アサーショントレーニングとは?具体的な方法や自己表現のタイプを解説
- ビジネススキル
アサーショントレーニングとは、「アサーション」と呼ばれるコミュニケーションのとり方ができるようになるためのトレーニングのことです。これを実践することで、周囲の人とより良い関係を築けるようになり、仕事もスムーズに進むようになるでしょう。
本記事では、アサーショントレーニングとは何か、自己表現の4つのタイプ、アサーショントレーニングの基本である「4つの柱」、アサーショントレーニングの具体的な方法と、職場でアサーションを行うメリットを解説していきます。
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アサーショントレーニングとは
アサーショントレーニングとは、アサーティブな自己表現ができるようになるためのトレーニングのことをいいます。
アサーティブ(assertive)は、「積極的な」「自己主張する」などの意味を持つ英単語ですが、アサーティブな自己表現とは、一方的に自分の意見を述べ、それを押し付けるようなものではありません。相手の気持ちを尊重しつつ、自分の意見を適切に伝えることをいいます。このようなコミュニケーションのとり方は、「アサーション」(または、アサーティブコミュニケーション)と呼ばれています。アサーショントレーニングを実践することで、相手に不快感を与えることなく、自分の意見を主張できるようになるでしょう。
アサーションは、もともとは1950年代に、アメリカの心理学者であるジョセフ・ウォルピ(Joseph Wolpe)氏により開発された、「行動療法」という心理学療法の1つです。開発当時は、主にカウンセリング方法として用いられていたものですが、その後コミュニケーションのトレーニング方法として広がっていきました。日本に入ってきたのは、1980年代だといわれています。
アサーションが注目されている理由
長い歴史があるアサーションですが、近年の日本においては、パワーハラスメント(以下、パワハラ)対策や、心理的安全性を高める方法としてのニーズが高まっています。
パラハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の施行により、パワハラの防止策を講ずることが事業主の義務となりました。職場におけるパワハラを防ぐために、働く人により高いコミュニケーションスキルが求められるようになっています。アサーションをテーマにした研修は以前からありますが、最近はパワハラ防止策の一環として、アサーション研修を実施する企業もあるようです。
そして、心理的安全性とは、組織のなかで安心して自分の意見を言えたり、思ったとおりに行動できたりする状態のことをいいます。職場の心理的安全性を高めることは、動機づけや従業員エンゲージメントの向上にもつながります。従業員エンゲージメントが向上すれば、生産性の向上も期待できます。アサーションは、これを実現するための方法としても注目されているようです。
アサーションが役立つ場面
アサーションは、ビジネスのさまざまな場面で役に立ちます。
たとえば、部下に何かやってほしい作業があるとき、「〇〇をやっておいてください」という指示を与えるだけでは、部下は思いどおりに動いてくれないかもしれません。動いてくれたとしても、「どうして自分がやらなければいけないのか」と、納得できていない可能性もあります。日本人には、こちらの状況を「察してほしい」「言わなくても理解してほしい」というところがありますが、これは海外の人には通用しないことがほとんどです。
相手に動いてもらうためには、きちんと主張することが大切です。「私は〇〇をするので、あなたには〇〇をしてほしいです。」「こういう理由のために、あなたに〇〇をやってほしいです。」というようにアサーティブに伝えると、相手との良好な関係を維持しつつ、仕事をスムーズに進められるようになるでしょう。
自己表現の4つのタイプ
日本では、自己表現のタイプを「アサーティブ」「非主張的」「攻撃的」の3つに分類することが多いです。しかし、DeGiovanniの 2次元モデルが提唱され、アメリカではこれに「間接的攻撃的」を加えた4つのタイプが紹介されるようになってきています。それぞれの自己表現の形を、詳しく見ていきましょう。
1.アサーティブ
アサーティブな自己表現とは、相手の気持ちを尊重しながら、自分の意見や気持ちを正直に、その場に相応しい形で伝えるというものです。
アサーティブな自己表現ができる人は、しっかりと自分を持っているため、あまり他人に振り回されることがありません。また、自分の言動に責任を持とうとするという特徴もあります。自分の主張を相手にわかってもらうとしますが、決して押し通そうとするわけではありません。自分のことも、相手のことも大切にするため、相手が自己表現をするのを待つこともできます。
アサーショントレーニングが目指すのは、このアサーティブな自己表現です。
2.非主張的(ノン・アサーティブ)
非主張的(ノン・アサーティブ)な自己表現とは、自分の意見や気持ちを表現できない、または相手に伝わらないような言い方をするというものです。非主張的な自己表現だと、自分をあまり主張できないため、嫌な思いや不快な体験をしてしまうことがあるでしょう。
