キャリアオーナーシップとは?企業ができる取り組みを紹介

  • 組織・人材開発

「人生100年時代」において、いつまでも元気で自分らしく、いきいきと活躍し続けるためには、「キャリアオーナーシップ」が重要とされています。そして企業には、従業員一人ひとりのキャリアオーナーシップの醸成に取り組むことが求められています。

本記事では、キャリアオーナーシップとは何か、注目されている理由と、従業員のキャリアオーナーシップを醸成するための取り組みの具体例を紹介します

 

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キャリアオーナーシップとは

英単語のオーナーシップ(ownership)には、「所有権」や「責任感」「当事者意識」などの意味があります。ビジネスにおいては、与えられたミッションや課題に対して当事者意識を持ち、主体的に取り組む意識や姿勢を意味する言葉として用いられています。

そして、キャリアオーナーシップとは、自分のキャリアについてオーナーシップを持つことを意味します自分のキャリアについて主体的に考え、「ありたい姿」の実現に向けて行動していくことといえるでしょう。

キャリアオーナーシップの定義としては、平成30年に経済産業省中小企業庁が公表した『「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(人材力研究会)報告書』の意味が紹介されることが多いです。こちらの報告書では、キャリアオーナーシップを持つとは、“個人一人ひとりが「自らのキャリアはどうありたいか、如何に自己実現したいか」を意識し、納得のいくキャリアを築くための行動をとっていくこと”とされています。

出典:「我が国産業における人材力強化に向けた研修会」(人材力研究会)報告書 – 経済産業省中小企業庁(PDF)

また、こちらの報告書では、「人生100年時代」においては、キャリアは企業が与えるものではなく、働く人が自ら作り上げるべきものだという認識が不可欠であり、「可能な限り組織に隷属しない」「志を持つ」「自分の足で立てる」人になることが重要だと説明されています。

近年、よく耳にするようになった言葉の1つに「キャリア自律」がありますが、こちらもキャリアオーナーシップとほぼ同じ意味の言葉と理解して問題ないでしょう。

そもそも「キャリア」とは

ここで、「キャリア」という言葉がそもそも何を意味するのかを確認しておきましょう。

前項で紹介しました中小企業庁の報告書のなかでは、個人におけるキャリアとの向き合い方は、次の3つの視点から整理できるとされています。

  • 個人の指標(主観)……「やりがい」やモチベーション、仕事に納得できているか など
  • 社会の指標(間主観)……周りからの評判、社会的地位 など
  • 経済の指標(客観)……能力や担当する仕事に対する経済的な評価や報酬 など

また、『「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書』では、キャリア形成とは“関連した職務経験の連鎖を通して職業能力を形成していくこと”と説明されています。

出典:「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書について – 厚生労働省

これら場合は、簡単にいえばキャリアは「職業生活」を意味する言葉であると捉えることができます。しかしキャリアは、もっと広い意味で用いられることもあります。

たとえば、文部科学省のホームページでは、人は職業人や家庭人、地域社会の一員などさまざまな役割を担いながら生きており、キャリアとは“生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ね”であると説明されています。

出典:中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」<抜粋>:文部科学省

これを見ると、キャリアは「仕事」や「働くこと」に限定したものではなく、「人生」や「生き方」そのものであるとも捉えることができます。

このように、キャリアには狭義と広義の意味がありますが、キャリアオーナーシップの「キャリア」は、狭義のキャリア(職業生活)であると考えられます。

 

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キャリアオーナーシップが注目される理由

次に、キャリアオーナーシップが求められるようになっている背景にはどのような理由があるのかを解説していきます。

「人生100年時代」に対応するため

「人生100年時代」とは、簡単にいえば「健康寿命が延びて、100歳まで生きることも珍しくない時代」のことです

定年退職をした後も、人生はまだまだ続きます。そのため、安定した収入を得るために、定年退職後も再び働くことを選択する人が増えています。そして、その定年も徐々に引き上げられてきており、今後はより人生における仕事の割合が多くなることが予想されます。その一方で、変化の激しい現代では、スキルの賞味期限は短くなっています。そのため、「働くこと」と「学ぶこと」を一体化させることが重要とされているのです。

また、以前の日本企業は、終身雇用・年功序列を採用しているところがほとんどで、1つの企業で働き続けていれば、給与や役職も自動的に上がっていきました。しかし、近年はこれが一般的ではなくなりつつあり、ジョブ型雇用を導入する企業も増えています。そのため、自分のキャリアは自分で考え、形成していくというキャリアオーナーシップが、働く人の一人ひとりに求められるようになっているのです。

そして企業としても、多様な働き方への対応や制度の整備、従業員との新たな関係性の構築などに取り組んでいく必要があるとされています。

企業にとってもメリットがあるため

企業にも、従業員のキャリアオーナーシップの醸成に取り組むことが求められるようになっています。積極的に取り組むことで、企業としてもさまざまなメリットが期待できます。これも、キャリアオーナーシップが注目されている理由の1つではないでしょうか。では、そのメリットを1つずつ見ていきましょう。

