

 

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ガニエの9教授事象とは

ガニエの9教授事象とは、ロバート・M・ガニエ(Robert M. Gagne)氏が確立した学習支援モデルのことです。ロバート・M・ガニエ氏は、「教授設計理論の父」「インストラクショナルデザインの生みの親」などとも呼ばれているアメリカの教育心理学者です。「ガニエ」ではなく「ガニェ」とされることもあります。

ロバート・M・ガニエ氏は、外部からどのような働きかけ(外的条件)があれば、人は新しい知識・技術を効果的に習得できるのかを研究しました。そして、有効な働きかけを9つのプロセスに整理しています。これが、ガニエの9教授事象と呼ばれるものです。9つのプロセスは、以下の通り4つのステップに分類されます。

ステップ1:導入

1.        学習者の注意を獲得する

2.        学習の目標を伝える

3.        前提条件を思い出してもらう

ステップ2:情報開示

4.        新しい事項を提示する

5.        学習の指針を与える

ステップ3:学習活動

6.        練習の機会を設ける

7.        フィードバックを与える

ステップ4まとめ

8.        学習の成果を評価する

9.        保持と転移を高める

それぞれのプロセスで具体的にどのような支援を行うのかについては、のちほど詳しく紹介します。

このガニエの9教授事象は、これまでは主に教育現場において、効果的な授業や教材をデザイン(設計)するために使われてきました。最近はビジネスの分野においても、効果的で効率的な企業研修をデザインするために活用されるようになっています。

インストラクショナルデザインとは

ガニエの9教授事象は、インストラクショナルデザインの代表的なモデルの1つです。

インストラクショナルデザインとは、簡単に表すと「効率よく、効果的な、魅力のある学習支援を設計するための考え方」のことをいいます。できるだけコスト(人、モノ、お金、時間など)を抑えつつ効果の高い学習を提供すること、さらに学習者の学習意欲を向上・維持させるような支援を行うことを目指す考え方です。

「インストラクション」とは、学習を支援する活動全般を指します。「教えること(ティーチング)」だけに限りません。より良い学習支援を行うために、学習のプロセスにフォーカスしているのがインストラクショナルデザインです。

最近は、効果的で従業員にとっても魅力的な施策を、コストを抑えながら実施していくために、人材育成にもインストラクショナルデザインが取り入れられるようになってきています。

インストラクショナルデザインが注目されている理由

インストラクショナルデザインは、第二次世界大戦中のアメリカで生まれたものです。日本においては、eラーニングが普及し始めた2000年ごろから注目されるようになりました。

eラーニングとは、インターネットを利用した学習方法のことです。学習者は、パソコンやスマートフォンを使って、時間・場所を選ばずに学習ができます。効率的に学習を提供できるeラーニングですが、対面で教育・指導を行うときのように、学習者の反応や場の雰囲気から理解度を感じ取るということができません。また、動機づけが難しいという課題もあります。そのため、より効果的で魅力的なeラーニングを行うための手法として、インストラクショナルデザインが注目されるようになりました。コロナ禍以降、オンライン研修も普及したため、近年はインストラクショナルデザインのニーズもより高まっています。

さらに、企業研修においては、受講後の「行動変容」が重視されるようになってきています。これも、インストラクショナルデザインが注目されている理由の1つではないでしょうか。行動変容とは、行動を変えて、それを習慣的にできるようになることです。研修なら、従業員が研修で学んだことを業務のなかで活かせるようになれば、行動変容を実現できたといえます。インストラクショナルデザインのモデル・理論は、ガニエの9教授事象以外にもさまざまなものがあります。プロセスのなかに実施後の評価まで組み込まれているものも多いので、これを活用することで行動変容につながりやすくなるでしょう。

インストラクショナルデザインの考え方や、代表的なモデル・理論は以下の記事でも解説しています。

インストラクショナルデザインとは?代表的なモデルや理論を紹介

ガニエの9教授事象による学習支援の流れ

ではここからは、ガニエの9教授事象のプロセスに沿って、学習支援の方法を詳しく紹介していきます。

ステップ1:導入

ステップ1の「導入」は、学習者に新しいことを学んでもらうための準備を整えてもらうステップです。このステップでの働きかけは、

  1. 学習者の注意を獲得する
  2. 学習の目標を伝える
  3. 前提条件を思い出してもらう

3つです。

1.学習者の注意を獲得する

学習者に新しい情報を頭の中にインプットしてもらうためには、情報を受け入れる態勢になってもらわなければなりません。そのために、まずは学習者の注意を引きましょう。具体的には、以下のような方法が考えられます。

