適応課題とは?意味、技術的問題との違い、4つのタイプを紹介

  • 組織・人材開発

ビジネスシーンでは、日々さまざまな問題が起こっています。あらゆる問題のなかでも、解決するのが難しいといわれているのが、「適応課題」と呼ばれる問題です。

本記事では、適応課題とは何か、技術的問題との違い、適応課題の4つのタイプを解説します。そして、問題を解決するために必要なアプローチと、適応課題を解決するためにマネジャーに求められることも紹介します。

 

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適応課題とは?技術的問題との違い

ハーバード・ケネディ・スクールのロナルド・A・ハイフェッツ氏は、世のなかで起こるさまざまな問題には、技術的問題(テクニカル・プロブレム)と適応課題(アダプティブ・チャレンジ)の2種類があると主張しています。

技術的問題とは、既存の知識やノウハウで解決可能な問題のことです。適応課題とは、それらを使って解決できない問題のことをいいます。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

技術的問題

技術的問題とは、これまでの経験、持っている知識や技術、ノウハウを使うことで解決できる問題のことをいいます。たとえば、次のような問題は技術的問題といえるでしょう

  • 機械が故障した → 解決策:修理する
  • Web会議ツールを使いこなせない従業員がいる → 解決策:マニュアルを作る

このような問題は、知識やスキルの量や質を高めることで、対処できることも増えていきます。今はスキルが足りなくてできないことがあったとしても、それを学び、習得すれば解決できるようになります。

また、問題を解決するために高い専門知識やスキルが必要であれば、外部の専門家に解決してもらうことができるというのも、技術的問題の特徴です。

適応課題

適応課題とは、既存の方法では解決できないような難しい問題のことです。適応課題は、当事者がその状況に「適応」することでしか解決できません。たとえば、次のような問題が挙げられます。

  • 求人を出しているが、古い体質の企業であるためか若い世代の選考辞退率が高い。
  • 業務効率化のためにある部署にITツールの導入を提案しているが、どれだけ説明しても何らかの理由をつけて断られる。

上の例の場合、選考のやり方やコミュニケーションのとり方を工夫して人材を採用できたとしても、選考辞退率が高い原因が「企業の体質が古いこと」であるなら、入社後にギャップを感じて早期に離職されてしまう可能性が高いでしょう。これでは、何も問題は解決できていません。下の例の場合は、ITツールを導入することで、何か不都合が生じる恐れがあるために断り続けている可能性が考えられます。

また、新型コロナウイルス感染拡大も、まさに適応課題だったといえるでしょう。オフィスに出社できなくなったためテレワークを導入した、対面で営業をするのが難しくなったためインサイドセールスを始めたという企業も多いのではないでしょうか。これらを実現するには、これまでの「当たり前」を手放して、考え方や習慣を変える必要があったはずです。

このように、どうすれば状況に適応できるかを考え、当事者自身が変わることでしか解決できない問題を、適応課題といいます。人が問題の一部であるというのも、適応課題の特徴といえるでしょう。

 

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適応課題の4つのタイプ

適応課題には、ギャップ型、対立型、抑圧型、回避型という4つのタイプがあるとされています。

ギャップ型

ギャップ型とは、大切にする価値観と、実際の行動との間にギャップが生じているケースです

たとえば、企業として「残業はパフォーマンスが落ちるのでよくないもの」と考えているのにもかかわらず、業務量が多く、社員から目立った不満も出ていないので、なかなか体制を変えられないといったケースが、このタイプに当てはまるでしょう。

対立型

対立型とは、お互いの役割が違うために対立してしまうケースです

たとえば、受注競争に勝つために価格を下げてほしい営業部門と、できるだけコストを抑えたい生産部門とが対立してしまうといったケースが、このタイプに当てはまります。

抑圧型

抑圧型とは、言いにくいことを言わないために問題となっているケースです

たとえば、部下に注意したいところがあるが、ハラスメントになるかもしれないと思って言えないというケースが、このタイプに当てはまります。

回避型

回避型とは、本質的な問題の解決に取り組むのを避けて、逃げたり、別の行動をとったりしてしまうケースです

たとえば、社員がメンタルヘルス不調になったとします。本質的な問題を解決するためには、職場環境や人間関係、業務量の改善などに取り組むべきと考えられますが、それらを後回しにしてストレス耐性強化に取り組む、というようなケースが、このタイプに当てはまるでしょう。

