チェンジマネジメントとは?代表的なモデル・フレームワークを紹介

  • ビジネススキル

欧米で普及した、「チェンジマネジメント」という組織変革を成功させるためのマネジメント手法が、近年日本においても注目されるようになってきています。

本記事では、まずチェンジマネジメントとはどのような手法なのか、注目されている理由を解説します。そして、チェンジマネジメントを阻害する要因、チェンジマネジメントの3つのレベル、チェンジマネジメントのモデル・フレームワークと、成功事例を紹介します。

 

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チェンジマネジメントとは

近年注目度が高まっているチェンジマネジメントとは、変革を成功させるためのマネジメント手法のことです。変革とは、何かを改めて新しいものに変えることを意味します。競争力を高めていくために、日本の企業には変革が求められるようになっています。しかし、ただ新しいシステムやプロセスなどを導入するだけでは、これを実現することはできません。変革を成功させるためには、変革にかかわる人に行動を変えてもらう必要があります。チェンジマネジメントとは、人が変化に適応できるようにサポートすることも含めて、変革を実現させようとすることをいいます。

たとえば、企業が業務効率化やコスト削減のために、何かを変化させたとします。その変化は、企業にとっては良いものですが、従業員にとっては歓迎できるものではないこともあります。従業員は、変化に対応するために、新しい環境ややり方に慣れていかなければなりません。また、その変化により、長年培ってきたスキルやノウハウが活かせないこともあるでしょう。そのため、むしろ抵抗感を持つ人のほうが多いのではないでしょうか。この抵抗感をできるだけ少なくして、変革を成功させようとするのが、チェンジマネジメントです。

チェンジマネジメントは、欧米で生まれたマネジメント手法です。1990年代に、欧米企業の間でBPR(※)が流行しました。チェンジマネジメントは、この流れのなかで広まっていったといわれています。日本ではまだ普及しているとはいえない状況ですが、欧米では多くの企業がチェンジマネジメントを実践しています。チェンジマネジメントに関連する書籍も多数あり、リーダーに必須の知識としてビジネススクールでも教えられているようです。

(※)BPRとは……ビジネスプロセス・リエンジニアリング(Business Process Reengineering)の略称。組織の構造や制度、業務フローなどを抜本的に見直して再構築すること。

チェンジマネジメントが注目されている理由

近年、日本においてもチェンジマネジメントが注目されるようになってきたのは、ビジネス環境が目まぐるしく変化するなかで、日本の国際競争力が低下しているからではないでしょうか。

国際経営開発研究所(IMD)は、毎年「世界競争力ランキング」を発表しています。この2023年版を見ると、日本は64カ国中35位。かつては日本が1位だった時代もありましたが、ここ30年ほどは低迷し続けており、今回ワースト記録を更新してしまいました。

参考:【RIETI×IMD ウェビナー対談】「世界競争力ランキング」から見る日本の課題と可能性 – IMD News

これまでの日本企業は、改善は得意としてきました。改善とは、現状をベースとして悪いところを見直し、良いところはより良くしていこうとすることをいいます。もちろん改善も大切ですが、改善だけではグローバル企業と戦うことは難しいため、変革が強く求められるようになっています。

さらに、現代はVUCA時代と呼ばれるほど将来を予測するのが難しい時代となっており、価値観や働き方も多様化しています。これらに企業が対応するためにも、変革は必要です。そのため、チェンジマネジメントの注目度が高まっていると考えられます。

 

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チェンジマネジメントを阻害する要因

日本では、まだあまりチェンジマネジメントが普及していないというのが現状です。日本の企業は、世界に比べると保守的だといわれています。そのため、変化に対する抵抗感も強く、変革がうまくいかないのではという意見もあるようです。

株式会社ボストンコンサルティンググループは、日本企業のなかにある変革の障害となるものを「チェンジモンスター」と名付けています。人の変化に対する抵抗感、恐れ、反発などのさまざまな感情を、ユニークなモンスターで表しています。

参考:チェンジモンスター|Boston Consulting Group(PDF)

