アサーティブコミュニケーションとは?メリットやスキルの高め方を紹介

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仕事を円滑に進めていくためには、ほかの社員や外部の関係者とのコミュニケーションが欠かせません。コミュニケーションに関するさまざまな課題を解決する方法として、近年「アサーティブコミュニケーション」という手法が注目されています。

本記事では、アサーティブコミュニケーションとは何か、自己表現の3つのスタイル、アサーティブコミュニケーションのメリットと、アサーティブコミュニケーションスキルの身につけ方、アサーティブ・コミュニケーションの4つの柱について、わかりやすく紹介します

 

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アサーティブコミュニケーションとは

英単語のアサーティブ(assertive)には、「積極的な」「自己主張する」などの意味があります。しかし、アサーティブコミュニケーションとは、一方的に自分の意見を主張することではありません。相手の考えや思いを尊重しながら、自分の考えや気持ちを表現したり、主張したりすることをいいます動機づけや、心理的安全性の確保にもつながるコミュニケーションのとり方です「アサーション」と呼ばれることもあります。

たとえば、相手に何かやってほしいことがあるとします。相手との関係性にもよりますが、ただ「あれをやってほしい」と、こちらの思いだけを伝えても、相手はすぐに動いてはくれないでしょう。動いてくれたとしても、「なぜ私がやらなければならないのか」と、心のなかでは納得できていないかもしれません。「こんな理由があって、あなたにあれをやってほしい」「私は〇〇をするから、あなたは△△をしてほしい」というように、なぜやってほしいのかという理由を伝えたり、自分もやるという姿勢を示したりすることで、相手も納得したうえで動いてくれるようになります。

このように、アサーティブコミュニケーションを意識することで、相手に不快感を与えずに自分の意見を主張できるようになります。

アサーティブコミュニケーションの歴史

アサーティブコミュニケーションは、アメリカの心理学者であるジョセフ・ウォルピ(Joseph Wolpe)氏が1950年代に開発した、「行動療法」と呼ばれる心理学療法の1つです。当時は、自己主張が苦手な人や、対人関係がうまくいかず悩んでいる人たちを対象とする、カウンセリング方法として用いられていました。その後、19701980年代にコミュニケーションの訓練法として広がり、それを学んだ平木典子氏が日本に合う形に応用させ、日本でもアサーティブコミュニケーションが注目されるようになっていきました。平木典子氏は、日本の臨床心理学者で、協働のためのアサーション・トレーニングの普及開発活動や調査研究などを行っている、「日本アサーション協会」の代表も務めています。

長い歴史を持つアサーティブコミュニケーションですが、近年は従業員エンゲージメントの向上やパワーハラスメント(以下、パワハラ)を防止するための方法の1つとして、需要が高まっています

参考:「アサーティブ・コミュニケーション」(著者:戸田久美 / 出版社:株式会社日経BP / 発売:2022年)

アサーティブコミュニケーションが注目されている理由

日本人には、「察してくれないほうが悪い」というところがあります。たとえば、何か嫌なことがあるときに、相手に「嫌だ」と直接言わずに咳払いをしたり、大きな音を立ててみたりなど、遠回しなサインを出したことはありませんか? このようなサインを送っても相手に気づいてもらえないと、「鈍感だ」「なんて気配りができない人なのだろう」と、相手に対して怒りを覚える人もいます。しかし、「察することができる人=思いやりがある人」のような感覚を持っているのは日本人だけであり、これは海外の人には通用しません。

企業においては、グローバル化への対応や、ダイバーシティ(多様性)が求められる時代となっています。今後は、国籍や性別、年齢も異なる、さまざまなバックグラウンドを持つ従業員同士が協業するシーンが、ますます増えていくでしょう。「察し合う」ことが難しくなっていくなかで、日本人のビジネスパーソンには、コミュニケーションのとり方を変えていくことが求められており、アサーティブコミュニケーションが注目されるようになっているのではないでしょうか

また、働き方の多様化、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の施行などにより、リーダーやマネージャーには、より高いコミュニケーションスキルが求められるようになってきています。さらに、アサーティブコミュニケーションは、動機づけや心理的安全性の確保にもつながるため、従業員エンゲージメント向上のためにアサーティブコミュニケーションを導入する企業もあるようです。

自己表現の3つのタイプ

平木典子氏は、1993年に出版した著書「アサーション・トレーニング さわやかな<自己表現>のために」(日本・精神技術研究所)のなかで、自己表現のタイプを「非主張的」「攻撃的」「アサーティブ」の3種類に分類しています。そして、「アサーティブ」が最も望ましい自己表現のタイプであるとしています。それぞれがどんな自己表現なのか、1つずつ詳しく見てみましょう。

