経験学習とは?コルブの経験学習モデルと実践のポイント、具体例を紹介

  • 学習法

人は、経験から多くのことを学びます。人材育成にも「経験学習」を取り入れることで、学びが定着しやすくなり、より実践的なスキルを身につけられるようになるでしょう。

本記事では、経験学習とは何か、代表的な理論であるデービッド・コルブの「経験学習モデル」、経験学習を実践するうえで大切なこと、経験学習モデルの活用の具体例、経験学習の効果を高めるポイント、人材育成に経験学習サイクルを取り入れた企業の事例を紹介します

 

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経験学習とは

経験学習に関する理論にはさまざまなものがあるため、「経験学習とは何か」を一言で述べるのは困難です。しかし、多くの理論には共通する部分があります。それは、「学習において経験と実践を重視する」ことと、「経験のリフレクション(振り返り)をする」ことの2点です

また、「経験」をどのように捉えるかで、「経験学習」の定義も変わってきますが、ここでアメリカの哲学者であるジョン・デューイの考え方を紹介しましょう。ジョン・デューイが考える「経験」とは、簡単に表すと、「行動」とその「結果」を結びつけることといえます。たとえば、ジョン・デューイは次のような例をあげています。

小さな子どもが、ろうそくの炎の中に指を入れたとします。すると子どもは指に火傷をしますが、子どものなかで、「ろうそくの炎の中に指を入れる」という行動と、「火傷をした」という結果が結びつかない限り、それは「経験」ではありません。「ろうそくの炎の中に指を入れたから、火傷をしたのだ」と、行動と結果を自分のなかでつなげることができて初めて「経験」になるというのが、ジョン・デューイの考え方です。

経験学習の最も広く知られている理論といえば、デービッド・コルブの「経験学習モデル」ですが、この理論は、ジョン・デューイの考え方を基にまとめられたものです。経験学習モデルについては、のちほど詳しく解説します。

参考:デューイの教育哲学における「経験」と今日の大学教育(吉村 文男、竹山 理、日下 耕三) – CORE(PDF)

人の成長の70%は「仕事上の直接経験」

経験学習は、企業における人材育成にも取り入れられています人の成長は、70%が「仕事上の直接経験」、20%が「他者からのアドバイス、観察」、10%が「書籍、研修」によるものといわれています。これは、アメリカの人事コンサルタント会社であるロミンガー社の調査結果によるもので、「70:20:10の法則」と呼ばれています。

702010の法則」は、アメリカで働く人々を対象に行われた調査から導き出されたものですが、ダイヤモンド社HRソリューション事業室顧問の永田正樹氏は、業種や職種によって多少違いはあるものの、日本においても成人の学びの50%以上は経験によるものと述べています。

ビジネスパーソンとして成長し続けていくためには、普段の仕事のなかで、効率的に経験から学ぶ習慣をつけることが重要なのです。

参考:良質な“仕事経験”を得ていくために、本人とマネジャーと人事部門に必要なこと | HRオンライン | ダイヤモンド・オンライン

コルブの経験学習モデルとは

アメリカの組織行動学者であるデービッド・コルブは、ジョン・デューイの経験と学習に関する理論を基に、次のような循環型サイクルを構築しました

これが、コルブの「経験学習モデル」と呼ばれるものです。

各ステップを、詳しく見てみましょう。

1.具体的経験

1ステップの「具体的経験」とは、文字どおり、何かを経験することを意味します。出来事や事象にかかわったり、環境に働きかけたりして、その結果を受け止めます。このステップでは、思考したり理論化したりせずに、ありのままの結果を客観的に捉えることが重要です。

2.内省的観察

2ステップの「内省的観察」とは、ビジネスの場であればいったん職場を離れ、自分の行動や経験したことの意味を、広く多様な視点で振り返ることです。「リフレクション」とも呼ばれます。

「内省」と混同しがちな言葉に「反省」があります。どちらも「自分が行ったことを振り返り、考える」という点は共通していますが、「反省」はどちらかというと、過去の自分の発言や行動、考え方などに間違いがなかったかを考える意味合いが強いといえます。一方「内省」は、ポジティブなこともネガティブなことも振り返り、自分の発言や行動の意味づけをすることを意味しています。

このステップでは、具体的経験により何が生じたか、何が事実なのかという結果を正しく理解することが重要です。

3.抽象的概念化

3ステップの「抽象的概念化」とは、経験から得たことを、論理的な思考により、自分なりに知識やルールとしてまとめることをいいます。簡単にいうと、経験からの教訓を導き出すということです。概念化することにより、今回の経験で得た学びを、ほかの状況でも応用できるようになります。

コルブの経験学習モデルにおける「学習」とは、「経験をする→内省する」のプロセスを通して、経験を変換して自分なりの知識やルールをつくりだすことだとされています。

4.能動的実験

4ステップの「能動的実験」とは、抽象的概念化で導き出した知識やルールを、ほかの状況で実践してみることを意味します。これによって、また新たな「経験」が得られるので、ステップ1に戻って、サイクルを繰り返していきます。

