オーセンティックリーダーシップとは?5つの特性と開発方法を解説

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時代とともに、求められるリーダーシップのスタイルも変化しています。近年注目されているリーダーシップの1つに、「オーセンティックリーダーシップ」があります。

本記事では、オーセンティックリーダーシップとはどのようなリーダーシップなのか、近年注目されている理由と、5つの特性、開発方法、オーセンティックリーダーシップが発揮されることで期待できる効果、オーセンティックリーダーシップを取り入れる際の注意点を紹介します

 

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オーセンティックリーダーシップとは

オーセンティック(authentic)は、「確実な」「本物の」「正真正銘の」などの意味を持つ英単語ですが、オーセンティックリーダーシップのオーセンティックは、「自分らしさ」を意味しています。つまりオーセンティックリーダーシップとは、「自分らしさを活かしたリーダーシップ」のことをいいます。「自分らしさ」とは、自分が大切にしている価値観・考え方や、自分の強みなどです。

これまでに非常に多くのリーダーシップ理論が提唱されてきましたが、その多くは、理想のリーダー像やリーダーシップのスタイルが示され、それらを真似することでリーダーシップを発揮できるようになるというものでした。しかし、考え方や得意・不得意は人それぞれです。そのため、人によっては「理想」として示されるリーダーの考え方ややり方が合わないこともありました。何かを真似して自分も同じようになろうとするのではなく、倫理観を重視しながら自分らしさを活かしたリーダーシップを発揮するというのが、オーセンティックリーダーシップです。

オーセンティックリーダーシップは、アメリカのメドトロニック社の元CEOであるビル・ジョージ氏が、2003年に「Authentic Leadership(邦題:ミッション・リーダーシップ)という書籍を発表し、注目されるようになったものです。

オーセンティックリーダーシップが注目されている理由

2000年代前半、アメリカでは大企業の不祥事が続いていました。目先の利益ばかりを追いかけ、企業が守るべき倫理観や価値観が失われてしまうと、将来大きな代償を支払うことになります。この頃から、倫理的で自分らしさを活かしたリーダーシップが必要とされるようになったといわれています。

また、近年特にオーセンティックリーダーシップの注目度が高まっているのは、VUCA時代の到来も理由の1つではないかと考えられます。ビジネス環境や顧客ニーズが目まぐるしく変化していくなかで、リーダーが過去の慣習にとらわれたままでは、変化のスピードについていけなくなったり、方向性を誤ってしまったりすることもあるかもしれません。将来を予測するのが難しい現代においては、これまでのように「カリスマ的なリーダーにメンバーがついていく組織」ではなく、「一人ひとりが自分らしさを発揮し、メンバー全員で進んでいける組織」を作っていく必要があります。このような組織作りに取り組んでいくことは、ダイバーシティ&インクルージョンを進めるためにも重要です。これからの時代を生き抜いていける強い組織を作るために、オーセンティックリーダーシップが注目されているのではないでしょうか。

オーセンティックリーダーシップとサーバントリーダーシップの違い

サーバントリーダーシップとは、リーダーはメンバーに奉仕し、信頼関係を築いて目標達成まで導いていくというリーダーシップのスタイルです。リーダーはメンバーに指示を出す、メンバーを管理するといった従来のリーダーシップを「支配型」とするなら、サーバントリーダーシップは「支援型」といえるでしょう。

参考:リーダーシップ を発揮しよう – 厚生労働省(PDF)

オーセンティックリーダーシップもサーバントリーダーシップも、VUCA時代に求められるリーダーシップとして注目されていますが、この2つはまったく異なる考え方です。サーバントリーダーシップには、10の特性があります。詳しくは以下の記事で解説していますので、よろしければ参考にしてみてください。

サーバントリーダーシップとは?特徴や10の特性について解説

オーセンティックリーダーシップの5つの特性

ビル・ジョージ氏は、オーセンティックリーダーシップを発揮できる人には以下の特性が備わっていると主張しています。その特性は、以下のとおりです。

  1. 自らの目的を明快に理解している……自分なりの目標・目的や自分の存在意義を理解している。
  2. 自分が重視する価値観や倫理観に対して忠実に行動する……外部に影響されることなく、自分が正しいと思う価値観や倫理観に基づいて行動できる。
  3. 情熱的に人をリードする……周りの人に本音を伝え、自分の弱さも見せ、情熱的にリードする。
  4. 人とのリレーションシップを構築する……お互いに支援し合える人間関係を築く。
  5. 自分を律する……自分を律し、謙虚さや学習意欲を持ち続ける。