1.非主張的

自分よりも相手の思いを尊重しすぎて、自分の考えや意見、気持ちを十分に主張することができないタイプの人は、非主張的な自己表現に当てはまるでしょう。たとえば、上司から残業を頼まれ、予定が入っているにもかかわらず、断れずに引き受けてしまうというような場合です。または、相手にわかりにくい言い方をしてしまう人も、このタイプに含まれます。自分の気持ちを表に出せないと、心のなかに不満がたまっていき、相手に対しても不満を持つようになります。

このタイプは、「ノンアサーティブ」とも呼ばれます。特徴としては、引っ込み思案、消極的、自己否定的、他人本位などが挙げられます

2.攻撃的

自分のことばかりを考えて相手のことを尊重しない人や、はっきりと自己主張はするけれど相手の話は聞かず(言わせず)、無理やり自分の意見を通そうとする人は、攻撃的な自己表現に当てはまるでしょう。たとえば、遅刻をしてきた部下に対して、その理由も聞かずに大声で叱るというような場合です。または、きつい言い方をするのではなく、相手を褒めて自分の思い通りにコントロールしようとする人も、このタイプに含まれます。相手のことをまったく考えていないので、相手は不快な思いをします。

このタイプは、「アグレッシブ」とも呼ばれます。特徴としては、強がり、無頓着、他社否定的、自分本位などが挙げられます

3.アサーティブ

非主張的でもなく、攻撃的でもなく、相手のことを尊重しながら自分の考えや意見も正直に伝えることができる人は、アサーティブな自己表現に当てはまるでしょう。コミュニケーションをするなかでは、相手と意見が合わないことも出てきます。そんなときも、我慢して相手に合わせたり、相手を言いくるめたりするのではなく、お互いに歩み寄って納得できるポイントを探るというのが、アサーティブな自己表現です。

このタイプの特徴としては、正直、積極的、自他尊重、自他調和などが挙げられます

ここまで3つの自己表現のタイプを紹介してきましたが、同じ人でも、話をする相手や、置かれた状況によってタイプが変わることもあります。自分がどのような場面でどのタイプになっているか、振り返ってみてください。

アサーティブコミュニケーションのメリット

従業員にアサーティブコミュニケーションを身につけてもらうことで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。具体的には、以下のような効果が期待できます。

職場の雰囲気が良好になる

自分の考えが正しく伝わらない、自分の意見を聞いてもらえないという状況が続くと、どんどんストレスがたまっていきます。従業員がアサーティブなコミュニケーションをとれるようになれば、お互いを思いやりながら意見を言い合えるようになるため、コミュニケーションによるストレスを軽減できます。また、相手の意見を聴くことで、相手への理解も深まるため、より良い人間関係を築けるようになるでしょう。

その結果として、職場全体のコミュニケーションも活性化し、雰囲気も明るくなります働きやすさが向上すれば、仕事もスムーズに進むようになり、業務の効率化や生産性の向上といった効果も期待できるでしょう。

従業員エンゲージメントが向上する

たとえば、部下に何かやってほしいことがあるとき、一方的な指示を与えるだけでは、「よし、やるぞ」とモチベーション高く取り組める人は、あまりいないと思います。また、部下の気持ちを尊重しすぎてわかりにくい指示を出せば、伝えるべきことが正しく伝わりません。部下に指示を出すときも、アサーティブコミュニケーションを意識することで、「何を、なぜやらなければいけないのか」が正しく伝わるようになり、モチベーションも引き出しやすくなります。

また、職場のなかにアサーティブな発言ができる人がいると、「自分も主張していいんだ」という空気が生まれ、従業員の心理的安全性も高まります。

モチベーションも心理的安全性も、従業員エンゲージメントを向上させるために欠かせない要素です職場のなかでアサーティブなコミュニケーションができる従業員が増えれば、従業員エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。

アサーティブコミュニケーションの身につけ方

アサーティブなコミュニケーションがとれるかどうかは、生まれ持った性格で決まるものではありません。アサーティブコミュニケーションは、トレーニングで鍛えられる「スキル」です。コミュニケーションをアサーティブなものに変えていく取り組みは、アサーティブトレーニング(または、アサーショントレーニング)と呼ばれています。これを実践することで、誰でもアサーティブコミュニケーションを身につけることができます。

ここからは、アサーティブコミュニケーションのスキルを高める方法を紹介していきます。

DESC法」を実践する

DESC(デスク)法とは、自分の考えや意見を、4つの段階に分けて主張するというコミュニケーション技術のことですDESCは、以下の4つの頭文字をとったものです。

  1. Describe(描写する)
  2. Express(説明する)
  3. Suggest(提案する)
  4. Choose(選択する)

「打ち合わせの約束をしている相手が、予定時刻を15分過ぎてもやって来ないため、電話をかけることにした」という場面に当てはめて、具体例を見てみましょう。

1.Describe(描写する)

