デザイン思考のフレームワーク「ダブルダイヤモンド」の内容・活用法を解説

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社会の多様化が進むなかでユーザーのニーズや選択肢が増加しており、既存のビジネス手法ではニーズに応えることが難しくなっています。競争が激化している社会において、従来通りの「良いサービスや良い製品」の開発・提供だけでは、ユーザーから選ばれる企業になることは非常に困難であるといえるでしょう。

このような、現代社会の企業が抱える、課題を解決するための考え方として注目を浴びているものが「デザイン思考」と呼ばれる手法です。デザイン思考では、ユーザーに寄り添った思考を取り入れることで、潜在的ニーズを見つけ出し、顧客満足度を向上させることができます。

本記事では、デザイン思考の代表的なフレームワークの1つである「ダブルダイヤモンド」の、概要や活用方法、事例について解説します

 

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ダブルダイヤモンドとは?

「ダブルダイヤモンド」とは、2005年に英国デザイン協議会によって生み出された、デザイン思考に基づくフレームワークです。ダブルダイヤモンドは、「優秀なデザイナーは、最初から問題の解決に取り組むのではなく、発生した問題に対して、まずは疑問を投げかけることで問題の本質を模索する」といった、デザイナーの思考をベースとして作り出されました。本来は、産業デザインに活用するため開発されたフレームワークですが、シンプルなプロセスデザインで、さまざまな課題解決に適応できるため、現在ではあらゆる分野で活用されています

ダブルダイヤモンドは、「正しい課題を見つけるダイヤモンド」と「正しい解決策を見つけるダイヤモンド」の2つの工程から構成されており、それぞれのダイヤモンドにおいて、発散と収束を繰り返すことで、問題解決へと導くといった手法が特徴です。課題に対して、発散的思考を用いることで選択肢を増やし、収束的思考によって、問題の解決策を導き出します。

参考:デザイン思考と社会科歴史授業の学習構造に関する一考察(PDF)

出典:行政機関におけるサービスデザインの利活用と優良事例(PDF)

ダブルダイヤモンドを用いるメリット

ダブルダイヤモンドに基づく思考を活用するうえでのメリットの1つとして、問題の本質を見極められるといったポイントがあげられます。人々が問題に直面した際は、右側のダイヤモンドである「解決策」をすぐに見つけ出そうといった思考になる傾向があります。しかし、ダブルダイヤモンドでは、まずは左側のダイヤモンドである「課題の発見」に取り組むため、問題の本質を正しく掴み取ることができるのです。

ダブルダイヤモンドの基となるデザイン思考とは

デザイン思考とは、「人の言動や感情を理解することで、人々の言動や感情をより良くするための製品やサービスを創造し、人々の問題を解決する」ことを目的としているフレームワークです。優れたデザイナーは、使い手の気持ちに寄り添うことで、使用者本人が気づいていない問題を発見し、それらを解決するためのデザインを行います。このような、優秀なデザイナーの思考を、デザイナーでない人がうまく活用するため、「デザイン思考」が作り出されました

また、デザイン思考の大きな特徴としては、従来のマーケティングとは異なり、「製品やサービス自体には焦点を当てない」といった点があげられます。つまり、製品やサービスが生み出すメリットから使用者を選ぶのではなく、使用者の思いに共感し、抱えている問題を解決するための製品やサービスを創るといったアプローチ方法が「デザイン思考」であるといえるでしょう

参考:デザイン思考と人間中心思考―イノベーションにおける観察,表現,実験を通じた対話(PDF)

 

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ダブルダイヤモンドを活用するための4ステップ

ダブルダイヤモンドを活用するためには、それぞれのダイヤモンドに存在する、「4つのステップ」を正しく理解しておく必要があります。ここでは、各ステップにおける具体的な思考方法を見ていきましょう。

1.   課題を発見する(Discover

ダブルダイヤモンドにおける第1のステップは、「課題を発見する(Discover)」ことです。このステップでは、現状の内容や状況を分析・明確化することで、正しい課題を発見し、リストアップを行います。課題をリストアップする際は、今後の選択肢を狭めないためにも、幅広い視点を持ち、より多くの問題点をあげましょう。このステップを踏むうえでの大切な点は、課題に関する根本的な問題を発散的に検討することです。できる限り問題の範囲を広げることで、あらゆる角度から課題を確定するための要因を洗い出すことができます。