経験学習のプロセスは、経験を通して得たことを実践してこそ意味があります。成長していくためには、次の経験につなげて、サイクルを回し続けていくことが重要です。

以上が、コルブの「経験学習モデル」です。

経験学習を実践するうえで大切なこと

経験学習モデルのような経験学習のサイクルは、ただ回しているだけで成長できるというものではありません。青山学院大学経営学部経営学科の松尾睦教授は、経験からの学習を促進させるためには、「ストレッチ」「リフレクション」「エンジョイメント」の3つが重要であると述べています。それぞれが何を意味するのか、詳しく見てみましょう。

参考:「経験学習」とは何か?新入社員が“仕事上の直接経験”で成長する方法 | HRオンライン | ダイヤモンド・オンライン

ストレッチ

「ストレッチ」とは、現在の自分が難なくこなせる仕事ではなく、努力すれば達成できるレベルの仕事にチャレンジすることをいいます。ストレッチが重要なのは、すでにできることを経験しても、そこから得られる学びは少ないためです。

人材育成に経験学習モデルを活用するときは、第1ステップの「具体的経験」で、目標を設定してみましょう。育成対象者にとって適度に難しい目標を設定すると、成長につながりやすくなります。

リフレクション

「リフレクション」とは、経験学習モデルでいうと、第2ステップの「内省的観察」を行うことです。経験したあとに、成功要因や失敗要因について、広く多様な視点で振り返ります。

経験学習は、このリフレクションが非常に重要ですが、日々業務に追われていると、なかなかリフレクションの時間をつくれないこともあります。しかし、時間が経てば記憶も薄れていくので、リフレクションはできるだけ早く行うべきです。また、経験学習のリフレクションは、「次に同じ失敗しないため」ではなく、「次の挑戦をするため」に行うものなので、ポジティブな姿勢で取り組みましょう。

リフレクションで壁にぶつかってしまい、経験学習のサイクルが止まってしまうケースも多いので、育成対象者がリフレクションを習慣にできるようになるまで、上司や先輩社員などからフィードバックを与えるのも効果的です。

KPT法とは

リフレクションの具体的なやり方として、「KPT法」というフレームワークを活用する方法があります。「KPT」は、以下の3つの英単語の頭文字を取ったものです。

  • Keep……できていること、続けていくべきこと
  • Problem……改善すべきこと
  • Try……次にやってみたいこと

この3つの視点から、客観的に自分が経験したことを振り返っていきます。

先ほどお伝えしたとおり、経験学習のプロセスは、経験を通して得たことを実践してこそ意味がありますので、「Try」をしっかり出すことが重要です。「Try」は、「Keep」をさらに良くするにはどうすればよいか、「Problem」を解決するにはどうすればよいかを考えると、浮かびやすくなるでしょう。また、「心がける」や「努力する」ではなく、具体的な行動に落とすことが大切です。

日報を作成したり、進捗報告を行ったりする際には、KPT法で振り返る習慣をつけてみましょう。

エンジョイメント

「エンジョイメント」とは、仕事のなかから、楽しさややりがいを見つける力のことです。「仕事が楽しい」「やりがいのある仕事だ」と感じられるようになると、ストレッチな仕事にも積極的に挑戦するようになります。

しかし、「仕事はお金を得るための手段」であると考えている人や、「自分は何のために仕事をしているのだろう」と迷いながら働いている人もいるでしょう。育成対象者が自分の仕事をポジティブに捉えられるよう、面談などで、上司や先輩社員から、「仕事の捉え方」を伝えてみるのもよいのではないでしょうか。上司や先輩社員が自身の仕事をどのように捉えているかを伝えることで、気づきが得られ、仕事の意味や楽しめるポイントを見つけられることもあります。

経験学習モデル活用の具体例

では、経験学習は、人材育成にどのように取り入れることができるのでしょうか。ここからは、活用の具体例を紹介します。

研修

現場での経験と集合研修を組み合わせて、経験から学ぶ研修プログラムを提供するという方法です学んでほしいことに関連した業務や活動を経験したうえで研修を受けてもらい、研修の中で関連する理論等を提供し、リフレクションや概念化を行う時間を設けます。研修という、普段の職場から離れて振り返りを行うことで、客観的に今の自分自身を把握してもらうことができるでしょう。

OJT

OJTとは、上司や先輩社員が、実務を通して仕事に必要な知識やスキル、ノウハウを、育成対象者に教えることをいいますOJTは「On the Job Training」の略称で、日本語では「職場内訓練」とも呼ばれます。

OJTは、基本的には、Show(やってみせる)→Tell(説明する)→Do(やらせてみる)→Check(評価・追加指導)の4ステップで進めていきます。この流れのなかに経験学習モデルを組み込み、リフレクションや概念化を促すことで、高い学習効果が期待できるでしょう。