また、書籍『実践チェンジマネジメント 変革プログラムを成功に導き、変化に俊敏な組織をつくる』では、変化を起こす際にぶつかる3つの壁が紹介されています。

  • 認知ギャップ……情報または知識が足りないため変革の必要性を理解できない。
  • 行動ギャップ……変革の必要性は理解できるが、行動に移す意欲がない。
  • スキルギャップ……変革のために行動しているが、スキルがないため成果につながらない。

参考:『実践チェンジマネジメント 変革プログラムを成功に導き、変化に俊敏な組織をつくる』(著者:芝尾芳昭、小野弘貴、香川隆、高村智、清水雅也 / 出版社:日本能率協会マネジメントセンター / 発売:2023年)

変革は、簡単なものではありません。チェンジマネジメントがうまくいかないときは、変革を阻害している要因が何なのかをしっかり見極めて、対処していく必要があります。

チェンジマネジメントの3つのレベル

チェンジマネジメントは、実施する規模によって以下の3つのレベルに分けられます。

個人レベル

個人レベルのチェンジマネジメントは、個人に対して変化を促していきます。企業であれば、従業員一人ひとりに対してアプローチしていきます。具体的には、変革の必要性を説明する、変革に関する情報を提供する、必要な教育を実施するなどです。変化を受け入れ、実践できるようになってもらうためには、個人に合わせたサポートが必要になります。一人ひとりに対してどのようなサポートが必要かを考え、アプローチしていきましょう。

プロジェクトレベル

プロジェクトレベルのチェンジマネジメントは、特定のプロジェクトにおける変革を推進していきます。どのプロジェクトに変革が必要なのかを明確にして、誰がどのように変化すれば変革が成功するのかを、メンバーが気付けるように働きかけていきます。プロジェクトレベルのチェンジマネジメントは、組織全体にも良い影響を与えるといわれています。

組織レベル

組織レベルのチェンジマネジメントは、組織全体を変化させることを目指すものです。文化、構造、システムなどを変化させて、競争力の強化を図ります。組織レベルのチェンジマネジメントを成功させるためには、個人レベル・プロジェクトレベルのチェンジマネジメントで、しっかりとベースを作っておく必要があります。

チェンジマネジメントのモデル・フレームワーク

チェンジマネジメントにはさまざまなモデルやフレームワークがあります。そのなかから、代表的なものを3つ紹介します。

コッターの8段階変革モデル

ハーバード大学ビジネススクール名誉教授のジョン・P・コッター氏は、リーダーが変革を成功させるためのプロセスを、8段階で示しています。これが、コッターの「8段階変革モデル」や「変革の8段階プロセス」などと呼ばれるものです。ジョン・P・コッター氏が示す8つのプロセスに沿って、チェンジマネジメントの進め方を見ていきましょう。

1.危機意識を高める

変革にかかわる人が「変わらなければいけない」という危機意識を持たなければ、変革を成功させることは難しいでしょう。現状を分析して、まずは経営幹部が危機意識を持つことが大切です。そして、従業員にも自社が現在置かれている状況と、「なぜ変革が必要なのか」を伝え、「自分も当事者である」という意識を持ってもらいましょう。

2.変革推進のためのチームを作る

次に、変革を推進していくチームを作ります。この際は、以下のような点を意識してメンバーを集めるとよいとされています。

【メンバー選出のポイント】

  • 権限を持っている人材
  • 高い専門知識を持っている人材
  • 組織から信頼されている人材
  • リーダーシップを発揮できる人材

なお、これらすべてを満たす人材でなければならないというわけではありません。もちろん、一人ですべてを満たせる人材がいれば理想的かもしれませんが、各自が持つ能力を集めて、これらを満たせるようなメンバーを選ぶとよいでしょう。

3.ビジョンと戦略を策定する

変革推進のためのチームを作ったら、次は、組織としてどこを目指すのか(ビジョン)、そしてそれをどのように実現するのかを決めていきます。

ビジョン策定する際は、以下の6つのポイントを満たすことを意識してみてください。

  • 将来の姿がはっきりイメージできる形で示されている。
  • 現実的に実現することが可能である。
  • 従業員もそれが実現されることを望んでいる。
  • 進むべき方向性が明確に示されている。
  • 激しい変化にも対応できる柔軟性がある。
  • 短い時間で説明することができる。