このタイプの人は、自分よりも相手の気持ちを尊重しすぎているという場合もありますが、自分に正直になれなかったり、自分に対して否定的であったりする可能性もあります。また、引っ込み思案、他人任せにする、消極的である、服従的な言動などが、特徴として挙げられます。
3.攻撃的(アグレッシブ)
攻撃的(アグレッシブ)な自己表現とは、自分の意見や気持ちをはっきり主張できますが、それが強すぎるというものです。
このタイプの人は、相手に対する配慮がなく、無理やり自分の意見を押し通そうとします。具体的には、相手を怒鳴る、責める、無視する、相手に意見を言わせない、言いたいことが言えなかったときに他の人に八つ当たりするというような人が、このタイプに該当します。相手を思いどおりに操作・支配しようとする、一方的であるといった特徴があります。
4.間接的攻撃的(パッシブ・アグレッシブ)
間接的攻撃的(パッシブ・アグレッシブ)な自己表現とは、攻撃的な自己表現のようなストレートな攻撃ではなく、間接的または遠回しに相手を攻撃するような表現です。表向きは愛想がよいですが、裏で悪口を言ったり、不意打ちしてきたりするようなタイプが、こちらに該当します。
攻撃的の一種とされることもありますが、アメリカではこのような「卑怯な態度」の人は、別のタイプとされることが多いようです。
参考:看護師を対象としたRathus Assertiveness Schedule 日本語版の作成(渋谷 菜穂子、奥村 太志、小笠原 昭彦) – J-Stage(PDF)
アサーショントレーニングの基本「4つの柱」とは
このあとアサーショントレーニングの具体的な方法を紹介しますが、アサーティブなコミュニケーションを実現するために、一番大切なのは「心」です。どのような方法やテクニックを使う場合でも、以下の「4つの柱」を意識することを忘れないでください。
- 誠実……自分に正直になれば、相手に対しても誠実になれる。
- 素直……遠回しにせず、言葉でストレートに相手に伝える。
- 対等……相手と対等に向き合う。
- 自己責任……自分の発言、発言しなかったことに責任を持つ。
アサーショントレーニングの具体的な方法
ではここからは、アサーティブな自己表現ができるようになるためのトレーニング方法を5つ紹介してきます。
1.ロールプレイングを実施する
アサーティブな自己表現ができるようになるには、まずは自己主張の4つのタイプの違いを理解することが重要です。そのために、ロールプレイングを行うという方法があります。
たとえば、「部下が提出してきた書類に間違いがあった」という状況でロールプレイングを行う場合、以下の流れで進めていきます。
- 参加者同士でペアを作り、どちらが上司役・部下役になるかを決めます。
- 上司役になった人は、部下役の人に対して、「間違いがあるので修正してほしい」ことを攻撃的に表現します。
- 部下役の人には攻撃的に表現されたときの感想を、上司役の人には攻撃的に表現したときの感想を尋ねます。
- 同様に、非主張的、間接的攻撃的、アサーティブのそれぞれの自己表現のタイプで、2と3のプロセスを行います。
アサーションをテーマに研修を実施するなら、このようなロールプレイングを研修のなかに組み込んでもよいでしょう。
参考:演習;アサーションのロールプレイング|厚生労働省(PDF)
2.DESC法を活用する
DESC(デスク)法とは、「Describe(描写する)」「Express(説明する)」「Suggest(提案する)」「Choose(選択する)」の4つの段階に分けて自分の意見を主張するというコミュニケーション技術です。次のような状況に当てはめて、DESC法の例を見てみましょう。
(状況)明日打ち合わせの予定が入っているが、別件で急な予定が入ってしまったため、打ち合わせを延期したい。
1. Describe(描写する)
まずは、客観的かつ具体的に、事実(状況、課題、相手の言動など)のみを描写します。このとき、自分の気持ちや意見、憶測などを入れてはいけません。
(例)「明日〇〇時より打ち合わせのお約束をさせていただいていましたが、別件で急な予定が入ってしまいました。」
2. Express(説明する)
続いて、自分の意見や気持ち、考えを、アサーティブな表現で相手に伝えます。
(例)「その予定はこういう理由のために日程を変えることが難しく、急で申し訳ありませんが、打ち合わせの日程を変更させていただきたいです。」
3. Suggest(提案する)
続いて、相手に何を求めているのかをはっきりと伝えます。命令や誘導ではなく、提案する、またはお願いする形で伝えるのがポイントです。
(例)「来週でご都合の良い日を教えてください。」
4. Choose(選択する)
あなたの提案に、相手は「イエス」か「ノー」を返してくれます。その反応に合わせて、次の行動を選択します。相手が「ノー」を返してきた場合は、再び「Suggest(提案する)」に戻ることになりますので、次の提案を考えておきましょう。
(例)※「イエス」の場合
相手「わかりました。来週の〇曜日、〇時はいかがですか?」→あなた「ありがとうございます。ではその予定でお願いします。」
(例)※「ノー」の場合
相手「申し訳ありません。来週は時間を作るのが難しいです。」→あなた「オンラインであれば可能でしょうか?」
3.「わたし」を主語にする(アイメッセージ)
主語をアイ(I:わたし)にして自分の意見や考えを伝えることを、アイメッセージといいます。何か伝えたいことがあるとき、主語を「あなた」にすると、否定的な印象を与えてしまうことがあります。