  • 何かびっくりするようなこと・目の覚めるような仕掛けを用意しておく。
  • 学習者が「なぜだろう?」と思うようなクイズを出し、知的好奇心を刺激する。
  • 学習テーマに関するニュースや面白いエピソードを話す。

ただ、これらの方法を使っても、同じようなことが続けばマンネリ化してしまい、うまく注意を獲得できなくなる可能性が高いです。学習者が新鮮さを感じられるよう、学習の度に工夫するようにしましょう。

2.学習の目標を伝える

次に、学習者の脳を活性化させ、学習に集中してもらうために、今回の学習の目標を伝えましょう。学習の目標を明確に示すことで、学習者は今の自分と目標のギャップを認識できるようになります。その差を埋めるために、モチベーション高く学習に取り組んでくれるようになることが期待できるでしょう。

このステップでは、「今日は何を学ぶのか」を学習者に明確に伝えることが大切です。何を学ぶのかがわからないと、ただ何となくそこにいるだけの時間になってしまう恐れがあります。学習者が何を学ぶのかを正しく理解できるよう、わかりやすい言葉で伝えるようにしてください。特に注意して聞いてほしいことや、チェックポイントなどがあれば、それもあわせて伝えておきましょう。

また、どうなったら目標を達成したことになるのか、達成できたら何ができるようになるのかも、このステップできちんと示しておくことが大切です。

3.前提条件を思い出してもらう

次は、新しいことを理解するために必要な前提条件を思い出してもらうステップです。今回の学習テーマに関して学習者がすでに知っているであろうこと、過去に学んでいることなどがあれば、それらを思い出してもらいましょう。簡単に復習しておくことで、これから学ぶことがスムーズに頭の中に入っていくようになります。

具体的には、確認のための小テストを実施する、講師から質問を投げかけたり説明したりするといった方法が考えられます。過去に学んだことは「忘れているもの」として、確認方法を考えておきましょう。

また、すでに知っていること・過去に学んだことと今日学ぶことが、どのように関係しているのかも、このステップで明確に示しておきましょう。

ステップ2:情報提示

ステップ2の「情報提示」は、学んでほしい新しい情報を学習者に伝えるステップです。このステップでの働きかけは、

  1. 新しい事項を提示する
  2. 学習の指針を与える

2つです。

4.新しい事項を提示する

いよいよ、学習者に新しい情報、つまり今回学習する内容を伝えていきます。学習者が内容をきちんと理解できるように、講師は学習者にとってわかりやすい言葉を選び、整理して説明していくことが大切です。具体的な例を示したり、お手本を見せたりすると、より伝わりやすくなるでしょう。また、使用する資料や教材には図やイラストなどを取り入れると、視覚的にも理解しやすくなります。

5.学習の指針を与える

次は、前のプロセスで伝えたことを、学習者が頭の中にインプットできるように、学習の指針を与えます。わかりやすくいうと、新しいことの覚え方や理解の深め方を示すということです。たとえば、以下のような方法が考えられます。

  • 過去に学んだことと今回伝えた情報の関連を示し、それらをつなげて頭の中にインプットしてもらう。
  • 語呂合わせや比喩を使って覚えやすくする。
  • 学習したことを思い出すためのヒントと、そのヒントの使い方を覚えてもらう。

指針は複数用意しておくと、学習者は自分に合ったものを選択して効率的に学習できるようになります。

ステップ3:学習活動

ステップ3の「学習活動」は、学習者に学習した内容を自分のものにしてもらうためのステップです。このステップでの働きかけは、

  1. 練習の機会を設ける
  2. フィードバックを与える

2つです。

6.練習の機会を設ける

学習者には、新しいことを頭の中にインプットするだけではなく、それを取り出して活用できるようになってもらわなければなりません。そのために、学習のなかに練習の機会を設けましょう。具体的な方法としては、練習問題に取り組んでもらう、グループワークやディスカッション、ロールプレイングを実施するなどが考えられます。

この段階では、自分のレベルや弱点を知ってもらうことが重要なので、学習者には失敗してもよいことを伝えておきましょう。お手本は見せずに、まずやってみてもらうというのもよいかもしれません。はじめは簡単な問題を与えて、学習者の理解度に合わせて徐々に難しくしていくというのもおすすめです。応用力をつけてほしい場合には、違う例でもできるかどうかやってみましょう。