変革は、組織の全員で進めていくものなので、明確でわかりやすいビジョンとすることが重要です。

4.変革のためのビジョンを周知する

ビジョンと戦略を策定できたら、それらを周知徹底します。たった一回限りの説明や、文書を共有するだけでは、組織のなかに浸透させることは難しいでしょう。あらゆるコミュニケーション手段を使って、伝え続けていくことが大切です。

これと同時に、変革推進チームのメンバーには、従業員のモデルとなって、期待する行動を積極的に実践していくことも求められます。

5.従業員の自発的な行動を促す

先ほどお伝えしたように、組織のなかには、変革を阻害するさまざまな要因が潜んでいます。従業員がビジョン実現に向けた行動をしやすいように、変革を阻害するものを取り除いていきましょう。

たとえば、組織構造やシステム、制度に問題があるなら、それらを変える必要があります。従業員の自発的な行動を促すために、ビジョンに向けた行動を評価する制度を導入するというのも一つの方法です。

このとき、変革推進チームにある程度の権限を持ったメンバーがいないと、問題解決や制度の導入に時間がかかってしまい、変革が遅れてしまう可能性があります。そのため、変革推進チームには必ずある程度の権限を持ったメンバーを入れておくことが重要です。

6.短期的な成果を実現する

変革は、年単位の時間がかかるものです。しかし、なかなか成果が得られない、ビジョンに近づいていることが感じられないといった状況が続くと、従業員のモチベーションも下がってしまいます。そのため、短期的な目標設定をして、達成を積み上げていくことでビジョンの実現を目指すというやり方が効果的とされています。短期的な目標を設定することで、目標を達成するたびに、従業員は小さな達成感やメリットを感じることができます。また、目標達成に貢献した人を表彰したり、報酬を与えたりして評価すれば、さらなるモチベーションアップにもつながるでしょう

7.成果を活かし、さらなる変革を進める

短期的な成果が得られるようになったら、それを力にして、変革に勢いをつけていきましょう。たとえば、ビジョンになじまない構造やシステム、制度があれば変革する、ビジョンを実現するために必要な新たな人材を採用するなどが考えられます。

また、チェンジマネジメントに取り組むなかで、新たに見つかった課題や問題があれば、改善・修正を加えていきましょう。

8.新たな方法を企業文化として定着させる

最後に、ビジョンの実現に向けて取り組んできたことと、得られた成果の関係を明らかにして従業員に示し、変革を新たな企業文化として定着させていきます。これを行うためには、次世代リーダーや後継者の育成も欠かせません。

以上が、ジョン・P・コッター氏による組織変革のプロセスです。この8つのプロセスを、1から順番に飛ばすことなく進めていくことが重要とされています。

レヴィンの3段階組織変革モデル

レヴィンの3段階組織変革モデルは、「社会心理学者の父」とも呼ばれるドイツ生まれの心理学者、クルト・レヴィン氏が提唱した組織変革のモデルです。このモデルでは、組織変革のプロセスを以下の3段階に分けています。

  1. 解凍……メンバーに変革の必要性を理解してもらう段階です。メンバーの不安や抵抗感を和らげ、新しいことを受け入れられるよう準備を整えます。
  2. 変革……実際にやり方や考え方を変えていく段階です。時間をかけて、メンバーには新しい形に慣れてもらいます。
  3. 再凍結……新しいやり方や考え方を定着させる段階です。

レヴィンの3段階組織変革モデルは、非常にシンプルに定義されたモデルであるため、さまざまなシーンで広く活用されています。

ADKAR ®モデル

ADKAR ®モデルは、アメリカのProsci社のジェフリー・ハイアット氏が書籍『ADKAR: A Model for Change in Business, Government and Community』のなかで紹介した組織変革モデルです。このモデルでは、組織変革のプロセスを以下の5段階に分けています。

  1. Aware(認識)……メンバーに変革が必要な理由や進むべき方向性を説明し、変革の必要性を理解してもらう段階です。
  2. Desire(願望)……メンバーが自ら変革を実践したいと思える状態になることを目指す段階です。
  3. Knowledge(知識)……メンバーに変革を実践するために必要な知識を習得してもらう段階です。
  4. Ability(能力)……メンバーに、習得した知識を活用して変革を実践してもらう段階です。
  5. Reinforce(定着)……変革を実践しているメンバーを認め、さらに後押しする段階です。