OJTに経験学習を取り入れる場合、OJTの担当者には、経験学習について理解を深めてもらうだけでなく、リフレクションを促すコミュニケーションスキルなども身につけてもらう必要があります。あらかじめOJT担当者を対象とした研修や教育を行い、必要な知識やスキルを習得してもらってから、OJTを実施しましょう。

なお、OJTとはどのようなものか、メリット・デメリットなどについては、以下の記事でも解説しています。

OJTとは?Off-JTとの違いやメリット・デメリット、効果を高めるポイントを紹介

1on1

1on1とは、上司と部下、リーダーとメンバー個人というような組み合わせで行われる、11の面談のことをいいます。実施する頻度や1回あたりの時間は企業によって異なりますが、1週間~1ヵ月に1回、30分~1時間程度の時間を設けているケースが多いようです。一般的な面談とは違い、双方向のコミュニケーションにより育成対象者の成長を促します

この1on1のなかで、リフレクションに対してフィードバックを与えると、育成対象者は経験学習のサイクルをより効果的に回せるようになります。フィードバックを与えるときは、あいまいな表現を使わず、事実に基づいた具体的な内容にすることが重要です。たとえば、「最近調子がいいですね。その調子で頼みますよ。」ではなく、具体的にどのような成果を評価しているのかを伝え、より成長するにはどのようなアプローチが必要かを問いかけます。

ミスや課題を指摘するときも、遠回しな表現を使わずに率直に伝え、問いかけにより相手から改善策を引き出しましょう。育成対象者が自ら概念化することが重要なので、上司やリーダーは基本的に「正解」は伝えず、聞き手に回って、教訓を導き出すサポートをします

ジョブローテーション

ジョブローテーションとは、社員の成長を促すために戦略的に部署異動を行うことをいいます。実施期間は企業によって異なり、目的によっても変わってきます。たとえば、新入社員に企業全体を把握してもらったり、自分の適性を見つけてもらったりするために実施する場合は36ヵ月程度、将来の経営幹部候補にマネジメントスキルを身につけてもらうために実施する場合は、35年程度行われる場合もあります。

仕事を経験することで、経験学習のチャンスが増えるだけでなく、多角的な視点でものごとを捉えられるようになります

経験学習の効果を高めるポイント

経験学習の効果を高めるためにポイントとなるのが、心理的安全性です心理的安全性とは、周りの反応を気にすることなく、自分の思うことを言ったり、行動できたりする状況のことをいいます

心理的安全性が低い職場だと、社員は「どうせ自分の意見なんて聞いてもらえない」「嘲笑されたら嫌だなあ」などと感じ、せっかくOJT1on1を実施しても、主張を控えるようになります。また、失敗を責められるのが怖くて、ストレッチな仕事にも積極的にチャレンジしようとしなくなるでしょう。

このように、心理安全性が低い職場では、経験学習が機能しにくいため、上司やリーダーには、心理的安全性を高める取り組みが求められます。具体的には、発言しやすい空気をつくるために上司やリーダーのほうから積極的にコミュニケーションをとる、上司やリーダー自身も間違えたり失敗したりすることがあることを伝えて、失敗できる(チャレンジしやすい)環境をつくるなどです。

心理的安全性については以下の記事で詳しく解説しています。

心理的安全性とは?作り方・高め方、計測方法、ぬるま湯組織との違いを解説

経験学習を取り入れた企業事例

最後に、人材育成に経験学習を取り入れた事例として、ヤフー株式会社の取り組みを紹介します。(※202310月に、合併により、ヤフー株式会社はLINEヤフー株式会社となりました。記載の内容は、20239月時点の情報です。)

ヤフー株式会社は、経験学習モデルとPDCAサイクルを合わせたような、独自の経験学習サイクルを回しています。社員一人ひとりがサイクルを回せるよう、さまざまな制度が用意されています。以下は、その一例です。

  • 1on1
    週に1回、上長と部下による11を行い、部下の内省を支援しています。
  • ななめ会議
    部下や関連メンバーが、役職者を評価するための会議です。
  • 人材開発会議
    社員が自ら作成する「人材開発カルテ」を基に、直属の上司と関連部署の役職者が、一人ひとりに合った中長期的な育成方針を話し合う会議です。

参考:人財育成・支援制度- 採用情報 – ヤフー株式会社

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まとめ

経験学習に決まった定義はありませんが、ジョン・デューイの考え方を基にまとめられた、デービッド・コルブの経験学習モデルが最も広く知られています。この理論を参考に、人材育成のなかに経験学習を取り入れてみてはいかがでしょうか。

そして、経験学習のプロセスのなかで特に重要なのが、「リフレクション」です。さらに、人材育成に活用する場合には、「ストレッチ」と「エンジョイメント」も意識すると、経験学習のサイクルをスムーズに回せるようになり、高い学習効果が期待できるでしょう。

参考:経験学習の理論的系譜と研究動向(中原淳)独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)(PDF

 

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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