2.   課題を確定する(Define

2のステップ「課題を確定する(Define)」は、第1のステップ「課題を発見する(Discover)」で発散したものを、収束させていくフェーズです。第1のステップでは、より多くの課題をリストアップしています。そのため、第2のステップですべての課題を解決する必要はありません。

まずは、重要度や満足度などの基準から、優先度の高い課題を明確にします。次に、その課題を解決するために必要なことや問題、障害などを特定し、取り組むべき正しい課題を確定します。

3.   解決策を検討する(Develop

3のステップは、正しい課題に対して正しい「解決策を検討する(Develop)」フェーズです。第1のステップと同様に今後の選択肢を広げるため、発散のフェーズである第3ステップでは、より多くのアイデアをリストアップしていく必要があります。「どのような方法で課題を解決したいのか」「どういった意思決定をすべきなのか」などのポイントを重視し、検討を繰り返すことで、より多くの解決策のリストアップを行っていきましょう。

4.   解決策を検証する(Deliver

4ステップである「解決策を検証する(Deliver)」は、第3ステップでリストアップしたさまざまなアイデアのなかから、正しい解決策を導き出すための収束フェーズです。解決策自体の「価値の大きさ」や、「解決策が生み出す利益」など、いくつかの視点を用いて正しい解決策を導き出しましょう。また、解決策を絞る際には、デザイン思考の基本である「使用者や顧客の視点から見た価値や利益を基準とする」ことが重要です。4つの段階を踏んだ後は、より効果的な解決策を成果物として得ることができるでしょう。

参考:「ダブルダイヤモンド」と「IoTサービスデザイン」──正しい課題と解決策の発見への近道 | Biz/Zine(ビズジン) (bizzine.jp)

ダブルダイヤモンドの事例

多様化が進む現代社会では、使い手の気持ちに寄り添うデザイン思考を、さまざまな企業が運営に取り入れています。また、一般企業だけでなく、政府も使用者の視点に立った、さまざまな政策を掲げているため、デザイン思考は、今後の社会における1つのキーワードになりつつあるといえるでしょう。ここでは、デザイン思考を取り入れた政府の取り組み事例を、ダブルダイヤモンドの視点から紹介します。

引越しワンストップサービス

引越しを行う際は、さまざまな行政手続きや民間手続きが必要であり、国民にとって大きな負担となっています。また、これらの手続きでは、国民だけでなく、行政や民間サービス提供事業者においても、大きなコストが発生しています。このような課題解決に向けての政府の取り組みが、ワンストップサービスの拡大です。ここでは、ダブルダイヤモンドの4つのステップに当てはめ、政府の課題解決への取り組みを見ていきましょう

1.  課題を発見する(Discover

現在、国内において年間 530 万人以上の引越しが発生しています。引越し時に発生する手続きでは、国民が異なる事業者窓口へ同じ情報を提出し、類似した業務対応を各事業者が行っているため、大きな負担や無駄が発生しているといった課題が見つけ出されました

2.  課題を確定する(Define

政府は、第1ステップで、見つけ出された課題を確定するため、多数のステークホルダーが参加し、意見交換を行うワークショップを開催制度の内容や、どの程度の負荷が発生しているかなどを定量的に示すことで、優先的に解決するべき課題を論理的に導き出しました

3.  解決策を検討する(Develop

3ステップでは、導き出された課題に基づき、国民や事業者の負担を減らすための解決策を、多岐にわたる手続き関係機関や、幅広いステークホルダーとの協議にて検討。その結果、引越し利用者がさまざまな手続きを一括で行えるポータルサービスの構築を民間事業者に委託する手法があげられました。

4.  解決策を検証する(Deliver

ステップ3にて検討した解決策を検証するため、2019年と2020年に実証実験を実施。引越し手続きに関する情報の標準データレイアウト設計と構築を行い、ポータル事業者を経由し、受け手事業者に利用者の情報提供を行いました。実証実験では、現状のシステムや取り組み内容のままでは不十分であり、さらなる利便性の向上が必要であるとの新たな課題が発見されました。また、実証実験によって、ワンストップサービス実施への取り組みには、「相互運用性の確保」や「競争領域の確保」など、さまざまな課題があることが見つけ出され、さらなる改善が行われました。