まずは、事実(状況や相手の言動)を客観的に、かつ具体的に描写します。この部分には、憶測や自分の気持ち、意見などは入れてはいけません。

(例)「本日〇〇時より打ち合わせのお約束をさせていただいていますが、予定時刻から15分過ぎています。」

2.Express(説明する)

次に、自分の気持ちや意見をアサーティブに相手に伝えます。

(例)「私はこのあと△△時より別の予定が入っており、間に合うかどうか心配になっています。」

3.Suggest(提案する)

次に、自分が相手に求めていることを伝えます。命令や誘導をするのではなく、相手が「察して」くれるのを期待するのでもなく、具体的な提案をしましょう。

(例)「こちらに着くまでに、あとどれくらい時間がかかるか教えてください。」

4.Choose(選択する)

あなたの提案に対して、相手は何かしら反応を返してくれるはずです。その相手の反応に対して、行動を選択します。このとき、相手があなたの提案に対して「ノー」を返してくる場合もあります。「ノー」が返ってきたら、Suggest(提案する)に戻り、次の提案をしてみましょう。

(例)※相手が「イエス」を返してきた場合

  • 相手「申し訳ありません。あと5分程度で着きますので、もう少々お待ちいただけますでしょうか」
  • あなた「承知いたしました。お気をつけてお越しください。」

(例)※相手が「ノー」を返してきた場合

  • 相手「申し訳ありません。もう少々お待ちください。」
  • あなた「〇〇時××分を過ぎるようでしたら、日を改めさせていただけないでしょうか。」

非言語のコミュニケーションも大切にする

コミュニケーションとは、言葉や文字を使ったものだけではありません。相手と良好な関係を築くためには、非言語のコミュニケーションを意識することも大切です。平木典子氏は、非言語のアサーション(アサーティブコミュニケーション)の要素には、視覚的なものと聴覚的なものがあるとしています。

  • 視覚的なもの……視線、表情、姿勢、動作、人同士の距離、服装など
  • 聴覚的なもの……声の大きさ、話すスピードやテンポ、明確さ、余分な言葉(例:あのー、えーっと)の有無、反応するタイミングなど

ほかにも、文化の違いや感情表現などがアサーション(アサーティブコミュニケーション)に影響することもあります。コミュニケーションをとるときは、どうすれば相手にアサーティブな印象を与えられるのかを考え、言葉だけでなく、非言語の部分にも気を配りましょう。

参考:27 アサーショントレーニングの理論と実際 – 一般社団法人 日本学校教育相談学会 JASCG(PDF) 

アサーティブコミュニケーションの4つの柱

近畿大学総合社会部総合社会学科教授で、アサーティブジャパン認定講師でもある堀田美保氏は、2019年に出版した著書「アサーティブネス」(ナカニシヤ出版)のなかで、アサーティブなコミュニケーションを支える柱として、「誠実」「率直」「対等」「自己責任」の4つを挙げています

  • 誠実……自分に正直になれば、相手に対しても誠実になれる。
  • 率直……遠回しな表現ではなく、ストレートな言葉で相手に伝える。
  • 対等……対等な気持ちと態度で相手に向き合う。
  • 自己責任……自分が言ったこと、言わなかったことに責任を持つ。

先ほどお伝えしたように、アサーティブコミュニケーションは、誰でもトレーニングにより高めることができるスキルです。しかし、やはりコミュニケーションで一番大切なのは、「心」です。この4つの柱を意識することで、自然とアサーティブなコミュニケーションがとれるようになるでしょう。

まとめ

アサーティブコミュニケーションとは、自分のことも相手のことも尊重したコミュニケーションのとり方のことです。グローバル化の進展やダイバーシティの推進により、日本人が得意としてきた「察し合うこと」が難しくなってきています。さまざまなバックグラウンドを持つ従業員同士が協業していくためには、コミュニケーションのとり方をアサーティブに変えていく必要があるでしょう。また、従業員エンゲージメントの向上や、パワハラを防ぐための方法の1つとして、アサーティブコミュニケーションを導入する企業もあるようです。

アサーティブコミュニケーションは、生まれつきの性格にかかわらず、トレーニングにより誰でも身につけることができます。しかし、コミュニケーションで一番大切なのは「心」です。コミュニケーションをとる際は、本記事でも紹介したアサーティブコミュニケーションの4つの柱を、まず意識してみてください。

参考:特集 アサーティブ・コミュニケーションが従業員エンゲージメントを高める効果(古谷 一憲、矢本 成恒)(PDF)

 

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この記事の著者

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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