問題を解決するには両方からのアプローチが必要

ロナルド・A・ハイフェッツ氏によると、ほとんどの問題は、技術的問題と適応課題の2つの要素が混ざった状態で現れるとされています。そのため、何らかの問題が発生したら、両方から解決のアプローチを考える必要があるのです。

たとえば、Web会議ツールを使ったオンライン会議を導入したものの、社員から「オンライン会議はやりづらい」という声が出ているとします。この時、技術的問題として考えられるのは、インターネット環境が不安定、パソコンのスペックが低い、Web会議ツールを使いこなせないなどです。これらは、ネットワーク機器やパソコンを新しいものにしたり、Web会議ツールの使い方マニュアルを作成したりすることで、解決できるでしょう。

そして、適応課題として考えられるのは、たとえばカメラやマイクをオフにしているメンバーがいて、反応がわかりづらい、コミュニケーションをとりにくいと感じているようなケースです。リーダーとしては「オンにしてほしい」と思っているものの言い出せないという、抑圧型に当てはまるでしょう。

適応課題を解決するには、当事者同士で対話をして、学習し、考え方や行動を変えて、状況に適応していくしかありません。この例の場合は、リーダーとメンバーで話し合い、カメラやマイクをオフにしていることをお互いにどう感じているのか、そもそも何が問題で、誰がどのように変わる必要があるのかを、本人たちが学ぶ必要があります。

問題解決のよくある失敗

問題解決で失敗してしまう原因としてありがちなのが、適応課題なのに技術的問題として捉えてしまい、技術やノウハウで解決しようとしてしまうケースです。人は、何か問題が発生すると、つい既存の方法で解決しようとしてしまいます。ロナルド・A・ハイフェッツ氏は、人は難しい問題に直面すると、権限を持つ人が素早く解決してくれることを期待してしまうとも述べています。

また、適応課題は解決するのが難しく、心理的に負担がかかるものでもあります。当事者に状況に適応してもらうためには、今まで大切にしてきた信念や価値観、「当たり前」だと思っていたことや、習慣の一部を手放してもらう必要があります。これは、簡単なことではありません。場合によっては、大きな苦痛を感じたり、苦悩したりすることもあるでしょう。リーダーは、適応課題の解決に取り組む際は、メンバーの苦痛のレベルも調整しながら、変化を促していかなければなりません。

適応課題解決のためにリーダー・マネジャーに求められるもの

組織やチームのなかで発生した問題を速やかに解決することも、リーダーやマネジャーの役割の1つです。では、職場で適応課題が発生したら、リーダーやマネジャーは何をすればいいのでしょうか。

まずは、起こっている問題が技術的問題なのか適応課題なのかを、正しく見極めなければなりません。そのため、リーダーやマネジャーには、この2つの問題を見極める力が求められます。今何が起こっているのかを正しく把握するために、全体像を見極める視点を持ちましょう。書籍『最難関のリーダーシップ ― 変革をやり遂げる意志とスキル』では、この全体像を見極める視点を、「バルコニーに上がる」と喩えています。バルコニーという高い場所から、ダンスフロア(組織)全体を見渡すというイメージです。ただ、リーダーやマネジャーは、ずっとバルコニーに上がりっぱなしでいいというわけでもありません。ダンスフロアにも降りて、メンバー一人ひとりの状況を正しく把握することも求められます。

また、適応課題を解決するには、職場の全体像を把握するだけでなく、自分自身を客観的に見ることも欠かせません。なぜなら、リーダーやマネジャー自身も、組織のシステムだからです。自分自身にも目を向け、自分の役割を理解することも重要とされています。