死亡・相続ワンストップサービス

日本の年間死亡者は年々増加傾向にあり、2000年では96万人であった死亡者数が、2019年には137万人まで増加しています。このような背景から、死亡・相続に関する手続きを行わなければならない国民が増えており、さまざまな負担が発生しています。また、高齢化へ核家族化が進む日本では、夫婦世帯において配偶者が高齢となるケースや、親族がいても物理的に距離が離れているケース、疎遠になっているケースなど、さまざまなケースがあり、死亡・相続に関する手続きの負担は、今後もより増加していくでしょう。これらの問題を解決するため、政府は、死亡・相続に関連する手続きの廃止や省略、重複業務の効率化に努めています。その取り組みの1つが、死亡・相続ワンストップサービスの導入です。ここでは、ダブルダイヤモンドに沿って、政府の取り組み内容を見ていきましょう

1.  課題を発見する(Discover

引越し等のライフイベントと同様に、死亡や相続時の手続きについても、非常に複雑な工程が存在しており、遺族や相続人の大きな負担となっています。また、死亡者数が増加している日本では、今後も手続き等を負担する国民が増えていくため、政策による対応が必要です。

2.  課題を確定する(Define

死亡・相続は、両親や配偶者がなくなった時などに必要になる手続きのため、センシティブな内容であるうえに、一生のうちに何度も経験することではありません。そのため、課題の改善点を遺族に求めることや、フィードバックをして評価を得ることは難しいでしょう

死亡・相続に関する手続きの負担が、解決すべき課題であると推定できますが、本質的なニーズを理解しづらいといった、課題解決への障害を抱えています。そこで政府は、「死亡」「相続」のそれぞれの節目に応じた行動を細分化し、行為や課題を抽出することで、遺族の体験を正しく理解できるよう心がけ、解決すべき課題の確定に努めました

3.  解決策を検討する(Develop

ステップ2での課題の確定によって、「短い期間で複数の類似した書類提出が必要である」といった点が、残された遺族が直面する課題であると導き出されました。この課題の解決策は、複数回発生している情報提出の要望や、慣習で行われているものの必要性が失われている手続きを洗い出し、効率化できるプロセスを作り出すことです。

4.  解決策を検証する(Deliver

死亡や相続に関する手続きには、個別的な課題が存在するため、一概にワンストップサービスを導入し、システム化するだけでは、課題解決を実現できません。今後も、さまざまな個別課題を1つひとつクリアし、遺族の負荷や、行政の抱える非効率性を減らしていく必要があります

 

法務省のホームページ更新における課題とチャレンジ

法務省のホームページは情報集約型のポータルサイトであり、国民に向けた情報提供機能としての「網羅性」「一覧性」「検索性」を重視し、運用されてきました。しかし、2020 年の新型コロナウイルス感染症の流行時に内閣府が特設したホームページは、非常に見やすく、情報収集が容易に行えるデザインであったため、法務省のホームページもより良いものへと刷新する取り組みが行われました。この取り組みにおいても、利用者ファーストであるデザイン思考が取り入れられています。今回の取り組みをダブルダイヤモンドに当てはめた場合、どのような過程になるかを見ていきましょう

1.  課題を発見する(Discover

これまでの法務省Webサイトは、「実直で少々硬さを感じさせる」「真面目なイメージがある」「全体的に情報過多」といった評価を受けており、国民の視点からは少し分かりにくいものでした。また、パソコン向けのサイトデザインであり、スマートフォンからは見づらいといった課題も見受けられました。

2.  課題を確定する(Define

ステップ1で洗い出した課題から「求める情報に確実に速くたどり着ける」「必要な情報を得てもらうためすぐに離脱されず、満足度も高くなる」といったホームページに刷新すべきだという課題の本質にたどり着きました

3.  解決策を検討する(Develop

ステップ2でたどり着いた課題に基づき、法務省独自のチャットボットを導入することで課題解決に取り組みました。しかし、従来のホームページデザインのままでは、ユーザーインターフェースの整合性が取れなくなり、ユーザー体験の観点でも混乱を生む可能性があるといった、課題解決への障害が見つかり、新たな解決策の追加が必要でした。