出典:リーダーシップ を発揮しよう – 厚生労働省(PDF)

これらの特性から、「自分らしさを発揮する」とは、自分の考え方ややり方を押し付けたり、それらに固執したりすることではないことがわかります

オーセンティックリーダーシップを開発する方法

では、オーセンティックリーダーシップを発揮できるようになるには、どうすればいいのでしょうか。ここからは、オーセンティックリーダーシップの開発方法を紹介していきます。

自分のことを深く理解する

「自分らしさ」を活かしたリーダーシップを発揮するためには、まずは「自分らしさ」とは何かを理解する必要があります。そのために、自分に対する理解を深めていきましょう。具体的には、自分はどのような人間なのか、何を実現したいのか、強み・弱みは何か、どのような価値観を持っているかなどです。

自己理解を深める方法はさまざまありますが、自分史を作ってこれまでの自分を振り返ってみるのがおすすめです。自分史とは、自分の歴史を時系列でまとめたもののことをいいます。自分にとってのターニングポイントはいつだったか、自分の価値観を形成するきっかけとなった出来事や言葉はあったか、困難に直面した時に何を感じたか、その時どのように対処したかなどを、振り返ってみましょう。

自分のことを正しく理解する力は、「自己認識能力」ともいわれます。オーセンティックリーダーシップを発揮するために、必要な能力の1つです。

そして、自分のことを深く理解できたら、自分の強みを活かしてどのように周りをリードしていくことができるかを考えてみましょう。

価値観を体現する

先ほど紹介したオーセンティックリーダーシップの5つの特性のなかにも、「自分が重視する価値観や倫理観に対して忠実に行動する」が含まれていたように、自分が大切にする価値観や倫理観はただ認識するだけでなく、行動に移すことが大切です

普段の自分自身の行動を振り返り、自分の価値観・倫理観を体現できているか、周りに影響されすぎていないかどうかを、常に確認するようにしましょう。そして、目的からズレた行動をしているようなら軌道修正をします。

「ありのままの自分」で接する

リーダーになると特に、「自分がしっかりしていなければ」「自分がメンバーを引っ張っていかなければ」という思いから、自分の弱さや短所を隠してしまいがちになります。しかし、「いつも厳しい上司がめずらしく弱音を吐いている姿を見て、親しみを感じた」というような経験はありませんか。時には弱さを見せ、ありのままの自分で接することで、周囲と良好な関係を築けるようになることもあるのです

リーダーが弱い部分も含めて自分を開示することは、チーム内にメンバー同士で支え合う環境を作ることにもつながります。リーダーだけでなく、メンバー全員がありのままの自分でいられるように、「お互いを認める」などをチームのルールとして作っておくのもおすすめです。

ありのままの自分で接することができるようになるためには、自分のことを深く理解する必要があります。まずは、自己分析や自己理解から始めてみましょう。また、メンバーによって話す内容・態度が変わっていないか、よく見せようと取り繕っている部分がないかなど、普段の自分の行動や言動も振り返ってみてください。

オーセンティックリーダーシップにより期待できる効果

次に、オーセンティックリーダーシップを発揮できる人材がいると、企業にはどのようなメリットがもたらされるのかを解説していきます。

コミュニケーションが円滑に・活発になる

オーセンティックリーダーシップを発揮し、誰に対しても公平に、オープンなコミュニケーションをとることで、メンバーとより良い関係が築けるようになります。リーダーが本音を伝え、弱さも隠さずさらけ出すことで、周りのメンバーも素直な意見をいいやすくなるでしょう。その結果、チームのコミュニケーションが円滑に、そして活発になることが期待できます。活発な意見交換が行えるようになれば、新たなアイデアも生まれやすくなるでしょう。

エンゲージメントが向上する

エンゲージメントとは、メンバーが自発的に「組織やチームに貢献したい」という意欲を持つ状態を指す言葉です。「愛社精神」と表現されることもあります。エンゲージメントが高まると、パフォーマンスや生産性の向上、離職率の低下などさまざまなメリットが期待できるため、最近は従業員のエンゲージメント向上に力を入れる企業も増えています

オーセンティックリーダーシップを発揮し、リーダーがありのままの自分で接することは、チームの心理的安全性を高めることにもつながります。心理的安全性とは、不安や恐れを感じることなく、思ったままの意見をいえたり、行動できたりする状態のことをいいます。これを高めることで、エンゲージメントの向上が期待できるといわれています。

コンプライアンスが強化される

コンプライアンスとは、日本語では「法令順守」とされることが多いですが、企業におけるコンプライアンスには、法令だけでなく社内規則を守ることや、倫理的な行動をすることも含まれています。