そして、ロナルド・A・ハイフェッツ氏は、技術的問題への対処はマネジャーが判断すべきだが、適応課題はすぐに判断しないほうがよいとも述べています。状況を正しく把握し、起きている問題が適応課題であることが分かったなら、誰にどのような変化が求められるのかを考え、丁寧に対話を重ねていくことが大切です。

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以下では、講義・アクティビティ一体型の研修テーマの例を紹介します。

1.クリティカルシンキング研修

クリティカルシンキング研修のアクティビティ「混乱する捜査会議からの脱出」では、推理ゲームで論理的に情報を整理するなかで証拠の違和感に気づき、仮説立てや検証を行って目標を達成します

学びのポイント

  • 証拠品や証言など多くの情報を手分けして読み、組み合わせて論理的に結論を導き出す
  • フェーズが進むごとに情報が増え、複雑になっていくなかで必要な情報を取捨選択する
  • 出た結論に満足せず、常に新しい情報と照らし合わせて再検証する

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2.合意形成・アサーティブコミュニケーション研修

合意形成・アサーティブコミュニケーション研修のアクティビティ「コンセンサスゲーム」では、危機的な状況下でどの物資を優先して確保すべきかをチーム内で議論し、最適な結論を導きます

学びのポイント

  • 各々が個人ワークで考えた答えを聞くことで、チームメンバーの状況に対する認識や物資の重み付けの違いを受講者が理解する
  • 話し手は自分の答えにいたった理由を論理的・説得的に説明する
  • より良い根拠を導き出すための比較検討をして、チーム全員が納得する結論を出す

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3.OODA LOOP研修

OODA LOOP研修では、瞬間的な判断力が求められる運動系のアクティビティである「サバイバルゲーム」または「チャンバラ合戦」を実施することで、意思決定のフレームワークである「OODA LOOP」を実践的に習得することを目指します

学びのポイント

  • 敵チームをよく観察して作戦を練り、状況に応じた行動を素早く判断しながら、チームで共有して一体となって行動する
  • ミッションの勝利条件をもとに、観察、判断、行動を繰り返すことで、本当にすべき行動が何なのか、行動の最適化を行う

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4.ロジカルシンキング研修

ロジカルシンキング研修のアクティビティ「リアル探偵チームビルティング」では、チームに配られた断片的な情報を取捨選択し、論理パズルを完成させ、全問正解を目指します

学びのポイント

  • 小グループで得られた情報を論理的に整理し、確定情報・曖昧情報・不要な情報を選り分ける
  • 大グループで全体に必要な情報を論理的に判断・共有することや、自分たちに足りない情報を聞き出すことが求められる。

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まとめ

ビジネスで起こる問題には、技術的問題と適応課題の2種類があります。あらゆる問題は、この2つの要素が混ざった状態で現れることがほとんどです。そのため、問題を解決するには両方からのアプローチが必要になります。正しい対処をするために、リーダーやマネジャーには、高いところに立って、全体像を見極める視点が求められます。また、リーダーやマネジャー自身もその組織のシステムなので、自分自身を客観的に見ることも意識しましょう。

適応課題は、当事者が状況に「適応」することでしか解決できません。これは簡単なことではなく、時間もかかるものです。さらに、苦痛を伴うものでもあります。リーダーやマネジャーは、丁寧に対話を重ねて、メンバーの適応をサポートしていくことが大切です。

 

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アクティビティが受講者の主体性を高めてコミュニケーションを促進させ、スキルアップやチームビルディングをはかれます。
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参考:『最難関のリーダーシップ ― 変革をやり遂げる意志とスキル』(著者:ロナルド・A・ハイフェッツ、マーティ・リンスキー、アレクサンダー・グラショウ、水上雅人〔訳〕/ 出版社:英治出版株式会社 / 発売:2017年)

参考:『「組織開発」を推進し、成果を上げる マネジャーによる職場づくり 理論と実践』(著者:中村和彦 / 出版社:日本能率協会マネジメントセンター / 発売:2021年)

この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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