アダプティブラーニングとは?メリット・デメリット・活用方法を解説
- 学習法
学校教育において導入が進んでいる「アダプティブラーニング」という学習方法が、企業の人材育成にも活用できるのではないかと注目されるようになってきています。
本記事では、アダプティブラーニングとは何か、メリット・デメリット、企業における活用方法、企業でも導入できるシステムの例を紹介します。
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アダプティブラーニングとは
アダプティブラーニングとは、学習者個人の習熟度や進捗(しんちょく)状況に合わせて、学習の内容やレベルを調整し、AIにより最適化された学習内容を提供するという、オンライン学習の方法です。英単語のアダプティブ(adaptive)には「適応性のある」、ラーニング(learning)には「学習」の意味があり、アダプティブラーニングは「適応型学習」と訳されます。
学校教育や企業の研修、eラーニングでも、学習者全員が同じカリキュラムを決められた順番で学ぶのが、従来の学習スタイルでした。しかし、人によって学習内容を理解するスピードや、苦手なところは違います。そのため、途中からペースについていけなくなる学習者が出てきてしまったり、理解が早い学習者のモチベーションが下がってしまったりすることがあるのです。
より効果的な学びを実現するためには、個人に合わせて学習内容を提供する必要があります。これまでは、プリントなどを活用することでこれを実施してきましたが、この方法は、どうしても指導者の経験や勘に頼る部分が大きくなります。また、指導者一人で多くの学習者を見るのは難しいという課題もありました。
アダプティブラーニングは、ICTを使って、学習者個人の学習進捗や苦手なところなどの情報を蓄積・分析し、最適な問題を自動で提供するというものです。これを導入することで、学習者が何人であれ、全員に最適な問題を提供することが可能です。アダプティブラーニングは、効率よく効果的な学びを実現できる学習方法として、注目を集めています。
アダプティブラーニングの種類
アダプティブラーニングは、「ルール型」と「アルゴリズム型」の、大きく2種類に分けられます。
「ルール型」とは、各問題に対して、「正解したら次はこの問題」「不正解なら次はこの問題」というように、ルールを決めておくタイプ。そして「アルゴリズム型」は、リアルタイムで学習の流れを計算し、次の問題を提供するタイプです。
「ルール型」は、あらかじめルールを決めておかなければならず、そのルールが固定されるので、コース内容や問題の設計・変更の負荷が大きくなります。「アルゴリズム型」は、リアルタイムで計算をするので、それを行えるほどのコンピューティングリソースとネットワークが必要になります。
このように、それぞれに特徴があります。効果的な学習を効率よく提供するためには、目的や自社の状況に合ったシステムを選ぶことも大切です。
アダプティブラーニングはEdTechの1つ
EdTech(エドテック)とは、エデュケーション(Education:教育)とテクノロジー(Technology:技術)を組み合わせた造語です。アメリカでは、従来の教育プロセスや内容を変革するような新たな手法を提供する企業、またはサービスを指す言葉として、2010年前後から使われています。
日本においては、文部科学省が、資料『Society5.0におけるEdTechを活用した教育ビジョンの策定に向けた方向性』のなかで、EdTechを“教育におけるAI、ビッグデータ等の様々な新しいテクノロジーを活用したあらゆる取組”と説明しており、学校教育での活用を推進しています。
アダプティブラーニングは、このEdTechの1つです。文部科学省は、アダプティブラーニングを“学習データ等を活用した学習状況の「見える化」等による個に応じた指導”としており、これを推進することは“すぐにでも着手すべき課題”であるとしています。
出典:Society5.0におけるEdTechを活用した教育ビジョンの策定に向けた方向性 – 文部科学省(PDF)
このように、アダプティブラーニングは文部科学省も推奨している学習方法であるため、近年注目度が高まっているのです。
アダプティブラーニングのメリット
前項でお伝えしたように、文部科学省は学校教育においてアダプティブラーニングを推奨しています。近年アダプティブラーニングの導入が進んでいるのも、主に学校教育や民間教育(塾など)ですが、導入することでさまざまなメリットが期待できるため、企業の研修や人材育成への活用も期待されています。ここからは、アダプティブラーニングのメリットを、1つずつ見ていきましょう。
学習の効果が向上する
これまで一般的だった、学習者全員が同じカリキュラムを決められた順番で学ぶという学習スタイルでは、1つわからないところができると、全体のペースから取り残されてしまいやすいという課題がありました。ある部分でつまずいてしまうと、その後の学習内容も十分理解できず、どんどんわからないことが増えていってしまします。アダプティブラーニングは、個人に合わせて、苦手なところに特化した問題が自動で繰り返し出題されます。そのため学習者は、学習内容を確実に1つずつ習得していくことができます。