オーセンティックリーダーシップは、倫理観を重視したリーダーシップです。これを発揮できる人材が社内に増えれば、チームや組織全体のコンプライアンスに対する意識も高まることが期待できるでしょう

ダイバーシティ&インクルージョンを推進できる

ダイバーシティ(diversity)は「多様性」、インクルージョン(inclusion)は「包括」や「包含」などの意味を持つ英単語です。ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様性を受け入れ、お互いに認め合い、それぞれが能力を最大限に発揮できるようにすることをいいます。企業においてもこれを推進していくことで、これまでにないイノベーションや新たな価値が生まれやすくなり、競争力を強化することにつながるとされています。

ダイバーシティ(多様性)とは、性別や年齢、国籍、障害の有無といった目に見えるものだけでなく、それぞれが持っている知識やスキル、視点、価値観といった目に見えないものも含まれます。そして企業においては、後者のほうがより重要だといわれています。

お伝えしたように、オーセンティックリーダーシップでは、弱みをさらけ出すことも重要なポイントです。弱みを隠さずに見せることで、その弱みをカバーするために支え合おうとする雰囲気がチーム内に生まれます。これにより、多様なスキルや個性の活用が促進されることが期待できます

また、筑波大学は、オーセンティックリーダーシップがダイバーシティの推進に有効であるという研究結果を発表しています。詳しくは、以下のホームページをご覧ください。

日本のダイバーシティ推進にはオーセンティック・リーダーシップが有効 | 社会・文化 – TSUKUBA JOURNAL

オーセンティックリーダーシップの注意点

オーセンティックリーダーシップはVUCA時代に合ったリーダーシップであること、発揮できる人材が増えれば企業はさまざまなメリットが得られることがわかりました。しかし、オーセンティックリーダーシップにはデメリット(注意点)もあります。オーセンティックリーダーシップを取り入れる際は、以下の2点に注意しましょう。

「自分らしさ」を正しく理解する

「自分らしさ」を活かしたリーダーシップを発揮するとは、自分のやり方・考え方を無理やり押し通すとか、自分の好き勝手にするということではありません。

また、「ありのままの自分で接しましょう」「弱みも隠さずさらけ出しましょう」とお伝えしましたが、リーダーがいつも愚痴や弱音ばかりを吐いているようなら、メンバーは不安になってしまうでしょう。実績がないリーダーなら、なおさらです。これでは、「リーダーの弱みは自分がカバーしなくては」という思いも、なかなか湧いてこないのではないでしょうか。

このように、「自分らしさ」を都合よく解釈してしまうと、リーダーシップを発揮できないだけでなく、逆効果になってしまう可能性もあります。「自分らしさ」を一言で説明するのは難しいですが、自分が思う自分だけでなく、他人から見た自分、チームや社会から求められていることなどもしっかり分析することが大切です。そのうえで、自分の強みを活かして周りをどのようにリードできるかを考えてみましょう。

誰でも発揮できるようになるとは限らない

オーセンティックリーダーシップは、誰でも発揮できるようになるとは限りません。人が成長するメカニズムとプロセスを示した、「成人発達理論」という考え方があります。この理論では、成人の知性は以下の3段階で発達するとされています。

  1. 環境順応型……決まり事を守る、指示をこなすといったことはできる(「指示待ちの部下」のような状態)。
  2. 自己主導型……自分なりの価値観に基づき、考えて行動できる。
  3. 自己変容型……変化に柔軟に対応し、他者にも変容を促すことができる。

自分なりの価値観に基づいて行動できるようになるのは、第2ステップである「自己主導型」からです。オーセンティックリーダーシップは、このステップ以上の人に向いているリーダーシップといえるでしょう。しかし、この理論によると、成人の約7割は第1ステップにいて、そこから第2ステップに移行できるのは約3割だとされています。

従業員にオーセンティックリーダーシップを発揮できるようになってもらいたいと考えているなら、まずは第1ステップから第2ステップに上がってもらうための取り組みが必要かもしれません

まとめ

VUCA時代に対応していくために、日本でもオーセンティックリーダーシップの注目度が高まっています。オーセンティックリーダーシップが正しく発揮されれば、エンゲージメント向上やダイバーシティ&インクルージョンの推進など、さまざまなメリットが期待できるでしょう。

オーセンティックリーダーシップを発揮できるようになるためには、まずは「自分らしさ」を正しく理解することが大切です。オーセンティックリーダーシップは、「こうするべき」と他者に自分のスタイルを押し付けることではありませんので、そこを間違えないように注意しましょう。

 

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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