こちらも、比較的シンプルな組織変革のモデルといえるでしょう。

チェンジマネジメントの成功事例

最後に、チェンジマネジメントの事例を一つ紹介します。チェンジマネジメントの成功事例として紹介されることが多いのが、日産自動車株式会社の「日産リバイバルプラン」です。

1999年に、フランスの自動車メーカー「ルノー」から日産自動車株式会社へ、カルロス・ゴーン氏が送り込まれます。カルロス・ゴーン氏は、業績を回復するために「日産リバイバルプラン」を打ち出し、これを推進する部署横断的なチームを作りました。そして、工場の閉鎖やリストラ、商品ラインナップの見直し、販売コスト削減などを実行します。その結果、日産自動車株式会社は当時2兆円以上の有利子負債を抱えていましたが、これを約2年で完済することができました。

カルロス・ゴーン氏は社内外に向けて、「なぜ企業が変わらなければいけないのか」「どのように変わるのか」というメッセージを、さまざまな機会に発信していたそうです。これにより従業員の意識改革も進み、大きな成果を得ることができたのではないでしょうか。

参考:チェンジ・マネジメント | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

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以下では、講義・アクティビティ一体型の研修テーマの例を紹介します。

1.クリティカルシンキング研修

クリティカルシンキング研修のアクティビティ「混乱する捜査会議からの脱出」では、推理ゲームで論理的に情報を整理するなかで証拠の違和感に気づき、仮説立てや検証を行って目標を達成します

学びのポイント

  • 証拠品や証言など多くの情報を手分けして読み、組み合わせて論理的に結論を導き出す
  • フェーズが進むごとに情報が増え、複雑になっていくなかで必要な情報を取捨選択する
  • 出た結論に満足せず、常に新しい情報と照らし合わせて再検証する

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2.合意形成・アサーティブコミュニケーション研修

合意形成・アサーティブコミュニケーション研修のアクティビティ「コンセンサスゲーム」では、危機的な状況下でどの物資を優先して確保すべきかをチーム内で議論し、最適な結論を導きます

学びのポイント

  • 各々が個人ワークで考えた答えを聞くことで、チームメンバーの状況に対する認識や物資の重み付けの違いを受講者が理解する
  • 話し手は自分の答えにいたった理由を論理的・説得的に説明する
  • より良い根拠を導き出すための比較検討をして、チーム全員が納得する結論を出す

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3.OODA LOOP研修

OODA LOOP研修では、瞬間的な判断力が求められる運動系のアクティビティである「サバイバルゲーム」または「チャンバラ合戦」を実施することで、意思決定のフレームワークである「OODA LOOP」を実践的に習得することを目指します

学びのポイント

  • 敵チームをよく観察して作戦を練り、状況に応じた行動を素早く判断しながら、チームで共有して一体となって行動する
  • ミッションの勝利条件をもとに、観察、判断、行動を繰り返すことで、本当にすべき行動が何なのか、行動の最適化を行う

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4.ロジカルシンキング研修

ロジカルシンキング研修のアクティビティ「リアル探偵チームビルティング」では、チームに配られた断片的な情報を取捨選択し、論理パズルを完成させ、全問正解を目指します

学びのポイント

  • 小グループで得られた情報を論理的に整理し、確定情報・曖昧情報・不要な情報を選り分ける
  • 大グループで全体に必要な情報を論理的に判断・共有することや、自分たちに足りない情報を聞き出すことが求められる。

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まとめ

日本は、ここ30年ほど国際競争力が低迷しています。変革を起こさなければ、グローバル企業と戦っていくのは難しく、また、目まぐるしい環境の変化にもついていけなくなる可能性があります。変革を成功させるためには、変革にかかわる人へのサポートが非常に重要です。企業の競争力を高めるために、チェンジマネジメントにより変革を推進していきましょう。

 

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アクティビティが受講者の主体性を高めてコミュニケーションを促進させ、スキルアップやチームビルディングをはかれます。
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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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