逆に、理解が早い人は、従来の学習スタイルだと、途中でモチベーションが下がってしまうこともありました。たとえば、研修に参加して、この部分はもう理解できた、もしくは既に知っている内容だから早く次に進んでほしいと感じたことがある人も多いのではないでしょうか。アダプティブラーニングなら、自分のペースでどんどん先に進んでいくことができます。
このように、アダプティブラーニングは個人に合わせて学習内容が提供されるため、学習効果の向上が期待できます。
同じ品質の学習を提供できる
講師や指導者が直接教えるスタイルだと、誰が講師・指導者を担当するかによって、学習の品質に差が生まれてしまうことがあります。それぞれが持っている知識や経験、指導力は異なりますし、学習者との相性なども影響するためです。マンツーマンでの指導も、指導者の経験や勘に頼る部分が大きく、指導者の主観も入りやすいため、どうしても指導の品質に差が生まれてしまうことがあるのです。
アダプティブラーニングは、ICTを使って収集・分析したデータに基づいて学習プログラムが提供されるため、講師や指導者による品質の差が生まれることがありません。
さらに、最適化された学習プログラムが自動で提供されるため、講師や指導者の負担も軽減されます。学習の品質の均一化と、講師・指導者の負担軽減を両立できるというのが、アダプティブラーニングのメリットの1つです。
学習時間を短縮できる
アダプティブラーニングを導入することで、学習時間の大幅な短縮も実現できる可能性があります。
株式会社COMPASSが運営する学習塾では、同社が提供しているアダプティブラーニング教材の「Qubena(キュビナ)」を導入し、中学校の一学年分の学習範囲(数学)を、従来の学校教育の7倍のスピードに匹敵する平均32時間で修了したそうです。
参考:AI (人工知能)型タブレット教材「Qubena (キュビナ)」公立高校で初、岡山県立和気閑谷高等学校での採用決定 – Qubena(キュビナ)/株式会社COMPASS – 学習eポータル+AI型教材
さらに、「未来の教室」実証事業(※)として同教材を導入した東京都千代田区立麹町中学校でも、全学年において、標準授業時間の半分の時間数で学習を修了することができました。学習の効果は、通常授業と変わらない、もしくは向上したクラスもあったそうです。
アダプティブラーニングを導入することで、学習の無駄が省かれ、常に最適な問題が自動で出題されるため、学習時間を大幅に短縮できることが期待できます。企業においても、アダプティブラーニングを導入して研修時間を短縮することができれば、それにより生まれた時間を、別のことに使うことができます。たとえば、よりレベルの高い課題に挑戦してもらう、アダプティブラーニングで学習した基礎を応用したワークを実施するなどが考えられます。
※「未来の教室」実証事業とは……経済産業省が2018年から実施している、新学習指導要領のもとEdTechを活用した新しい学び方を実証するための事業のことです。
ポータルサイト:未来の教室 ~learning innovation~
学習者の態度が変わる
前項で紹介しました東京都千代田区立麹町中学校では、アダプティブラーニング教材を導入した授業では、生徒同士で学び合う、教員に積極的に質問するなど、学習者の態度にも変化が見られたそうです。さらに、アダプティブラーニング教材の導入前後で生徒に対してアンケートを実施したところ、「数学の学習は楽しい」「数学の学習に積極的に取り組んでいる」などの項目について、「あてはまる」または「とてもあてはまる」と回答した生徒の割合が、導入後のほうが高くなったという結果も出ています。
企業の集合型研修にもアダプティブラーニングを導入することで、学習者が学びに意欲的になってくれることや、コミュニケーションが活性化するという効果も期待できるのではないでしょうか。
参考:教科学習(授業)の効率化と応用とのサイクルの実証(AI教材「Qubena」の公教育への導入実証) | 未来の教室 ~learning innovation~
過去のデータを活用できる
アダプティブラーニングを導入することで、学習者のさまざまなデータを収集・分析できます。どのようなデータを収集・分析できるかはシステムによって異なりますが、たとえば学習者の進捗状況、テストの成績、学習者のログインデータや、学習時間、さらに学習者の生体データや、成績が優秀な人の行動特性を分析してくれるものも登場しているようです。これらのデータを有効活用することで、より良い教材やカリキュラムを作ることができます。
さらに、得られたデータを、対面での指導に役立てることもできるでしょう。たとえば、進捗が遅い学習者を集めて指導をする、テストの結果を踏まえて声掛けをするといったことが行えます。アダプティブラーニングは、講師や指導者の代わりになってくれるものではなく、学習の質を高めたり、負担を減らしたりなど、どちらかというと講師や指導者を助けてくれるものといえます。データを有効活用して、より良い学習の実現を目指していきましょう。
アダプティブラーニングのデメリット