生産性の向上につながる

キャリアオーナーシップとは、自分のキャリアについて主体的に考え、行動できるようになることです。そのため、キャリアオーナーシップの醸成に取り組むことで、従業員の主体性が高まることが期待できます

また、従業員が「学ぶこと」に積極的になってくれれば、新しい知識やスキルをどんどん習得してくれるようになり、専門性も高まるでしょう。これらの結果として、企業全体の生産性の向上も期待できます。

ただし、経済産業省の資料『「人生100年時代の社会人基礎力」と「リカレント教育」について』では、個人と企業の成長のベクトルを合わせることで、はじめて生産性向上が実現するとされています。キャリアオーナーシップの醸成に取り組む際は、この点を意識するようにしましょう。

参考:「人生100年時代の社会人基礎力」と「リカレント教育」について – 経済産業省(PDF)

エンゲージメント向上につながる

エンゲージメントとは、従業員が企業に対して「貢献したい」という意欲を持っている状態を意味します。エンゲージメントは、生産性や定着率を向上させるためにも重要な要素であるため、近年注目度が高まっています。

キャリアオーナーシップを醸成するための具体的な取り組みは後ほど詳しく紹介していますが、キャリア面談や1on1を実施し、リフレクション(振り返り)を促すのが有効とされています。このような対話の機会を設けることは、上司と部下が相互理解を深めたり、社内コミュニケーションを活性化させたりすることにもつながるため、エンゲージメントの向上にも有効とされています

また、厚生労働省の『令和4年度「能力開発基本調査」』では、職業生活設計の考え方について、正社員の約3分の2以上が「自分で職業生活設計を考えていきたい」と回答しています(「どちらかといえば自分で考えていきたい」も含む)。

参考:令和4年度「能力開発基本調査」 – 厚生労働省(PDF)

キャリアオーナーシップを醸成するための取り組みは、働く人のこのようなニーズに応えることにもつながります。よって、キャリアオーナーシップの醸成に取り組むことで、エンゲージメント向上が期待できるのです。

人材を確保しやすくなる

前項で紹介した調査結果からも、「自分のキャリアは自分で考えたい」という人が多いことがわかります。就職・転職活動をしている人にとっては、キャリアオーナーシップ醸成やキャリア開発支援の取り組みも、企業の1つの魅力です。採用活動でこれらを積極的にアピールすることで、人材が集まりやすくなることが期待できるでしょう

さらに、キャリアオーナーシップの醸成に取り組むことは、リテンションを強化することにもつながるといわれています。リテンション(retention)とは、「維持」や「保持」などの意味を持つ英単語で、人事領域においては、「人材の流出を防ぐための活動や施策」を指す言葉として用いられています。「キャリアオーナーシップの醸成に取り組むと、逆に離職率が高まるのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。確かに、転職や独立を考えやすくなるという側面もありますが、自社のビジョンを浸透させる、キャリアパスを示す等をともに進めていくことで、離職のリスクを下げることができるでしょう。

従業員のキャリアオーナーシップを醸成するための取り組み

では、従業員のキャリアオーナーシップを醸成するために、企業はどのようなことができるのでしょうか。ここからは、取り組みの具体例を紹介していきます。

キャリア開発支援を充実させる

従業員にキャリアオーナーシップを持ってもらうためには、まずじっくりと自分のキャリアと向き合ってもらう必要があります。企業として、その機会を提供しましょう。

たとえば、企業研修です。最近は、キャリア形成のための研修を実施する企業も増えています。「キャリア研修」や「キャリアデザイン研修」という名前の研修を提供する研修企業も増えていますので、一度実施することを検討してみてはいかがでしょうか。また、従業員が「自分のキャリアのために身につけたい」と思っているスキルを身につけられるよう、階層別研修やスキル別研修も充実させるとよいでしょう。

そして、先ほど紹介しました中小企業庁の報告書では、個人がキャリアオーナーシップを確立するためには、「体験総量」を上げることが重要であるとされています。企業としては、社内兼務や、グループ企業への出向、兼業・副業の解禁など、個人がさまざまな経験を積むことができる機会を提供していきましょう。これらの機会を整えていくことで、外から人材を受け入れることにもなるので、同時にダイバーシティも進めることができます。

そのほか、社内公募制度やジョブ型雇用を導入することも、キャリア開発支援の1つの方法です。

リフレクションの機会を充実させる

体験や経験したことを自分の能力として身につけるためには、ただ体験・経験を積むだけでなく、それらをしっかりとリフレクションすることが重要です。リフレクションすることで、今の自分に何が足りないのか、今後どのような能力を磨いていくべきなのかなどを認識できます。従業員には、リフレクションの重要性を理解してもらい、普段から個人で振り返りを行うことを意識してもらいましょう。

そして、企業としては、キャリア面談や1on1といった対話の機会を設けることも検討してみてください。先ほどお伝えしたように、キャリアオーナーシップの醸成に取り組むことで、生産性の向上につながることが期待できますが、このためには、個人と企業の成長のベクトルを合わせる必要があります。従業員一人ひとりと方向性をすり合わせるためにも、対話の機会を設けることは重要です。また、対話のなかで日々の業務の意義を従業員に認識してもらうことができれば、エンゲージメントの向上やリテンション強化にもつながるでしょう。