たとえば、「あなたのやり方は間違っています」をアイメッセージで伝えると、「わたしはこのようなやり方が良いと思います」というような形になります。
このように、主語を「あなた」から「わたし」に変えることで、責めるような言い方になりにくく、誤解やトラブルも生まれにくくなります。
4.非言語のコミュニケーションも意識する
私たちは、無意識のうちに非言語の部分でもさまざまなメッセージを発信しています。アサーティブな印象を与えるためには、非言語のコミュニケーションを意識することも大切です。
日本の臨床心理学者で、「日本アサーション協会」の代表も務めている平木典子氏は、非言語のアサーションの要素には、視覚的なものと聴覚的なものがあるとしています。
- 視覚的なもの:視線、表情、姿勢、動作、人との距離、服装 など
- 聴覚的なもの:声の大きさ、話の速度、流暢さ、明瞭さ、反応するタイミング、余分な言葉 など
普段からこういった部分にも気を配り、どうすれば相手に良い印象を与えながら自分の意見を主張できるかを考え、工夫してみましょう。
また、非言語の部分で感情を素直に表すことも、アサーティブな自己表現のポイントです。言葉と非言語の部分から感じられる感情が一致しないと、相手は混乱してしまいます。たとえば、言葉では「ありがとう」と言っているのに、怒った表情をしているというようなケースです。感情を素直に表すことも、普段から意識してみてください。
参考:27 アサーショントレーニングの理論と実際 – 一般社団法人 日本学校教育相談学会 JASCG(PDF)
5.物事の受け取り方を変える(ABCDE理論)
ABCDE理論は、臨床心理の権威であるアメリカのアルバート・エリス氏により提唱された認知療法の1つです。ABCDEには、それぞれ以下のような意味があります。
- Activating event(出来事、外部からの刺激)
- Belief(受け取り方、感じ方、思い込み)
- Consequence(結果としてあらわれる感情、行動、症状)
- Dispute(反論)
- Effect(効果、影響)
出来事から感情が生まれる(A→C)のではなく、出来事を受け取ることで感情が生まれます(A→B→C)。つまり、出来事をどのように受け取るかによって生まれる感情は変わるのです。
Bには2つの種類があり、合理的な受け取り方をRational Belief(RB)、非合理的な受け取り方をIrrational Belief(IB)といいます。非合理的な受け取り方(IB)をしてネガティブな感情が生まれたとき、自分の受け取り方に対して反論(D)して、合理的な受け取り方(RB)に修正できると、良い結果につながるというのが、ABCDE理論の一連の流れです。
具体的な例を見てみましょう。
- A(出来事):上司に書類のミスを指摘された。
- IB(非合理的な受け止め方):最近は特に注意されることが多い。自分はなんて能力が低いのか。
- C(結果):自信を無くし、「もうダメだ」という感情が生まれる。
- D(反論):どんなに優秀な人でもミスをすることはある。
- E(効果・影響):自分の能力を否定されたわけではない。同じミスを繰り返さないように注意して、成長できるように努力しよう。
アサーティブな自己表現をするためには、まずは自分の意見や感情を、自分で正しく認識することが大切です。ABCDE理論を意識することで、自分の思考の過程を客観的に見ることができるようになるでしょう。
職場でアサーションを行うメリット
アサーショントレーニングを行い、従業員一人ひとりがアサーティブな自己表現ができるようになれば、以下のようなメリットが期待できます。
- しっかり自己主張ができるようになるので、ストレスがたまりにくくなる。
- 社内コミュニケーションが良好になり、報告・連絡・相談もスムーズに行えるようになる。
- 従業員同士で信頼関係を築きやすくなる。
- 心理的安全性の確保やエンゲージメント向上にもつながる。
このように、アサーショントレーニングは、実践する本人だけでなく、企業にもポジティブな効果をもたらすものです。企業研修に取り入れることを検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
パワハラ防止策や心理的安全性の確保、従業員のエンゲージメントを向上させる方法として、アサーションが注目を集めています。本記事で紹介したアサーショントレーニングの方法のうち、ロールプレイング以外は日頃のコミュニケーションのなかで実践できます。アサーティブな自己表現ができるようになるために、今日から取り入れてみてください。
「合意形成・アサーティブコミュニケーション研修」は、コンセンサスゲームと講義を組み合わせ、お互いを尊重するコミュニケーションスキルや合意形成(グループの意見を一致させる)の方法を学び、翌日から業務で活用できる研修プログラムです。
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アクティビティが受講者の主体性を高めてコミュニケーションを促進させ、スキルアップやチームビルディングをはかれます。
この記事の著者
雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。