アダプティブラーニングを実施するためには、ICT環境を整備しなければなりません。これには、多額のコストがかかります。また、ICTを使いこなせる人材も必要です。アダプティブラーニングは、実施するための環境や体制を整えるのが簡単ではありません。この点は、デメリットの1つといえます。
そして、アダプティブラーニングは基礎的な知識を習得するのには向いていますが、コミュニケーションを学んだり、ディスカッションやグループワークをしたりといった学習には向いていません。しかし最近の企業研修は、テーマにもよりますが、実践につながるワークが盛り込まれているものが多くなってきています。
また、企業の人材育成の場合は、その内容が企業によって異なるため、体系化するのも難しく、なかなか学校教育ほど導入が進まないというのが現状のようです。アダプティブラーニングのシステムや教材も、多くが学校教育向けのものとなっています。
さらに、アダプティブラーニングを導入するなら、収集したデータの取り扱い・管理にも注意しなければならないので、情報セキュリティポリシーの策定や見直しも必要になるでしょう。もし、現在アダプティブラーニングの導入を検討しているなら、学校を対象としたものですが、文部科学省の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」も参考にしてみてはいかがでしょうか。
アダプティブラーニングの企業における活用方法
企業のアダプティブラーニングの活用方法として、まず挙げられるのが研修です。研修にアダプティブラーニングを導入すれば、個人に合わせた最適な学習プログラムを提供できるようになり、効率よく知識を習得してもらえます。学習のペースも上がるので、早期戦力化も期待できるでしょう。特に、新入社員はインプットしなければならないことが多いので、アダプティブラーニングが有用ではないかと考えられます。
また、アダプティブラーニングを導入することで、さまざまなデータが可視化されるようになるので、タレントマネジメントにも役立てることができるのではないでしょうか。
企業の人材育成にも活用できるアダプティブラーニングのシステム
最後に、企業の人材育成にも活用できるアダプティブラーニングのシステムとして、「CoreLearn(コア・ラーン)」と「ノウン」のを2つ紹介します。
1. CoreLearn(コア・ラーン)
「CoreLearn(コア・ラーン)」は、凸版印刷株式会社(2023年に持株会社の称号を「TOPPANホールディングス株式会社」に変更)と、株式会社きんざい(2023年に一般社団法人金融財政事情研究会と経営統合)が、金融系のデジタル教材として共同開発し、2017年10月から提供しているものです。現在は、金融分野向けだけでなく、企業向け、情報セキュリティ教育向けのサービスも提供しています。
企業向けは、完全習得型のeラーニングとなっています。問題に間違うと、ランダムに類題が出題される仕組みになっており、理解できるまで繰り返し学習ができます。また、忘却曲線理論に基づいた反復学習機能が搭載されており、最適な間隔で学習を重ねられるというのも、このシステムの特徴です。
公式サイト:企業向け完全習得型eラーニング「コア・ラーン」|TOPPAN EDUCATION
2.ノウン
「ノウン」は、NTTアドバンステクノロジ株式会社が開発した学習プラットフォームです。デジタルドリルアプリの「ノウンアプリ」と、高度な学習環境を提供するための「ノウンクラウド」から構成されています。
「ノウン」は、紙に書くように、タブレットに直接書き込むことができます。アダプティブラーニングを実現するためのデータ収集・分析機能も搭載されており、デジタルなのにアナログ感もあるというのが大きな特徴です。
株式会社きんざいは、ファイナンシャル・プランニング技能検定の書籍にノウンのデジタルドリルをつけて販売しています。これにより、書籍とデジタルを組み合わせた新たな学習の形をユーザーに提案することができたと感じているそうです。
公式サイト:高機能デジタルドリルプラットフォーム ノウン | NTT-AT
まとめ
文部科学省が推進しているEdTechの1つ、アダプティブラーニングについて解説しました。アダプティブラーニングは、主に学校教育において広がりを見せています。日本においては、まだ企業の導入事例はあまり多くはありませんが、企業が活用できるシステムもあります。企業の規模や教育体系にもよりますが、導入することで、学習効果の向上、学習内容の品質の均一化などが期待できるのではないでしょうか。
参考:「一橋ビジネスレビュー 67-1号(2019年夏)」(編集者:一橋大学イノベーション研究センター / 出版社:東京経済新報社)
「あそぶ社員研修」は、受講者全員が没入して取り組むアクティビティ・振り返り・講義をブリッジすることで学びを最大化させ、翌日から業務で活かせる知識・スキルが身につく講義・アクティビティ一体型の研修プログラムです。
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この記事の著者
雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。