7.フィードバックを与える

次に、練習でうまくできたこと、失敗したことに対して、フィードバックを与えます。

うまくできたことについては、きちんと誉めましょう。具体的にどこがよくできていたのかを伝えられると、モチベーションのさらなる向上が期待できます。

失敗したことについては、どこがどのように失敗だったのか、なぜ失敗してしまったのか、どのように改善すればよいのかをアドバイスします。このとき、学習者を責めるようなコメントをしないように注意しましょう。

また、講師から学習者にフィードバックを与えるだけでなく、グループで練習に取り組んでもらったのなら、学習者同士でフィードバックを与え合ってもらうのもおすすめです。

ステップ4:まとめ

最後のステップ4「まとめ」では、学習の成果を評価します。さらに、学習が定着し、応用できるように支援していきます。このステップでの働きかけは、

  1. 学習の成果を評価する
  2. 保持と転移を高める

2つです。

8.学習の成果を評価する

今回の学習でどれくらい知識やスキルが身についたか、その成果を評価します。6つめのプロセスで実施した「練習」は、文字通り「練習」です。このプロセスでは「本番」として学習者にテストに取り組んでもらい、その結果を評価しましょう。

「本番」としてのテストを実施する前には、学習者に十分な練習を行うチャンスを与えてください。また、テストは最初に示した目標が達成できたかどうかが確実にわかるようなものにすることも重要なポイントです。今回の学習の成果を評価するためのテストなので、当然ですが研修で教えていないことはテストに盛り込まないようにしましょう。

9.保持と転移を高める

最後は、学んだことを忘れないようにして、さらにそれを応用できるようにするための働きかけです。

学習の最後に、今日学んだこと、それを今後どのように活かしていくかを、学習者にまとめてもらいましょう。また、学習した当日は理解できたと思っていても、時間が経つと忘れてしまうこともありますので、学習から一定期間が過ぎたタイミングで、再度テストを実施することも計画しておきます。この際は、学習者にはお手本を見せずに、いきなりテストに取り組んでもらうようにしましょう。

そして、学んだことをどこかで応用できないかを考え、次の学習につなげていきます。

ガニエの9教授事象の企業における活用方法

では、ガニエの9教授現象は、企業ではどのように活用できるのでしょうか。

研修や教材の設計

ガニエの9教授事象は、企業研修の全体をデザインするときや、教材を作るときなどに役に立ちます。研修を内製化したいと考えているなら、これを参考に研修を企画してみてはいかがでしょうか。特に、eラーニングやオンライン研修は、ガニエの9教授事象を活用することで、学習効果の向上が期待できるでしょう

ただ、社内に研修や教材のデザインに関するノウハウがない場合は、外部の力を借りながら進めていくのがおすすめです。研修の内製化については以下の記事で詳しく解説していますので、よろしければ参考にしてみてください。

研修内製化とは?メリット・デメリットと成功させるポイントを紹介

研修や教材の見直し

研修や教材を一から設計する場合だけでなく、今実施している研修や使用している教材の見直しにも、ガニエの9教授事象は活用できます。

たとえば、1つの研修で複数ことを学んでもらう場合は、先ほど紹介したプロセスの47を繰り返すことになります。しかし、57が抜けてしまってして、ひたすら新しい事項を提示し続けるような研修になっているケースも見られます。

ガニエの9教授事象に沿って見直しをすることで、足りないプロセスや改善すべき点が見つかるかもしれません

ガニエの9教授事象を活用するときのポイント

ガニエの9教授事象を含め、インストラクショナルデザインのモデルや理論は学習支援のプロセスを示したものです。それに沿って設計すれば、どのような伝え方をしても効果が高まるというわけではありません。学習の効果や学習者の学習意欲を高めるには、やはり講師のスキルも重要です。

たとえば、研修の冒頭で面白いエピソードを話して学習者の注意を引こうとしても、話し方次第で「面白さ」は変わります。また、学習者にとってわかりやすい言葉を選ぶ、上手なたとえを使うなど伝えるスキルも必要です。社内講師で研修を行うなら、講師を担当する従業員には必要なスキルを磨いてもらっておきましょう

また、ガニエの9教授事象を活用しても、一度で素晴らしい研修や教材を作るのは難しいものです。学習が終わったら、効果はあったか、学習者の反応はどうだったかなどを確認し、改善を続けていきましょう。

まとめ

ガニエの9教授事象は、教育現場だけでなく、企業の研修や教材のデザインにも取り入れられるようになってきています。一からデザインする場合だけでなく、研修や教材の見直しにも役立つ考え方です。効果的な人材育成を行うために、ガニエの9教授事象を活用してみてはいかがでしょうか。

参考:インストラクショナルデザインによる企業での学習支援(小笠原 豊道)(PDF)

 

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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