そのほかに、キャリアの棚卸や、同じ立場の人たちで話し合える場を設けるのも有効です。特に中高年世代は、すでに多くの経験をしているため、このような機会を設けて改めて今後のキャリアを考えてもらうとよいでしょう。

人事評価や報酬制度を見直す

従業員にスキルアップに対するモチベーションを高めてもらうため、そして優秀な人材を獲得するためには、人事評価や報酬制度を整えておくことも重要です。従業員の能力・スキルや成果が正しく評価されているか、従業員が「何が評価されるのか」がわかる制度になっているかどうかを、一度見直してみてはいかがでしょうか。また、設計した制度が正しく運用されるためには、管理職の意識作りや啓発にも取り組む必要があります。

従業員がキャリアを実現できる環境・制度を整備する

キャリアオーナーシップを醸成するためには、従業員が新しい知識やスキルを学んだ後に、それらを発揮し、活躍できるポジションや環境を整えておくことも大切です。これらが整備されていないと、自分がより活躍できる職場に転職を考え始めてしまうかもしれません。具体的には、職務内容や各ポジションに求められるスキルを明確にしておくことや、柔軟な働き方を整備することなどが必要になります。あわせて、リカレント教育を受けた人材の中途採用に力を入れていくことも重要です。

また、人手不足が課題となっている現代においては、転職や再就職をしやすくすることも求められています。たとえば、育児休業明けの従業員への復職支援を充実させる、転職先を紹介する、早期退職者への退職金を上積みする、キャリア転換の準備のための休暇制度や支援金などを用意するといった取り組みが考えられます。

そして、個人がいくつになってもいきいきと働き続けることができるような環境作りにも取り組んでいきましょう。具体的には、定年の廃止または延長、定年退職者への業務委託、インセンティブの軽減、健康維持の促進などが考えられます、

経営トップからメッセージを発信する

個人が自分の望むキャリアを実現するためには、学び続けることが大切です。従業員に学び続けることを促すには、周り(特に管理職)の理解が欠かせません。環境や制度を整えるだけでなく、従業員が学びに積極的になれるような企業文化を作っていく必要があります。そのために、経営トップから「学び」を推奨するメッセージを継続的に発信することも重要です

自社のビジョンや、目指す方向性、従業員を支援するさまざまな取り組みの内容なども積極的に発信することで、エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。

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以下では、講義・アクティビティ一体型の研修テーマの例を紹介します。

1.クリティカルシンキング研修

クリティカルシンキング研修のアクティビティ「混乱する捜査会議からの脱出」では、推理ゲームで論理的に情報を整理するなかで証拠の違和感に気づき、仮説立てや検証を行って目標を達成します

学びのポイント

  • 証拠品や証言など多くの情報を手分けして読み、組み合わせて論理的に結論を導き出す
  • フェーズが進むごとに情報が増え、複雑になっていくなかで必要な情報を取捨選択する
  • 出た結論に満足せず、常に新しい情報と照らし合わせて再検証する

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2.合意形成・アサーティブコミュニケーション研修

合意形成・アサーティブコミュニケーション研修のアクティビティ「コンセンサスゲーム」では、危機的な状況下でどの物資を優先して確保すべきかをチーム内で議論し、最適な結論を導きます

学びのポイント

  • 各々が個人ワークで考えた答えを聞くことで、チームメンバーの状況に対する認識や物資の重み付けの違いを受講者が理解する
  • 話し手は自分の答えにいたった理由を論理的・説得的に説明する
  • より良い根拠を導き出すための比較検討をして、チーム全員が納得する結論を出す

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3.OODA LOOP研修

OODA LOOP研修では、瞬間的な判断力が求められる運動系のアクティビティである「サバイバルゲーム」または「チャンバラ合戦」を実施することで、意思決定のフレームワークである「OODA LOOP」を実践的に習得することを目指します

学びのポイント

  • 敵チームをよく観察して作戦を練り、状況に応じた行動を素早く判断しながら、チームで共有して一体となって行動する
  • ミッションの勝利条件をもとに、観察、判断、行動を繰り返すことで、本当にすべき行動が何なのか、行動の最適化を行う

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まとめ

「人生100年時代」においては、1つの企業に勤め続けることは「稀なこと」になっていくと予想されます。企業が従業員のキャリアオーナーシップの醸成に取り組むことで、従業員は自分のキャリアについて主体的に考え、行動するようになるでしょう。その結果として、人材が流出してしまうリスクもありますが、取り組まなければ、働く人から選ばれる企業にもなれません。一人ひとりと丁寧にすり合わせを行うことで、エンゲージメント向上、生産性の向上も期待できます。企業として、キャリアオーナーシップの醸成に積極的に取り組んでいきましょう。

 

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アクティビティが受講者の主体性を高めてコミュニケーションを促進させ、スキルアップやチームビルディングをはかれます。

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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