4.  解決策を検証する(Deliver

最終的な課題解決策として、チャットボットの導入を前提としたホームページとなるよう調整を行うことに加え、グローバルナビゲーションの追加や検索画面の表示の変更など利用者の利便性を高めたホームページにリニューアルしました。また、課題であったスマートフォンから見づらいといった点も、モバイルファーストを意識したデザインに変更することで対応しています。

参考:行政機関におけるサービスデザインの利活用と優良事例(PDF)

【ダブルダイヤモンドの実践もできる体験型研修】あそぶ社員研修

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以下では、講義・アクティビティ一体型の研修テーマの例を紹介します。

1.PDCA研修

PDCA研修のアクティビティ「ロケットPDCAチャレンジ」では、パーツを組み合わせてロケットを制作し打ち上げ結果から原因を考えて、より良く飛ぶロケットに改善していき、目標の達成を目指します。

学びのポイント

  • 計画を立ててロケットを飛ばし、その結果から組み合わせの誤り・部品の不足・不良部品の有無を推察し、それを繰り返すことで組み合わせの精度を上げていく
  • 資金稼ぎ・パーツの選択・打ち上げの準備を繰り返し、作戦タイム振返りを経て行動を改善していくことで、最適化されていく

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2.ロジカルシンキング研修

ロジカルシンキング研修のアクティビティ「リアル探偵チームビルティング」では、チームに配られた断片的な情報を取捨選択し、論理パズルを完成させ、全問正解を目指します。

学びのポイント

  • 小グループで得られた情報を論理的に整理し、確定情報・曖昧情報・不要な情報を選り分ける
  • 大グループで全体に必要な情報を論理的に判断・共有することや、自分たちに足りない情報を聞き出すことが求められる。

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3.クリティカルシンキング研修

クリティカルシンキング研修のアクティビティ「混乱する捜査会議からの脱出」では、推理ゲームで論理的に情報を整理するなかで証拠の違和感に気づき、仮説立てや検証を行って目標を達成します。

学びのポイント

  • 証拠品や証言など多くの情報を手分けして読み、組み合わせて論理的に結論を導き出す
  • フェーズが進むごとに情報が増え、複雑になっていくなかで必要な情報を取捨選択する
  • 出た結論に満足せず、常に新しい情報と照らし合わせて再検証する

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4.合意形成・アサーティブコミュニケーション研修

合意形成・アサーティブコミュニケーション研修のアクティビティ「コンセンサスゲーム」では、危機的な状況下でどの物資を優先して確保すべきかをチーム内で議論し、最適な結論を導きます。

学びのポイント

  • 各々が個人ワークで考えた答えを聞くことで、チームメンバーの状況に対する認識や物資の重み付けの違いを受講者が理解する
  • 話し手は自分の答えにいたった理由を論理的・説得的に説明する
  • より良い根拠を導き出すための比較検討をして、チーム全員が納得する結論を出す

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まとめ

課題が発生した際は、ダブルダイヤモンドを活用することで、問題の本質を理解し、的確な解決策を見つけることができます。ダブルダイヤモンドでは、課題解決に向けて4つのステップを進める必要がありますが、4つのステップを繰り返し行うことで、より正確な解決策が導き出せるでしょう。

また、使い手に寄り添った思考である、デザイン思考やそのフレームワークである「ダブルダイヤモンド」は、多様化する社会において、大きなイノベーションを生み出す可能性がある、非常に有用な思考手法です。ダブルダイヤモンドを用いる際は、「人間中心」であるといった本質を忘れずに活用しましょう。

 

あそぶ社員研修」は、受講者全員が没入して取り組むアクティビティと専門講師の講義・振り返りをブリッジすることで、翌日から業務で活用できる知識・スキルが身につく研修プログラムです。

アクティビティが受講者の主体性を高めてコミュニケーションを促進させ、スキルアップやチームビルディングをはかれます。

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この記事の著者

あそぶ社員研修編集部

あそぶ社員研修は、企業の研修担当者向けのお役立ち情報を発信するメディアです。研修に関するノウハウ、組織・人材開発の手法、ビジネススキルなどをわかりやすく紹介します。

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